第4話 とある幼稚園の話

「さあ、もうすぐ七夕なので今日はみんなでお願い事を書きましょう!」

先生が子供たちにお願い事を聞いてまわっている。


「ぼくね。バイクにのったヒーローになりたい!」

「わたしはうさぎさんがかいたい!」

「んーと。むしをたくさんつかまえたい!」

元気な子供たちはどんどん自分の好きなことを話していく。聞こえてきた声をしっかりと聞き取り、丁寧に先生たちが書いていく。

なかなか決まらない子供も、お友達の言葉を聞いて、自分の思いを語っていく。

「ぼくは おとうさんより おおきくなりたい。」

「わたしは りょこうにいきたい。」


そんな中、何一つ喋らない子供がいた。

「こーちゃんは何になりたいの?」

先生が質問をしても答えない。

お友達が話しかけても、こーちゃんはただじっとしている。

みんなが書き終わって違う遊びを始めても、こーちゃんは1人短冊を前に静かに座っている。

「こーちゃん、お願い事は思いついた?」

みんなが遊びに行って、1人になったところで、再度先生が聞いた。こーちゃんは、しばらく黙っていたが、少しずつ語り始めた。

「ぼくは、おにいちゃんになるから。いい子でいなきゃいけないから。」

先生は、こーちゃんの言葉をうなずきながらやさしく聞き続けていた。

「こーちゃんは、いい子でいたいんだね。」

「うん、でも、ぼく。ほんとはね。」

横に座ってずっと聞いていてくれる先生に安心したのか、こーちゃんはぽつぽつと本当に思っていることを語り始めた。

「ママにね、おうちにいてほしいんだ。でも、おとうとがうまれるから、にゅういんしなくちゃいけないんだって。ぼく、おにいちゃんだから、へいきだけど。でもね、やっぱりママといたいな。」

「ママと一緒にいたいよね。じゃあ、ママと弟くんに早く会いたいってお願いしてみない?家族が一緒に過ごすのって、みんなにとって幸せなことだと思うよ。」


先生の言葉を聞いて、ペンを持ったこーちゃん。

弟が生まれることはうれしいけれど、ママを独り占めできなくなる悲しさも感じているこーちゃん。この家族、みんなが幸せになれますように。

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