第3話 キャラ設定
か、噛んだ。VRでも噛むのか、僕は…
目の前のモデル美女が眩しい笑顔で話してきたせいで、コミュ障の僕は緊張して盛大に噛んでしまった。
「わたくしは、『アマデウス』と申します。まず、あなたのお名前をお聞かせいただけますか?」
そんなかわいらしい笑顔で…
アマデウスさんという目の前の美女は、僕が噛んだことには全く触れずに澄んだ声で話を進めてくる。これ逆に恥ずかしいんだけど。
ピコン
そんなことを思ってウジウジしている僕の目の前に、無機質なSEとともに現れる名前入力フォーム。
これも、なんかなあ。さっさと決めろよって感じで気圧されるよな。
まあ、そんなこと言っても実のところ名前は既に決めてあったりする。
『スプラ』
僕は入力して決定する。双葉は英語でスプラウト。だからスプラ。
「はい、では『スプラ』さん、よろしくお願いしますね。では、名前が決まったところでキャラクター設定に進みましょっか」
金髪美女のアマデウスさんがかわいらしく首を傾げると、今度は左にいたイケメン騎士が深緑色の髪をかき上げる。
「じゃあ、ここからは僕が担当だ。僕はコリンズ。よろしくね、スプラ君」
「あ、はい…」
なんかイケメンが自然な距離の詰め方をしてきたんだけど。
まあ、世の中こういうのが女子にモテるんだろうな。僕には無理な世界だ。
「じゃあ、これから僕と一緒に君のキャラクター設定をしていこう。まずは種族から順に聞いていこうかな」
「あ、種族は『エルフ』でお願いします」
エルフはどんなゲームでも素早さ重視と相場が決まっている。つまり敵の攻撃が当たり難いのだ。だからRPGをやるときは僕は必ずエルフ系のキャラを第一候補に持ってくる。言っておくけど、決してイケメンとしてゲームをしたいからじゃない。
「ん? エルフ? あ、もしかして、スプラ君は事前情報を見ないタイプのプレイヤー?」
「え、事前情報?」
「そうそう。FSGは配信開始の2週間前から事前情報を出していてね。その中にキャラクター設定についての情報もあったんだよ。ほとんどのプレイヤーは事前情報を確認してきてたけど、そっかそっか。スプラ君はそっちのタイプか」
「……」
いや、マジですか。そんな事前情報なんて全く聞いてないんだけど。父親からチケット貰ったからやってるだけだしな。どうしよ。情報確認してからやり直すか…。
「ああ、大丈夫大丈夫。キャラクター設定については僕が説明していくからさ。一緒に作成していけば大丈夫だよ。それでいいかい?」
「あ、じゃあ、それでお願いします。事前情報とかあったんですね」
よかった。親切設定だったみたい。
「ははは。みんなスタートダッシュ決めたいからね。この手のゲームではキャラ設定で時間取られたくないって意見が意外と多いんだよ。あれこれ考えながらじっくり決めるってのもそれはそれで楽しいのにね。今回はほとんどのプレイヤーが事前情報を吟味してて、あっという間に設定して旅立って行ったよ」
うそ、まじか。それじゃあ、やっぱり情報確認してからやり直し…
「ちなみに、さっきのエルフってことだけど、残念ながら初期種族にエルフやドワーフとかってのはないんだよね。希望は多いんだけど」
げ、そうなのか… じゃ、ここはやり直しだな。しっかり情報確認してからにしておこう。でも戻る前に一通り説明聞いておくべきだよな。
「ちなみに他のプレイヤーの人ってどんな種族にした人が多かったとかあります?」
「えっとそうだねえ… 今のところ人族が42.4%で獣人族が57.6%ってところだね。獣人族は多種多様だからここですべての種族を伝えるのは無理かな」
コリンズさんが空中の一点を見つめながら答えてくれる。おそらくリアルタイムの数字を答えてくれているんだろう。
「他のプレイヤーたちってどれくらい詳しく決めてきてたんですか?」
「そうだねえ、みんなずいぶんと気合入れて詳細まで全部決めてきてたね。なんか公式の事前情報だけじゃなくて、どうやらβテスターからの情報も聞いてたみたいだし。まあでも、高額なお金払ってアカウント購入したんだから気合いが入って当たり前だと思うな。ちなみにキャラクターは一度作成すると、再作成するのに同じだけお金がかかるからね。しかも再作成は1回限定。だから慎重に作っていこう。僕が一通りレクチャーさせてもらうから、それから決めたらいいからさ」
コリンズさんがそう言うと、僕は瞬時に暗い部屋の中に移動する。
目の前には巨大なスクリーン。さながら一人映画館のようだ。スクリーンにはコリンズさんが映されていたが、画面が暗転して次のような文字が映し出される。
①種族…ステータス値に影響
②職業…スキルに影響
③属性…初期得意属性(火、水、風、土)
④初期装備…性能選択と見た目のカスタマイズ
「いいかい、キャラクター設定で決めるのはこの4つだ。『種族』でステータス値、『職業』でスキル、『属性』で得意属性を決めて、『初期装備』は性能だけじゃなくて見た目もカスタマイズできる。だいたい普通のRPGの初期装備は見た目がショボ… 控えめなことが多いでしょ? 先に進むと徐々に格好よくできたりするんだけど。でもFGSでは初めからプレイヤーに冒険を存分に楽しんで欲しいから、初期装備から見た目は比較的自由にカスタマイズできるようになっているんだ」
コリンズさんの声が止むと画面が切り替わり、世界地図の部屋が映し出される。そこではコリンズさんが剣を抜いて舞うようにそれを振るっている。そして、カメラ目線で決めポーズ。
僕が反応に困っていると、コリンズさんは咳ばらいを一つして乱れた髪型を整える。
「ふう、いい汗かいた。じゃあ続けようか。初めに『種族』から説明していくよ。種族は大きく分けて『人族』と『獣人族』の二種類だ。種族はスプラ君のステータス、つまり能力値に影響を与えるよ。例えばこんな感じ」
コリンズさんがそう言うと、スクリーンの画面が切り替わり、『人族』と『獣人族(熊)』のステータス画面が現れる。
【人族】
・初期ステータス値合計:80
・基本値合計:50 割り振りpt:30
・10≦各ステータス値≦20
(例)
筋力:10 →20(+10)
耐久:10 →18(+8)
敏捷:10 →15(+5)
器用:10 →15(+5)
知力:10 →12(+2)
【獣人族】
・初期ステータス値合計:75
・基本値合計:40 割り振りpt:35
・5≦各値≦25
(例)熊の獣人
筋力:12 →25(+13)
耐久:10 →23(+13)
敏捷:8 →13(+5)
器用:5 →9 (+4)
知力:5 →5 (+0)
「まあ、こんな感じだ。人族は能力値合計は高いけど各パラメータ最大20までしか割り振れない。一方、獣人族は能力値合計は少し低くなるけど最大25まで割り振ることができる。初期値が高いほどレベルアップ時の上昇率も高くなるから、この初期値の影響は時間が経つほど大きくなるよ。あと、獣人族の初期値は選ぶ動物によって変わるんだ」
「じゃあ、一度決めたらずっとその能力値バランスで進む訳ですね?」
「いや、種族が進化すればその都度割り振りptを変えることが可能だ。でも種族進化は序盤には起こらないから種族選びは慎重に決めてほしいな」
そっか。人族と獣人族。話を聞く限り、人族は万能型、獣人族は特化型って感じかな。
「ちなみに獣人族の種類は44種類だ。リスト見てみるかい?」
「え、44種類? そんなに?」
僕が驚いているうちに、目の前の画面が切り替わる。
そこには動物の種類が画面いっぱいに表示された。犬、猫、牛、豚、狼、熊、虎、猿といったメジャーどころから、バク、コアラ、アリクイ、カワウソといった珍しいものまでずらりと並んでいる。
すごいな。これそれぞれが初期値が違ってくるんだろ? これはしっかり確認してよく考えて決めないとな。
「ちなみにここだけの話、スプラ君がさっき言ってたエルフは人族の進化先に現れるよ」
「え、マジですか?」
「うん、マジで。これは2週間遅れてスタートしたスプラ君への救済情報と思ってね」
「じゃ、じゃあ人族でお願いします」
やった。僕だけの情報をもらってしまった。これはもしかしてすごい情報なんじゃ…って、あれ? 今僕、人族に決めちゃった?
僕の困惑をよそに、視界が再び明るくなる。どうやら一人映画館から世界地図の部屋に戻ってきたようだ。目の前にはニコニコ顔のコリンズさんがいる。
「ちなみに、スプラ君はどっち派?」
「えっと、何が…」
「正統派? ダーク派?」
「え? なんのこと…」
「ちなみに僕はダーク派だよ。ツンデレなダークエルフとなんか心くすぐられちゃってもう最高だよね」
「……」
言葉を失っている僕を横目に緑の髪をかき上げるコリンズさん。どうやら後ろから絶対零度の視線を送っているアマデウスさんには気がついてないらしい。あ、今、気が付いた。
「……さあ、次行ってみようかな?」
あえて後ろを振り返ることなく話を進めようとするコリンズさん。なんとなく僕との距離が近くなったような気がするが、僕はダークエルフ派じゃありませんから。
「ち、ちなみに見た目は種族に関わらず自由に変えられるからね。熊の獣人だからって問答無用で恐い顔になったりしないから。なんなら『◯ーさん』みたいに黄色くして可愛い熊にもできるんだ。ただ、性別は変えられないのと、身長の変更はリアル身長の±5cmまでだよ」
そっか、アバターは自由に変えられるのか。じゃあ、人族でもエルフっぽくもできないこともない? …いやいや、エルフを選ぶのは見た目が理由じゃないから。能力が理由だから。それに見かけだけエルフってよく考えたらイタイだけじゃん。
「じゃあ、次は職業を決めていこう」
あれ? キャラ設定進んじゃってる? 情報確認してから…
「スプラ君なら…そうだね、テイマーとか…」
「え、テ、テイマーがあるんですか?」
あ、しまった。『テイマー』って言葉につい反応してしまった。某アニメの影響でテイマーでモフモフとか夢だったから。
「アハハ、やっぱりテイマー派か。テイマーは動物や魔物を使役する人気の職業だよね。スプラ君、モフモフ派? あ、それともフワフワ派? まさかヌルヌル派じゃないよね」
そう言って、コリンズさんはなんか体をクネクネしている。どうやらコリンズさん爬虫類系のヌルヌル派らしい。
「ちなみに残念だけど、初期職業にテイマーもサモナーもないからね」
「え?」
いや、ないんかーい!
クネクネしながらショッキングなことを言うコリンズさん。ないならはじめから言わないでほしい。
「じゃあ、初期職業について説明するから、前の画面を見てくれるかい?」
コリンズさんがそう言うと、僕は再び一人映画館へと移される。そしてコリンズさんの声だけが聞こえてくる。
「初期職業はこの5つだ。この中から選んでくれたまえ」
【狩人】
モンスターを狩ることを得意とする
初期スキル【短剣術】
【探索士】
探索することを得意とする
初期スキル【よく見る】
【術士】
魔法を使うことを得意する
初期スキル【初期魔法※】
※属性ごとに決まっています
【学徒】
知識を得ることを得意とする
初期スキル【読書】
【作業者】
身体の強化を得意とする
初期スキル【ルーティンワーク】
あ、いや、僕は事前情報とβテスター情報を読んでやり直しをですね…… うう、言えない。
――――――――――――――
◇達成したこと◇
・キャラ作成にて種族、職業の説明を受ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます