第5話 目覚め(3)side如月姫乃

「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


 私の目の前で、雷撃が直撃した大和君が倒れた。

 誤算だった。

 完全に失態だった。

 応援を呼ぶべきだった!


「これで邪魔者はいなくなりましたな。異能組織エデンが誇る『アルテミス』殿。おやおや、かの女傑の泣き顔が見えるとは!!これは良い置き土産ですな!!」


 嫌悪感を抱く笑顔で男が笑う。


「さて、次はいよいよ貴方の番だ!これで私は幹部になれる!!この『雷撃』のミハエルがなぁ!!」


 男がゆっくりと近づいて来る。

 どうしてこうなってしまったのか・・・

 走馬灯の様に思い出された。

 全ての始まりは、あの日からだったと・・・



「えっ!?転校ですか!?」


 高校1年生の修了式を終え、春休みに入ったその日、私は異能犯罪から世界を守る組織『エデン』の長に面会していた。

 エデンの長は、見た目は小学生位の可愛い女の子に見えるけれど、噂では数百年を生きる者だとの事だ。

 それが事実かは私には分からないけれど、常人には計り知れない、超然とした雰囲気があるのは間違いない事だ。


 なので、いつも私は、長と面会する時には緊張していたが、今回はそれどころでは無かった。

 新たな任務かと思っていたけど、突然の転校話に驚きを隠せなかったのだ。


「そうだ。君には狼山高校に行って貰う。」

「何故です?」

「おや?友達と別れるのが悲しいのかね?」

「・・・お戯れを。私に親しい友人などおりません。」


 そう、私に友人はいない。

 過去に遭った出来事のせいで、私は友人と必要以上に親しくするのを止めた。

 表面上は、お嬢様然として応対しているけれど、相手を親しい者のスペースまでは踏み込ませていない。

 理由は言うまでも無い。

 危険だからだ。

 私が、ではなく、親しくなった者が、だ。


 私は、これでも、エデンの中で最上位の実力を誇り、名も知られている。

 コードネームとしてつけられた『アルテミス』という名は、その筋の世界では、知らない者はいないと思っている。


 そんな私に、突然の転校話。

 眉をひそめるには充分だ。


「ああ、悪いけれど、お願いするよ。」

「理由を教えて下さい。」

「そうだね・・・『神託』が下ったんだ。」

「『神託』が!?」


 長は、『神託』という異能を保持している。

 どのように下るかはわからないが、この先の未来とその対処を的確に予言するため、神の意思=神託と名付けられている。

 その神託が下ったらしい。


「うん。『神託』では、その学校に私達のエース・・・つまり、救世主的な物が現れるらしい。」

「・・・エース・・・」

「で、君には彼を見つけて、異能が目覚めるまでの補助と、勧誘をして貰いたい。」

「・・・何故私なのでしょうか。他に、潜入に適した者もいると思うのですが・・・」

「おや?自信がないのかい?」

「はぐらかさないでください!」


 事実、潜入に適した異能を保持する者も、エデンの中には何人もいるし、歳が近い者もいる。

 にも関わらず、戦力足り得る私を補助に回すのはせない。


 問い詰める私に、長は、


「今は言えない。時が来たらわかるだろう。」


と言った。

 その雰囲気はとても反論できるものでは無かった。


「・・・それも『神託』なのですか?」

「そうだね。それでは彼の名を教えよう。その名は・・・」


 それが大和健流だった。

 写真を見せられたが、別段これと言って、特徴が見受けられない。

 しいて言えば、容姿の割に、目がキツイ感じがする位だ。

 私が写真を見ていると、長が、


「何?一目惚れかい?」


 とからかってくる。


「そんなわけ無いじゃないですか。私は色恋など、どうでもいいのです・・・仇を取るまで、そんな者は入りません。」


 私は真顔で返した。 

 すると、長は、苦笑しながら、


「そうか。まぁ、それならそれで良いけど、その男の子を良く見ておきなさい。将来的には、君の相棒とする予定だ。」

「相棒・・・」


 そうして、面会を終え、転校の準備を済ませ、進級する日から狼山高校に通学し始めた。


 なんの偶然か、私の席はくだんの大和健流の隣の席になった。


 観察していてわかった事。

 それは、彼はとても不思議な男の子だと言うことだった。


 自慢では無いが、私の容姿は優れている。

 そして、演技もバッチリの筈だ。

 これまで、私に見惚れなかった男性はあまりいなかった。


 しかし、彼は違った。

 まったく興味がなさそうだった。

 まるで、綺麗な女性を見慣れているように・・・


 だけど、それは私には好都合だった。

 将来の相棒となる者から、恋愛感情を寄せられては困る。

 私には、そんな事に費やしている時間は無いのだ。


 観察を続けていくと、彼には親しい友人が二人いるのに気づいた。

 瀬川充と黒瀬光。

 この二人はいつも大和健流と一緒だった。


 特に、黒瀬光は、恋愛に疎い私から見ても、大和健流を好きなのだろうとわかる位だった。


 正直、心苦しい。

 これから、彼を殺伐とした世界に、引きずり込まなければ行けないのだから。

 その結果、彼女とは距離を置いて貰う必要もあるかもしれないし。


 観察を始め一週間位たった日、私は下校中に不自然な動きをしている者を見つけた。

 明らかに、動きが一般人では無かった。

 後を追うと、そこには犯罪異能組織『ギガンテス』の幹部とその部下20名がいた。

 幹部は名の知れている能力者だった。

 彼らは、テロを起こそうと準備中のようだ。

 

 両親の事を思い出す。

 憎い・・・異能をテロに使うような彼らが憎い。


 私は、エデンの最高戦力の一人として、独立裁量を持っている。

 エデンに連絡だけして、すぐに彼らと戦闘を開始した。


 私に宿る異能『月光げっこう』はかなり強力な異能だ。

 その能力は、視界に映る空間に干渉する力。

 

 簡単に言えば、視界に収めている限り、発火や凍結、強風などの現象を起こしたり、モノにもよるけれど、相手の異能を打ち消したり出来る。

 かなり柔軟な能力だ。

 当然、使う力によっては消耗は激しくなるが、相手が幹部であっても、そうそう遅れは取らない。

 

 激しい戦闘の後、幹部が逃走を始めた。

 私はそれまでに敵の部下を一掃したので、すぐに追跡を開始する。

 この時、応援を呼ぼうか迷ったけど、相手は一人で、能力も知れている。

 後で良いと思った。

 それよりも、悪い異能使いである男を、早く処断したかった。

 そして、この場所に来たのだ。


 幹部は仕留める事が出来た。

 しかし、反撃で腹部を負傷した。

 

 傷自体はそこまで重くない。

 安堵したが、それが行けなかった。

 

 棒立ちになっていた私に、何かが飛来する。

 能力を使用しすぎて消耗していた私は、回避を選択したけれど、かわしきれずかすってしまった。


 飛来した物を見ると、装飾がなされた小さな短剣だった。

 大した傷じゃない。

 ホッとした瞬間、身体を言いようのない感覚が包む。

 頭がクラクラして、動けなくなってしまった。


「くくくっ。まさか、あの『アルテミス』を狩ることが出来るとは・・・私は運がいい。」


 そこにあの男が現れた。

 

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