第3話 目覚め(1)

「・・・ここはどこだ?」


 大和は周り見るが、暗闇に覆われ何も見えない。

 大和以外何もない世界だった。


「確か・・・如月が襲われてて・・・血を流してて・・・助けようとして・・・変な男に手を向けられたら突然、雷みてぇのが見えて、直撃したんだったな。」


 大和は再度周りを見る。

 そこには誰もいない。

 男達も。

 如月も。

 そして、とても冷たい世界だ。


「俺は・・・死んだのか?」


 大和は独りごちた。

 それを聞く者は、誰もいない。


「死んだのか?・・・女の子一人守れずに?」


 大和は歯を食いしばった。

 怒りにだ。

 しかし、その怒りは、殺された事に対するものではない。


「傷ついた女の子を守れずに死ぬのか!?それで俺の信念は守れているってのか!?んなわけねぇだろ!!」


 大和は周りを睨む。

 これは、おそらく大和を死の世界に連れ去るものだ。

 本能的にわかった。

 

 実は過去にも大和は死にかけた事がある。

 中学生の時、粋がっていた大和は、そこら中に喧嘩を売って回っていた。

 そして、名が売れた頃、大きなしっぺ返しを食らったのだ。


 高校生の不良グループに囲まれ、人気の無い所に連れて行かれた。

 大和にとっては、連れて行かれた認識は無かった。

 むしろ、全員倒してやると意気込んでいた。


 しかし、相手が連れ込んだ先の廃倉庫には、20人位の不良達がいた。

 それも、全員鉄パイプや木刀を持っていたのだ。


 大和は奮戦した。

 しかし、多勢に無勢だった。

 頭部を硬いもので殴られ、意識が飛びかけた時に、袋叩きにされた。


 朦朧とする意識の中、「俺・・・死ぬのか?」という考えが浮かんだ時だった。


「あの〜何してるんですか?」


 間延びした声が聞こえた。

 視界が揺らぐ中、見えたのは自分と対して歳が変わらない、中学生位の男だった。

 

「見てわかんねぇのか!?さっさと消えねぇとてめぇも同じ目にあわせんぞ!!」


 男達の凄む声が聞こえた。

 大和は思った。

 ああ、見捨てられるんだろうな、と。


 しかし、違った。

 その男の子は、


「ああ、弱いものいじめをしていたんですね。格好悪いなぁ。」


 不良達を煽ったのだ。

 当然男達は激怒した。

 そして、男の子に襲いかかった。


 視界は既に跡切れ跡切れだが、何かを殴る音や、怒号が聞こえるので、男の子がリンチにされているのは間違い無いだろう。

 悪い事したをしたな・・・大和はそう思った。


 どれくらいたったかわからない。

 ふと、意識を戻すと、そこに、


「な、なんなんだてめぇは!もう良いだろ!?どっか行ってくれよ!!」


 という声が聞こえて来た。

 薄目を開けるとそこには・・・倒れ伏す男達と、ガタガタ震えるリーダーと思しき男。

 それと、自分のアザと怪我で血まみれになりながらも、しっかりと立っている男の子だった。


「関係ないだろうお前には!こいつはお前の知り合いでもねぇって言ったじゃねえか!だったらもういいだろ!?なんで、そんなボロボロになって助けるんだ!?」

「関係ないよ。僕が助けたいと思ったから助けるんだ。彼の事情もあんたの事情も関係ないね。」

「訳わかんねぇ!もう勘弁しろよ!」

「やだ。」


 男の子は、リーダーの懐に飛び込むと、何か凄い音を立てて踏み込み、そのまま掌底のようなので、リーダーをふっ飛ばした。


「ふぅ。」


 男の子は息を整え、身体を引きずるように大和に近寄る。


「大丈夫?」


 そう話しかける男の子。

 大和は、自分をとても情けなく思った。

 みじめだった。


「お前・・・には・・・関係・・・ねぇ。」


 だから、そんな言葉が出た。

 言っていて大和は泣きそうになっていた。

 命の恩人に、こんな言葉しか言えない事が情けなさ過ぎて、だ。


「そっか・・・なら、勝手にするよ。よいしょ。」

「お・・・い?」


 男の子は、大和を背負った。

 大和は狼狽する。

 あんなに酷いことを言ったのに、この男の子は大和を助けようとしていた。


「何・・・しや・・・がる?」

「勝手に助けるのさ。僕の勝手でしょ?」


 大和は、男の子の優しさに涙が出た。

 思えば、親からも見捨てられていた大和は、他人から優しくされた覚えはほとんどない。

 男の子の暖かい背に背負われて、大和は段々と意識を失っていった。


 自然と口元は笑みの形になっていたのに気づかずに・・・

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