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みかん畑

第一章 始まりの街編

第1話 プロローグ

 壁一面に広がる未完成の世界地図。



 その前に立つ二人の男女。


 二人が見つめる先には小さな影が1つ。



「では、アマデウス、コリンズよろしく頼むよ」


「「はい、マスター」」



 アマデウスと呼ばれた女は天使。

 腰まで伸びた明るくウェービーな金髪に淡褐色の瞳が美しく、丸みを帯びた口元はどこまでも優しい。服装はうっすら青みのかかった白いワンピースが膝下までを覆う。シンプルながら気品を感じさせる服装である。


 コリンズと呼ばれた男は騎士。

 その深緑色の長髪の奥では琥珀色の瞳が楽しげに光を放ち、その身は白銀に輝く重厚な鎧を纏う。背に自身の背丈程もある大剣を軽々と担ぐ姿は一騎当千の風格を漂わせる。


 そしてその二人から「マスター」と呼ばれる小さな影。こちらにははっきりとした形はない。黒い靄が何となく小さく人型を作っているのがわかる程度だ。ただ、その声は如何ともし難い程の包容力に満ちている。


 小さな影、マスターの声に揃って答えたアマデウスとコリンズの二人が歩みを揃えて部屋から出て行く。



 二人が出て行った部屋に残る沈黙。壁一面に広がる空白だらけの世界地図。応接室然とした豪華な調度品。その部屋の中央には誰も座っていないソファーが一つあった。



「レイスはしばらく出番がないかもしれないが、まあ、そうだね、気長にやっていこうか」


 小さな影が誰もいないはずの部屋の片隅に向かって話す。


 と、その刹那、小さな影が向かう部屋の隅から存在感が放たれる。


 筋骨逞しい肉体に黒シャツ、黒パンツ、黒バンダナ、黒眼帯をしたわかりやすい海賊の装い。部屋の置物の一部だったものが動き出す。


「気長に…ですか。まあ、マスターがそうおっしゃるなら俺としていつまででも待ちますがね…でも俺の出番なんてほんと来るんですかね」


 黒い海賊は、そう言って頭を掻く。


「まあ、そこはプレイヤーに期待するとしよう。君の出番が来なかったらさ、わたしもつまらないから」


「はあ、マスターの期待に見合うようなプレイヤーなんてホントに…いや、なんでもねえです」


 そう言って海賊が首を振ると、小さな影が笑うように揺らめく。


「じゃないと困るんだなあ。経理から白い目で見られながら君に予算突っ込んだ僕の立場がさ。ね?」


「え、俺って、白い目で見られながら作られた…」


「あははは、まあ、そう言わないででくれ。わたしが楽しめないようならそもそもこの世界を作った意味がなんだから。きっと現れるさ。気長に待つとしよう」


「気長にね…ハハハ……はあ」


 黒い海賊の乾いた笑い声が部屋に漂った。



 ◇◇◇◇



【Fresh Green Stage ~新緑のステージ~(通称FGS)】



 世界初の進化型フルダイブVRMMORPG。


 世界中から注目を集めるこのゲームは日本の元自動車メーカーの人工知能(AI)開発チームが制作した。



 奇人変人の集まりだと言われ続け社内で煙たがられいたそのチームの面々は、とある一人の男の手によって新進気鋭のゲーム開発会社「Z-stream社」として組織される。


 変人の皮を被った天才集団が、その埋もれさせ続けてきた潜在能力を存分に注ぎ込んで開発した。MMORPG『FGS』は、「人工知能が人工知能を開発する」というセンセーショナルな特殊技術の発表と共に世界に発信された。そして、1アカウント12万円という高額商品でありながらも、第一陣である初回1万台の出荷分は販売開始後10分も経たずに完売することとなった。


 その後の第一陣完売に続いて発表された追加販売、第二陣の4万本のアカウントもまた瞬く間に予約で埋まってしまうこととなる。


 この衝撃的なFGSの躍進はその後も社会の注目を一身に集めることとなった。



 ◇◇◇◇



 僕の名は大森双葉。21歳。大学3年。


 生い立ちには特筆すべきことは何もない。


 基本、家にいる時はゲームをして過ごしている。


 12歳で初ゲーム機を購入後、これまで多くのVR機で遊んできた。ちなみにゲームと言っても、ゲーム内で他のプレイヤーとの交流が発生するMMOではない。そんなものコミュ障の僕にはハードルが高すぎたからだ。


 しかし、それが大学に入り一転することになった。受験から解放された僕は、その開放感からこれまで避け続けてきたMMOの世界に飛び込むことを決めた。


 その結果、かろうじて片手で数えられるくらいのフレンドができた。まあ、向こうから声をかけてきてくれたってことなんだけどさ。ちなみにリアルフレンドは…それ以下とだけ言っておく。


 そんな僕に最近悩みが出来た。


 一緒にやっていたゲーム仲間が次々と社会人デビューを果たし引退してしまったのだ。なんでも彼らはリアルでも友達同士で、このゲームも学生期間限定として楽しんでいたらしい。


 てか、みんな揃って学生だったのか…。知らんかった。しっかりしてたから社会人なんだろうなって思ってた。


 ってことで、僕は一人だけ取り残されることになってしまった訳である。


 一人になった僕だったが、まあ言っても数年遊んだ慣れたゲーム環境、なんとか一人でも楽しめるだろうと高を括っていたのだけどね。


 はい、無理でした。


 いろいろ、あれこれ、あんなことやこんな事があって、僕のメンタルは儚くも崩れ去ってしまった。


 まあ、つまりは「コミュ障にとって一人MMORPGは生存困難な極寒地帯だった」を痛感したということだ。はあ…。


 人間関係の難しさと、コミュ障の自分に辟易し、社会との交わりを完全に絶ってしまうほうが楽なんじゃないかと悶々と過ごしていたそんなある日、転機が訪れた。


 鬱憤を溜め込みながら家で昔ながらのテレビゲームをしていると、夜遅くに父親が酔っぱらって帰ってきた。


 いつもはお堅い会社員の父のそんな酔った姿を見たのは初めてだった。


 かなり酔っていたらしく、僕の部屋にノックもせずに入ってきた。そして僕とテレビの間にドカッと座る。



「おい、双葉、ゲームばっかりしてないで、たまには彼女くらい連れてこい。ゲームなんかやめちまえ」


 ゲームをやめろ?

 友達すっ飛ばして彼女連れてこい?


 無茶がらみにも程がある。

 

 ひと言言い返そうと父を見る僕。でも、そんな気ははたと失せてしまう。


 そこには普段の父とあまりにもかけ離れた姿。颯爽と仕事に向かい、遅くに帰ってきてもテキパキと身の回りのことを終える、いつものそんな姿からは想像もつかないほどの父の泥酔っぷりだった。


 だけど、そんな姿になぜかいつになく話しやすさを感じてしまった自分がいた。


 そして、ヘベレケの父に向かって、自分がコミュ障でどんなに苦労しているかを、雰囲気に任せてすべて吐き出してしてしまった。


 うん、だいぶ溜め込んでたらしい。


 まあ、当の父は、しばらくは「ふんふん」と眠そうに聞いていたが、急に立ち上がると「寝るわ」と言って部屋を出ていってしまった。だいぶ酔っぱらっていたから僕の話なんて覚えていないだろう。


 

 …と、思っていたのだが、その父がなぜか数日後に僕に一枚のチケットを渡し、「気が向いたらやってみろ」と一言だけ残して会社へ出かけて行った。


 渡されたチケットには書かれてあった文字は…



【 Fresh Green Stage ~新緑のステージ~ 新しいゲームの舞台へようこそ 】



 いや、ゲームかよ。





――――――――――――――

◇達成したこと◇

・FGSチケットGET

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