第9話 人外

「結婚しようって何ですか?」


ワタシ、人外のニホンゴはワカラナイヨ。


「だーから、結婚は結婚だよ」


「誰と誰が?」


「わーたーしと、とおーる君だよ!」


そう言って、俺の腕を女神が掴んできた。


やだ、胸が当たっているのに、恐怖しか感じない。

美しい女性に絡まれるのって嫌なことなんだね。


「あの…。僕は、16歳なので、結婚は年齢的に無理ですよ?」

日本の法律って素敵やん。


「うん?何言っているの?」

首をかしげる、女神。


「えっと、男の子は16歳じゃ結婚できないんですよ」


「知っているよ?」


「知っているなら、無理って分かりますでしょ?」


「だって、私たちには神様がいるじゃない。大丈夫だよ!何とかなるよ!」


「…。そもそも、僕たちってそこまで仲良いわけじゃないし、結婚する意味がないと思うんですけど」


「う~ん。ところで、徹君。結婚って何のためにすると思う?」


女神が目を細めて、俺を見つめながら聞いてきた。

相変わらずの肉食動物の目線。

これは、下手な答えをしたら、本気で女神と結婚しなければならないかもしれない。


「お互いが好きで一緒に居たくなるからじゃないですか?」


「ブッブー。不正解で~す」


両手で大きくばってんを作って広瀬さんは否定してきた。

そして、大きな眼で俺を見つめながら色っぽい声を出してくる。


「お互いのことをもっと知りたいって思うからだよ」


二人しかいない場が静まり返る。



「…素敵ですね」


俺は、ポツリと言葉を零す。


「でしょ?」


女神も俺の言葉に答えるようにニッコリ微笑む。


そんな弛緩した空気の中で、俺は、一つの疑問を持った。


(その話が、俺と『女神』の結婚にどうつながんの?

確かに、素晴らしい話に聞こえたよ?お互いのことを理解しようとするって素敵やんだよ?

でも、広瀬さんも俺もお互いのことを知りたいとか思っていないでしょ?)


とはいえ、女神は説明は終わったとばかりにワイヤレスイヤホンをし始めて、Your Tudeだか、ストリーミング再生だかを聞き始めた。


もう聞く雰囲気ではない。


人外のニホンゴは本当にワカラナイヨ。


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