第2話 ログイン

 サービス開始から2週間。


 FGSの初回販売分を勝ち取ったプレイヤーたちによって、その街は2週間前のサービス開始直後と殆ど変わらない程の賑いを見せていた。


 街の中央にある高さ20mの壮大な噴水と広大な広場。この「はじまりの街」のシンボルでもある。


 この街にはまだ名前がない。なのでプレイヤーからは便宜上「はじまりの街」と呼ばれる。


 そのはじまりの街の中央広場、プレイヤーたちのログイン場所になっているこの場所はかなりの広さがある。陸上競技場2つ分、いやそれ以上か。


 そんな広大な広場には今でもプレイヤーがあちこちで集まっている。互いに談笑する者、急ぎ広場を出て街の中へ走り去っていく者、パーティー探しをする者など、それぞれのプレイを楽しんでいる。


 そんな賑わいを見せる中央広場も、ふとプレイヤーのログインが止んで閑散とした雰囲気に包まれた。


 そして、そんな中、広大な中央広場の一角に丸い4つの光が現れる。


 光は徐々に高さを増し、人の背丈ほどにまでになると薄くなり消えていく。光が消えたあとには特徴的な姿をした4人のプレイヤーが現れた。



熊の大剣使い

「おお、やっと来れた。うわっ、すっげーな」


緑色の魔女 

「ほんとう、すごくきれい。プロモーション映像と同じだね」


双剣使い

「すごいけど、お前、待たせ過ぎだって。どんだけ時間かけてんだよ」


緑色の魔女 

「え、だって、キャラ設定だよ。時間かけるに決まってるじゃん」


双剣使い 

「お前な、だからって何十分も待たせんなよ」


緑色の魔女 

「あんたがそれ言いう? 配信前日に急な海外出張決めてきたの誰よ、おかげで2週間も出遅れて」


双剣使い 

「それは俺のせいじゃねえよ。あの馬鹿上司のせいだろ。それでも事前にキャラぐらい決めて来い」


緑色の魔女 

「一度決めたら簡単に変えられないんだから慎重になるでしょ?ねえ」


うさ耳僧侶 

「わたしはしっかり決めといたし?」


緑色の魔女 

「ちょっと、なに、わたしだけ除け者?」


熊の大剣使い 

「どうせ、ナビゲーターのイケメン騎士様に見惚れてた系だろ?」


うさ耳僧侶 

「あ~、あり得るわ~それ」


緑色の魔女 

「な、ないわよ、ちょっとカッコよかったけど。あんたこそ金髪美女に鼻の下でれ~んと伸ばしてたんじゃないの?」


熊の大剣使い 

「お、おま、ばっかじゃねえの。AI相手に、なんで俺がときめくんだよ」


緑色の魔女 

「え? うそ。 なんか、ごめん」


熊の大剣使い 

「ちょっと、まじでお前…」


うさ耳僧侶 

「まあ、趣味は人それぞれってことで」


熊の大剣使い 

「おい、いい加減にしろよ、お前ら」



4人パーティーの初ログイン会話は続く。


双剣使い 

「そう言えば、キャラ設定の時にもう一人いたよな。なんか海賊っぽいの」


うさ耳僧侶 

「あ、いたいた。なんかじっと見られてるみたいで、恐くてそっち向けなかったよ」


緑色の魔女 

「え? あれって置物じゃなかったの? 全然動かなかったじゃない?」


熊の大剣使い 

「ん〜、そんなのいたか?」


緑色の魔女 

「まあ、あんたは美女にしか目がいってなかった系だから論外」


熊の大剣使い 

「……」


双剣使い 

「結局、あれ何だったんだろうな……」


熊の大剣使い 

「そんなことよりもさ、ほら、俺の大剣見てくれよ。こんなの振り回してたら嫌でも目立っちまうよな」


緑色の魔女 

「話のすり替えが露骨なんだけど……」


双剣使い 

「お前、それって、どう見てもあの漫画に影響されてるだろ……」


熊の大剣使い 

「はっは、何を言われようが、大剣を振り回して敵をなぎ倒すのは男のロマンだ。俺はこれで突っ走るぜ」


双剣使い・緑色の魔女 

「はいはい」


うさ耳僧侶 

「ねえ、わたしのも見てよ、この法衣と錫杖。雰囲気出てるでしょ?」


双剣使い 

「ま、いいんじゃね? それっぽいし」


緑色の魔女 

「まあ、確かに。いかにもってオーラ出てるわよね」


熊の大剣使い 

「俺の大剣の比ではないがな。ハハハ。俺のほうが目立つ」


双剣使い 

「いや、大剣よりも厳つい熊の獣人ってほうが目を引くだろ」


緑色の魔女 

「それ言えてる~」



 4人は自分たちの姿や装備を見比べてはワイワイと楽しそうにしている。


 しばらくすると彼らの傍に1つだけ光が現れ、1人のプレイヤーが姿を現した。4人は各自ステータスチェックなどをしながらも自然とそのプレイヤーに目が行く。



熊の大剣使い 

「なあ、あのちっせえ奴、なんであんな格好してるんだ?」


双剣使い 

「あれな。実は俺も気になってた。どんなキャラ設定したらあんな格好になるんだろうな」


うさ耳僧侶 

「ちょっと、聞こえるわよ。悪いじゃない。気にはなるけど」


緑色の魔女 

「でも、めちゃくちゃステ高いってこともあるんじゃない? ほら、初期装備分を犠牲にして全部ステ振りしたとか……無茶すればできるかもって情報にあったじゃん」


双剣使い 

「いやいや、それやるとかなりハードモードになるって話だったろ。それにβテスターの事前情報では初期装備の性能がやたら高いって評判だったしな。装備なしとか有り得ねえよ」


緑色の魔女 

「じゃあじゃあ、あんな見かけで高性能な服とか?」


熊の大剣使い 

「う~ん、でもあんな気の抜けたデザインあったか?」


双剣使い 

「ねえよ、あんなの。おっさんの部屋着じゃねえんだから。あったって誰が選ぶんだよ」


熊の大剣使い 

「ハッハッハ、そりゃそうだ」


うさ耳僧侶 

「もう、だから、聞こえちゃうって、フフ」


双剣使い 

「お前も笑っちゃってんだろう」


緑色の魔女 

「あ、ほら、もう、こっち見たよ… あ、逃げてった。って、遅っ」


熊の大剣使い 

「…なあ、あれって、走ってるんだよな」


双剣使い 

「走ってるフォーム…だな」


熊の大剣使い 

「なんであんなに遅いんだ? 隣の子供NPCに歩いて抜かれてんぞ」


緑色の魔女 

「うふっ、本当だ。なんか、わかんないけど、ちょっとかわいくない?」


熊の大剣使い&双剣使い&うさ耳僧侶 

「「「そうか?」」」



 ◆◆◆◆



 時を遡ること30分前。


 FGS機器到着日、昼食を済ませて初ログインした僕は意識が薄らいでいき、気が付くとうちのリビングほどの大きさの部屋の中央でソファーに座っていた。


 正面の壁には見たこともない空白だらけの世界地図が描かれている。こういう地図を見ると妙に冒険心を刺激され自然と気分も高揚してくる。開発者の人、なかなか分かっていみたいだ。


 周りを見渡すと、左右にはびっしりと敷き詰められた本棚や調度品。

 本棚から連想されるのは魔法や錬金術、ポーション調合などなど。ファンタジーには必須だよね。


 正面の世界地図からはまだ見ぬ世界への憧れを抱かせ、大量の本や調度品からはそこにあるだろう知識と英知を感じさせる。うーん、いいね。


 この部屋一つとってもこのFGSへの期待感は大幅にアップするな。


 そんなことを考えながら後ろを振り返ると、そこには部分部分が細かな細工で飾られた木製のドアがあった。ずっしりとしてとても重そうなドアだ。


 そこから誰かが入ってくるんだろうとしばらく見ていたが、誰も入ってこない。さらにしばらく待ってみたが誰も来ない。



「部屋に僕一人って、なんの冗談だよ……おわっ」



 諦めて前に顔を向けると、さっきまで誰もいなかったはずの世界地図の前にいつの間にか個性的な姿をした三人が並んでいた。


 って、無音で急にそこにいるとか勘弁してほしいんだけど。…もしかして僕が見てなかっただけ?



 目の前の三人は僕を見つめているようだ。


 中央には西洋のモデルさんのような天使風美女。

 その左には輝く鎧と大きな剣を纏った中世ヨーロッパ騎士風のイケメン男。

 右には黒い眼帯に黒のバンダナ、全身黒々とした服装の海賊風マッチョ男。


 僕が三人を順番に見渡し終えると、そのタイミングを見計らったかのように真ん中のモデル美女が僕に手を振ってくる。輝くような笑みを浮かべて。


「ようこそ、FGSへ。わたしたちはあなたを心より歓迎します」


 あ、やばい、まさかこんな美人さんが相手だなんて…


「あ、は、はい、よろしきゅ………お願いします…」


 苦手な美人さんを相手にコミュ障が炸裂し、盛大に噛んで僕のFGSの冒険が始まった。



――――――――――――――

◇達成したこと◇

・モデル美女に挨拶

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