第7話 恋愛リアリティー・ショー

 なんで、裸の女の子がいるの?

 というか、病室にいた男の子、見覚えあり過ぎる男の子だったんですけど。

 昨日までの毎日を一緒に共にしてきた大切な存在(物理)だったんだけど。


 女神(中身)は俺(外見)を社会的に殺したいの?


「いきなり、叫んでどうしたんじゃ?早く入れ!」

 例の裸の女の子が病室から、ひょっこり顔を出してきた。


 それを見て、俺は、女の子の口を塞いで病室へと入る。


 あのままだと、裸の女の子が俺(外見)の部屋から出てきたとあらぬ噂をされかねない。

 痴情のもつれ疑惑がこの病院で流布しかねない。

 しかも、ロリコン疑惑まで付随。


「広瀬さんでいいんですよね?どうなってるんですか?」


「ああ、徹君(はあ、どうなっているの?なんで、徹の奴がいるの?)」


 何か、物理的な声とは別に脳に直接語りかけてくるよな不気味な声がした。

 なんだこれは?空耳か?それとも、女神がボソッと声を出したのが聞こえたのか?


 声を発した女神の目は死んでいた。俺の身体だから、いつもよりも目の輝きが物理的に失われているのもある。だが、それだけでは説明できないほどの闇に満ちていた。


「それよりも、わらわにまずは、挨拶じゃろ。最近の、若者は本当に礼儀がなっていないのぉ」


 ロリっ娘が、腕を組みながら偉そうに喋りかけてくる。ロリっ子は、金髪に、発育途上の形のいい胸。(Acupくらい?)

それに、美術品と見間違うほどの精緻な顔をしていた。将来は女神以上の美人さんになるだろう。

いくら、将来の美人さん候補だとしても、病室に裸でいる意味は分からないのだが。


「ああ、ごめんなさい。で、どちら様でしょうか?」


「ふむ、当ててみよ。当てれば褒美に何でもやるぞ」


 当ててみよときたか。俺は、昨日からのラノベ然とした状況を鑑みる。

 そして、結論を出す。

(どうせ、この入れ替わり現象の首謀者だろ?言ってみれば神様みたいなもんだろ?)


「神様とかですか?」


「おお、正解じゃ!お主は賢いのぉ。この、女子おなごとはえらい違いじゃ。」


 神様(仮)は、「…いや、おのこというべきかのぉ。難しいのぉ」とか、呟いていたが

 俺は、適当に返事をした。


 当たっちまったよ。神ってなんだよ。


「それで、神様がどのようなご用件なんでしょうか?」


「って、あなたはそのちびっ子のことを信じるっていうの?」


 ぶりっ子をすることを忘れた男の声がした。


「だって、こんな変な人がいるわけないじゃないですか?しかも、状況も状況ですし」


「わらわを変と言うとは怒ってやろうかのぉ」


 神様は、そう言いながらニヤニヤしている。


「二人は楽しそうでいいね。まあ、いいや。それよりも、徹君、弟は元気?

 ?(ああ、何であんなにも可愛い弟と、私は、会えないのかしら?

 徹君、手出しとかしていないよね?そしたら、絶対、許さない。手を千切って、勇人を抱きしめないようにしなきゃね)」


 またしても、声がした。

 もしかして、広瀬さんってブラコン?

 というか、この声は何?


「まあ、とはいえ、広瀬さんが言うことも一理ありますね。だから、出来れば神様の証拠を見せてもらってもいいですか?」


「ふむ、よかろう」


 そう言って、少女は病室のベッドを浮かし始めた。

 徹の身体ごと、浮かした。

 ベッドを触れてもいないのに浮かしてしまった。

 そもそも、ベッドに触れていたとしても、彼女の細い腕ではベッドを持ち上げることすらできないだろう。

 どうやら本当に神様らしい。


「ありがとうございました」


「よいぞ、広瀬とやらも納得したかのぉ?」


 広瀬さんは無言で頷いた。

 顔は納得していないが、話が進まないので致し方なく同意したという所だろう。


「それで、この入れ替わり現象は神様の仕業なのですか?」


「うむ、そうじゃ」


「どうして、こんなことをしたんですか?」


「ふむ、分からん」


「ちょっ!あなたがやったんでしょ?何を言っているの?元に戻してよ!私の可愛い身体を返してよ」


 徹が、涙目で神様を見つめる。

 我が体ながら、ちょっと、キモい。


「まあ、落ち着けよ。神様だって、もう少し説明してくれるさ」


「徹は黙っていて(陰キャが何を言っているんだか!しかも、超キュートな私の身体を好き放題できるとか、あんたにとっては入れ替わりも苦じゃないんでしょ?どうせ、胸とかももう揉んだんでしょ?)」


 それに、さっきから脳内に直接ひびく、本音っぽい言葉も気になる。


「すまんのぉ。わらわもどうして、こんなことになったのか分からんのじゃ。恐らくは、脳の波長がぴったり合っているため、奇跡的に入れ替わってしまったのじゃろう」


「脳波があっていたら、中身が入れ替わるんですか?」


「いや、おぬし等が言っている脳波とは微妙に違う。言うなれば魂の波長と言い換えてもいいかもしれんのぉ。魂は、心の臓などではなく、脳に存在するからのぉ。久しぶりに、下界のことを学んだが、おぬし等の科学も大分いいとこをついておるぞ!まあ、神界の『創造学』には遠く及ばんがのぉ」


 難しい。何を言っているのかが分からない。

 俺は、理解を放棄した。


「元には戻るんですか?」

 広瀬さんが口を開いた。


「戻る!」


「じゃあ、戻してください」


「よいぞ。ほれ」

 少女は、気軽に広瀬さんの言葉に答える。

 そして、次の瞬間には意識がとんだ。

 気づくと美人な女子高生と、精緻過ぎるJCほどの子が目の前にいた。

 『女神(偽)』と『神(真)』だ。

 どうやら、本当に戻れたらしい。


「ありがとうございます(きゃぴっ)」


 広瀬さんも、元に戻ったのが嬉しいのかごきげんな様子だ。


「徹君、また明日ね☆」

 そう言って、嵐のように出ていった。明日は日曜日だから、多分、会わないけどな、と言ってあげる暇もなかった。


「ふむ、どのくらいもつかのぉ」

 それを見ていた少女は、怪しげな言葉を発した。

 

 1分後。


 俺は、例のマスク美人がいる受付の前あたりにいた。

 胸を揉むと、美味しそうな果実が実っていた。


 状況を、感触のいい胸(ブラなし)で把握した俺は、急いで、病室に戻る。


「どうなっているんですか?」


 病室からは徹(中身:広瀬さん)の声が聞こえた。

 俺も中に入って、話を聞く。


「どうも、こうも、既に身体に意識が馴染んでしまっているのじゃ。そう簡単にはなおらん。ちょっとの間なら元に戻せるが、完治は難しいのじゃ」


「じゃあ、一生このままなの?」


「いや、そうでもない。条件はあるが、元に戻ることもできるぞ」


「条件というのは何ですか?」


「うむ、よくぞ、聞いてくれた。だが、一言で言うのは難しいのぉ。

そうさのぉ、簡単にするために、作戦名をつけてみようかのぉ。今時の、言葉で言ってみるかのぉ」

 そう言って、口を閉じて、少女はちらちらと広瀬さんと俺の方をみた。

 どうやら、聞き返して欲しいらしい。神様、可愛いな。

 俺らは、それに乗っかってあげて、聞き返す。


「「作戦名とは?」」


「『チキチキ、仲の悪い男女を同棲させたら、性的な関係になるのか試してみた』じゃ!」


 元気に裸の少女は叫んだのだった。


 どこの、恋愛リアリティーショーですか?それに、言葉のチョイスは微妙に古いよ。

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