第2話 急転直下

 2年生となって一週間が立った。

 授業は何事も無く進み、如月人気も衰えぬままだ。


「如月さん凄いね〜!モテモテだよ?モテモテ!」

「なんで2回言ったんだ?」

「べっつにー?でも、大和はホント変わんないよね〜!」

「なんで変わる必要があるんだ?」

「ん〜ん?変わんないで欲しいな〜!」

「わけわからん。」


 そんな会話をしている二人を見る影があった。

 それは、くだんの如月だった。


「あの二人は仲が良いのですね?」

「そうなんだよ。あの二人は一年生の時から仲が良くてさ!」

「なんで黒瀬みたいな可愛い子が、大和みたいな冴えない奴にべったりなのかはわかんないんだけどね!」


 如月の問いに、周りの男子が嬉々として答える。


「そうですか・・・」

「そうそう!それよりもさぁ・・・」


 周りの男子は気づかない。

 如月の表情が少し陰った事に・・・


 放課後となり、下校時間。


「大和!一緒に帰ろう!」

「悪い。今日バイトなんだ。」

「え?大和アルバイト始めたの?」

「ああ、ちょっとな。」

「う〜ん・・・じゃあ仕方がないね。また明日!」

「おう!また明日な。」


 大和は春休みからアルバイトをしていた。

 そのアルバイトは、昔のツテを頼ったもので、ちょっと学校には言いづらい・・・と言うか、言えないバイトだ。

 何せ、大和がやっているのはバーテンダーなのだ。

 言えるわけが無い。

 大和は急いでアルバイト先に向かった。


 時刻は午後10時。

 アルバイトを終え帰宅途中の大和。

 

「あ〜・・・バイトやっと慣れて来たかな。でもだるい・・・」


 トボトボと歩く大和が、路地を通りがかった時だった。


「・・・の!・・・でしょ!!・・・!!」

「ん?」


 男女が言い合っている声が聞こえて来る。

 

「痴話喧嘩か?」


 放って置いて帰ろうとも考えたが、もし、大事になって、明日ニュースにでもなっていたら寝覚めが悪い。


「仕方ねぇ・・・」


 大和は様子を見る事にした。

 もし、まずそうな状況であれば、警察に通報する位はしてやるか。

 そんな気持ちで、路地裏に入って行く大和。


 ここが、境目だった。


「・・・達!・・・でしょ!!」


 女性の大きな声が聞こえて来る。

 何か切迫している様にも聞こえた。


「おいおい・・・嘘だろ?」


 大和はそれどころじゃ無かった。

 なんとなく、聞き覚えのある声だったのだ。

 急いで近寄る大和、物陰からこっそり見て見ると、そこには・・・


 複数の男たちと睨み合う如月が居たのだ!


「あなた達!こんな所で戦闘なんて、何を考えているの!?」


 気丈に言い放つ如月。

 その姿は、クラスにいる大和撫子然としている姿からは程遠いものだった。


「くくく・・・あなたを仕留められるなら、どうだって良い。あの、『アルテミス』と呼ばれるあなたをな!!」


 男が悦に入った声で言った。


「(なんだあいつら?アルテミスってなんだ?それよりも・・・如月の奴、血を流してるじゃねーか!)」


 大和は驚愕した。

 如月の腹部からは血が流れ落ちている。


「(警察どころじゃねぇ!すぐに助けねぇと!)」


 大和は飛び出した。

 その大和の存在に驚く男達と如月。


「あなた・・・なんで・・・」

「てめぇら!女の子を寄ってたかって何考えていやがる!」

「・・・誰だか知らんが見られたからには消えて貰う。いけ。」


 その瞬間、周りの男達が大和に向かって行く。


「邪魔よ!逃げて!!」

「うるせぇ!女の子置いて逃げられっか!!」

「なっ・・・馬鹿!そいつら普通じゃ・・・!」


 男が大和に殴りかかった。

 大和は、ギリギリで躱す。


「(何!?いくら鈍ってたからって、こいつら早すぎる!?)」

 

 次々と殴り掛かる男達。

 何発か被弾したが、それでも大和は立っていた。


「(いってぇ〜・・・しかも、めちゃくちゃ力あんじゃねぇか!!クソッ!)」

「早く逃げなさい!私は良いから!!」

「うるせぇ!お前の方こそさっさと逃げやがれ!」

「くっ・・・」


 動こうとした如月が、腹部を押さえて動きを止める。

 

「(無理か・・・ちぃっ!どうする?)」


 男たちは攻撃を止めない。

 しかし、中々倒れない大和にしびれを切らしたか、男の内の一人が、舌打ちしながら大振りで攻撃してきた。


「(ここだ!)うらぁっ!!」


 大和はカウンターで、男の人中・・・鼻と口の間を思い切り撃ち抜いた。


「がっ!?」

「まだだ!ふんっ!」


 大和はそのまま、相手の水月・・・鳩尾に、思い切り突きを放った。

 まともに食らい、男は倒れ込む。


「・・・はぁ・・・はぁ・・・ようやく一人・・・か・・・」

「・・・嘘・・・なんの異能も無しで、強化兵を・・・」

「・・・あっ?なんだっ・・・て?」

「あ、いえ、なんでもないわ。それよりもすぐに逃げなさい!じゃないと・・・」

 

 強化兵、それは人間を薬物や科学で身体能力を向上させた兵士の事を言う。

 その力は個体差にもよるが、一般的な成人男性を遥かに越える力を持つ。

 如月は、大和に驚いた後、すぐに逃げるように言った。

 何故なら、相手を本気にさせてしまったからだ。


「・・・ほぅ。雑兵とは言え、それを倒すとは・・・ね。なら、私が相手をしてやろう。」

「まずい!お願い大和君!お願いだから逃げてよ!あいつはまずいの!!・・・くっ!」


 如月は焦った様子で大和に逃げるよう言ったが、腹の痛みで途中で遮られてしまう。


「・・・馬鹿・・・言うなよ。怪我してる・・・女の・・・子・・・残して・・・逃げられっか・・・よ。」

「・・・なんでよ!お願いだから逃げてよ!」


 如月は半分涙ぐんでいた様に大和には見えた。

 大和から見たそれは、不謹慎だが、とても綺麗に見えた。


「・・・はっ。いいもん・・・見れたぜ。心は・・・決まった。絶対、逃げねぇ。」

「・・・どうして・・・」

「どうしても・・・だ。」


 呆然とする如月に、大和は不器用な笑顔を見せた。

 言える訳が無い。

 見惚れたから守るなんて。

 そして、次に見るときには笑顔が見たいと思った。

 その為に大和は立ち塞がる。

 彼女を守る為に。


「青春はその辺りで良いかね?呪いで異能が使えないお姫さまに、普通よりちょっと頑丈な少年。こんなものに時間をかける訳にはいかんのだよ。」


 男が掌を大和に向ける。


「駄目っ!!」


 如月が焦って叫ぶ!


「さよならだ。ナイト君。」


 その瞬間、男の掌から稲光が見えた。

 大和の意識はそこで途絶えた。


「いやぁぁぁぁぁ!!」


 如月の悲しい叫び声を耳にしながら・・・

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