第8話 『レッツ・同棲』

 ということで、「学年一の美少女と突然だけど同棲生活始めてみました」という、頭の悪そうなラノベが始まることになったのだった。


 …まぁ、その美少女にはどうやら嫌われているという最大の問題は解決していないんですけどね。


 ちなみに、家は神様が用意してくれた。

 催眠術で不動産屋を騙して、10円で最新マンションに住めることになった。


 *


「というわけで、私たちは一蓮托生なわけです。なので、家事分担を決めようね!徹君は得意な家事とかあるのかな?」


 広瀬さんから心の声は聞こえてこない。

 今はそれぞれ自分の身体に入っているので、心の声は聞こえないのだ。

 別の身体に入っている時にのみ、聞こえてくるらしい。

 神様が言うには、身体と魂が共鳴することによって、心の声が聞こえるらしい。


 神学では、脳波と心粋がうんたらかんたらとか、言っていたがさっぱりわからなかった。


「僕は、あまり料理は得意ではありませんが、風呂掃除やトイレ掃除はやらせてもらいます」


「なるほど。なら、それはお願いできるかな?私は、料理を作るからねっ」


 明るい顔で言う女神。

 こんな時まで、見下しているはずの俺に対してもあざとくするって流石だよなぁ。


「分かりました。というか、ありがとうございます」


「うん?何が?」


「いや、僕なんかと、一緒にいるの嫌なはずなのに、明るくしてくれて」


「へ?」


 何か、驚いたように栗色の瞳を見開く。


「あ、その、神様から説明があったと思うんですけど、広瀬さんの本音は少し聞いちゃっているから」


「ああ、そのこと!う~ん、私、別に徹君のこと嫌ってないよ」


「へ?」


 今度は俺が驚く番だった。

 陰キャのくせに!みたいなこととか聞いた気がする。

 それに、コンビニの前のことだって説明がつかない。

 小島の野郎と浮気しただとか、お金持ちそうだから俺と付き合ってもいいかなとか、そういう事を言っていたのを確かに、俺は耳にしたのだ。

 あの日はショックだった。だから、はっきりと広瀬さんの言葉は耳に残っている。


「あのね、」


 俺は口を開きかけて気づく。

 俺がコンビニの前にいたことを広瀬さんは知らないのだ。

 だったら、言わない方がいいかもしれない。

 しばらくの間、俺らは一緒に住まないといけないのだ。

 わざわざ、火種のようなことを口にしなくてもいいだろう。

 そう思って、口を噤もうとする。

 だが、


「ああ、そういえば、徹君、あの日、あのコンビニにいたよね。だったら、私が徹君をネタにしていたのを聞いて嫌な気持ちになったんだよね。ゴメンね」

 広瀬さんはあっけらかんと、俺が思ったことを言ってくる。


「え?俺がいたこと気づいていたの?」



「うん、気付いていたよー。あー、もしかして、私のこと、天然ちゃんだと思っているでしょ!私、意外と色々と気遣いできる視野の広い女なのですよ。だから、今も徹君が自分のことを珍しく『俺』って言っちゃって同様していることだってお見通しなのですよ」


「あー、なるほど」


 小島君から、広瀬さんの裏の顔のことを教えてもらったとはいえ、天然な要素もあると思ってしまっていたかもしれない。


「でも、気づくの遅れちゃったから、徹君のこと悪口言っていて、傷つけちゃったよね。ゴメンね。あの集団だと、悪口を言うのが一番盛り上がるから言っちゃったんだよね」


『女神』の名に相応しい慈愛の微笑みで、計算高いことを言う。広瀬さん。


「そうなんですね、でも、普段の広瀬さんとは大違いだったから、驚いちゃいましたよ」


「ふふふ。普段の私って、『女神』とか呼ばれている私のこと?」


「ええ、そうですね、というか、陰で女神って呼ばれているのも知っていたんですね」


「うん、そうだよ。あと、流石に一緒に生活していたらバレちゃうと思うから先に言っておくけど、私、褒められるの大好きだから、沢山褒めてね!よろしくね」

 うわぁ。自分大好き女だよ、この人。

 絶対、地雷女だよ。

 可愛くても結婚しちゃだめな女子堂々の第一位だよ。


「えっ?うん。別にいいですけど」

 こういう女の子は適当に褒めておけば害はないはずだ。…ないよね?


「あっ。あと、ついでに言っておくと、私、小島君と浮気はしていないからね」



「あれ?でも、浮気はあの集団だと公認じゃなかったけ?」


「あれは、小島君に浮気をしているふりをして欲しいって頼まれたからそういう事にしているだけだよ。あの人、プライドだけは高いからね。実際は、私が高一の夏に振っているんだけどね、振られたって言われるのが嫌みたい」


「ああ、そうなんですか?それにしても、校内で大人気の男の告白を断ったのは何でですか?やっぱり、腹黒な面が嫌だったんですか?」

 この人がとてつもなく計算高いことはここまでの話で分かっていた。

 だから、この人なら、校内で一番人気の小島君と付き合うことを、プラスと考えていてもおかしくないのだ。


「ううん。腹黒は関係ないかなぁ。それよりも、恋人のために時間を費やさなくちゃいけなくなるのが問題かな。

 放課後は今ですら『女神』として、色々なところに顔出しているのに、恋人なんてできたら、毎日のように誰かと遊ばないといけなくなるじゃない」


「それの何がいけないんですか?」


 そう言いつつも、俺は予想がついていた。

『女神』は学力もトップクラスなのだ。

 だからこそ、自分の『女神』ブランドを維持するために勉強をしなければならないってわけだ。


「だって、弟と一緒に居られる時間が少なくなっちゃうじゃない」


 俺の予想とは全く違う言葉を広瀬さんは口にした。


「あの、超絶可愛い弟は今しかみられないんだよ?もちろん、これから先も、私の弟は可愛いよ。だけど、あの弟は今しかみられないんだよ?徹君もみたでしょ?世界一可愛い私の弟のこと」


 女神がハイエナのような目をしていた。

 というか、女神というよりも変質者にしか見えなかった。

 重度のブラコンなようだ。怖い。


「うん、可愛いかったよ」


「でしょ?ということで、徹君から、弟の可愛さについて、同意を得られたことで私から提案があります」


 うわー、嫌な予感がする。

 ルンルンな女神怖い。


「ええ、いいですよ」

 怖いので、返事は肯定のものしかできなかった。


「私たち、結婚しましょう?」


「へ??」


 やだ、意味わからなさすぎる。

『女神』ってやっぱり、人外なんだね。



 *



 元に戻るための条件など:

 長時間一緒にいること。(神様の言葉では、同棲して一年間くらいで元に戻るらしい)

 生活費は神様が催眠で人を騙してくれる。(徹たちは黙認している。)

 半径50m以内にいる間は元に戻ることができるように、神様が調節してくれた。

 神様は少しの間なら、二人を元に戻せる。(ただし、時間は短い。同棲が続くことで、この時間も長くなっていくとみられている。)

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