第4話 目覚め(2)

 大和が目がを覚ますと、そこは病院だった。


「いててて・・・」


 動こうとすると、体中が痛む。


「おお、目が覚めたか。」


 大和が声がした方を見ると、そこには高齢の医者と思しき人がいた。


「ここは・・・どこだ?」

「ここは、個人医院じゃ。ワシはそこの院長じゃ。」

「俺は・・・」

「ああ、気にしなくて良い。お前さんを運んだのは知り合いじゃ。治療費は・・・まぁ初回じゃしの。サービスじゃ。」


 院長はそう言って笑った。


「いや・・・金は必ず返す。貸しは嫌いだ。」

「ほう。生意気な小僧じゃて。ま、お前さんがそれでいいならそれでいい。生意気な小僧は嫌いじゃないしの。」

「俺を助けた奴は・・・どこにいる?」

「知りたいのか?」

「さっき言ったろ。貸しを作るのは嫌いだ。」

「ひょほほ。面白い!じゃあ教えてやる。」


 大和は助けてくれた男の子の居場所を聞いた。

 と、言っても、その子の通う中学校であったが。


 大和は、身体が動く様になってすぐに、その子の学校の前で張り込んだ。

 道行く生徒にジロジロ見られるが関係なかった。

 

 男の子は出てきた。

 女連れだった。

 身体のそこら中に包帯を巻いていた。

 その怪我は、大和を助ける時に負った物だとすぐにわかった。

 

 女の子の方は、驚くほどに可愛かった。

 だが、大和にはそんな事よりも大事な事があった。


「おい。」

「ん?誰…って君は・・・」

「あなた何?こいつに何か用?」

「うるせぇ。女は黙ってろ。」

「はぁ?何言ってるのあなた。」


 女が睨みつけて来た。

 一瞬身体が震えたが、気合を入れて無理やり平静を保つ。


「俺が用があるのはそっちの男だ。お前は関係ねぇ。」

「・・・あなた・・・」


 大和は、女からの圧力が増した気がした。

 なんだこの女は!?と、大和は尻込みしそうになる。

 しかし、そこに、


「いいよ。話しを聞く。先に帰ってて?」

「・・・はぁ。わかったわよ。」


 男の子が、女の子に先に帰るよう促す声が聞こえた。

 大和はホッとして女の子が帰るのを見送った。


「で、何か用なの?怪我は大丈夫?」

「(こいつ・・・自分も怪我してるのに人の心配かよ・・・)ああ、大丈夫だ。それよりもちっと付いて来てくれねぇか。」

「いいよ。」


 大和は男の子と二人で歩く。

 着いたところは、人気の無い広場だった。


「先に礼を言っておく。助けてくれて助かった。だが、俺も男だ。情けない姿を見られただけじゃメンツがねぇ。どうか喧嘩を買って貰えねぇか?」


 大和は、自分が無茶な事を頼んでいる自覚があった。

 命の恩人に何をしているのだ、と思った。

 しかし、それでも、そうせざるを得なかったのだ。


「・・・うん。いいよ。」

「えっ!?良いのか!?」

 

 その回答は大和を驚かせるものだった。

 

「だって、それが君には必要なんでしょう?」

「・・・助かる。じゃないと前に進めねぇんだ。」

「わかった。その代わり、勝負内容は僕が決めるよ?」

「構わねぇ。」

「よし、じゃあ、負けを認めるか、立ち上がれなくなるまで、これで行こう。」


 そして、大和と男の子は立ち会った。

 決着はあっさりしたものだった。

 大和は、男の子に数発で負けたのだ。


「くそっ!」

「これで僕の勝ちだね。今日は。」

「・・・今日は、だと?」

「うん。君はまだ負けを認めて無いでしょ?だから明日もこの場所で、どうかな?」

「望む所だ!」


 こうして、大和は毎日男の子に勝負を挑んだ。

 大和は毎日負けた。

 次の日からは女の子も側で見ていた。

 顔色一つ変えずに大和達が戦うのを見ている。


「(この女も普通じゃねぇ・・・)」


 10日が過ぎた頃だった。

 負け続けた大和が、男の子に質問をした。


「お前・・・なんでこんなに強くなったんだ?」

「うん?僕はね。僕の意思を貫けるように強くなったんだ。誰かに無理を強いられたり、自分が助けたい時に助けられるようにね。その為に努力したんだよ。」

「・・・そうか。」

「だから、君はとても勿体ないよ。それだけの根性と意思があれば、絶対に格好良い男になれるし、強くなれると思うんだ。君がどんな人生を歩んで来たかはわからない。でも、ただ、周りに反抗しているだけじゃ、君は幸せにはなれないし、格好悪いままだ。信念を持つと良いよ。自分の意思・・・それも、間違っている事に屈さない、強い意思を持てれば最高だと、僕は思うよ。」


 そう言って笑う男の子を見て、


「(勝てねぇ。でけぇ男だ…こんな風になりてぇ!)」


と思った。

 だから、大和は決断した。

 

「・・・今日までありがとうございました。これからも指導よろしくお願いします・・・兄貴」

「いっ!?止めてよ!土下座なんかしないで!!それと兄貴って何さ!?」


 男の子は大和が見てから、初めて年相応に狼狽する姿を見せた。

 大和は思わず笑ってしまった。

 

 そして、顔を上げた後、隣の女の子にも頭を下げた。


「兄貴との時間を邪魔して悪かった・・・あねさん。」

「誰が姐さんよ!!私は極道の女じゃ無いわよ!!」


 大和は思い切り頭を小突かれた。

 その威力に大和は戦慄した。


「(痛ってぇ!?全然容赦もねぇ・・・姐さんを怒らしちゃいけねぇ!!)」


 それからというもの、大和は二人に、きちんとした学生生活を教わった。

 髪を黒く染め直し、きちんと切り、言葉遣いを正し、勉強を教わった。

 そのおかげで、卒業する頃には、平均的な高校に入学する事が出来たのだった。

 これには、大和を知る色々な人が驚いた。

 手のつけられなかった不良である大和が、突然真面目になったのだ。

 教員は、まともになった大和に驚き、感激していた。

 同級生は、はじめは冷ややかに見ていたが、卒業する頃には何人かはまともに話すようになっていた。


「兄貴達に教わった事はたくさんあるが・・・一番心に残ってるのはやっぱりあの言葉だ。」


 間違っている事に屈さない信念を持て。

 今の大和の心の指標だ。


「だから、今、意地張れねぇでどうする!如月みたいな女の子が、襲われていて、助けられなくてどうする!俺はこのまま死んでなんかやらねぇ!死んでたまるか!!」


 大和は気合を入れた。

 それは、今までの人生で一番の気合だ。


「死んで・・・たまるかよぉ!!俺は!如月を!助けるんだー!!」


 その時、一気に視界が晴れる。

 目の前には何か光った物があった。

 大和は本能でわかった。

 これが、この状況を打破するものだと。

 そして、大和はそれに触れた。


 光が溢れる・・・ 

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