第6話 『無理解』

 心の準備をしていたとはいえ、衝撃的な出来事だった。


 入れ替わりってなんやねん!

 しかも、何が悲しくて俺が嫌いな女、堂々の第2位にランクインしている奴と入れ替わらなければならないのか?


 俺は、こんな仕打ちを受けるほどの悪事をした覚えがないんだが。

 …って、したわ。何の罪もない少女を襲おうとしていたわ。


 いや、だからって身体が入れ替わるのを受け入れたりはしないけど。

 とはいえ、反省しよう。反省すれば元に戻れるはず。


 弟(仮)によると、俺の元の身体も無事なようで、今は病院に入院して、異常がないかを見ているとこらしい。


 ということで、見舞いに行こうと決意した。

 あれから、結構、寝てしまったらしく、時刻は9:07。

 俺が家を出てから、ちょうど12時間ほどがたった。


 今日は土曜日だ。

 休みだし、クラスメイトを見舞いに行くのは面の皮の厚い『女神』としても悪くないだろう。

 そう思って、面会に行くことにしたのだった。


 *

 病院で受付に向かう。

 何人かの看護師(?)が受付にいた。

 マスク美人の人がいたので、その人に声をかけてみた。


 やはり、可愛いっていうのはいい。


「すみません、クラスメイトの徹君に会いにきたんですけど、病室はどこですか?」


 自分の名前を君付けで呼ぶのは結構、恥ずかしいものがある。

 どこの、ジャニ〇-ズのぶりっ子担当だよ。


「申し訳ありませんが、アポイントなしの面会は断っております。また、徹様が当病院にいるかもコメントできかねます」


 冷たい声がした。


「そこをなんとかお願いします(きゃぴっ)」

 できる限り、可愛らしく言ってみた。


「そんなことを言っても病室を教えることはできかねます」


 その言葉、俺のがこの病院に入院していることは肯定しているんだよなぁ。


「徹君は、仲のいい友だちなんです!だから、お願いします」


 できる限り真摯にマスク美人の目を見て言う。

 だが、芳しい反応はない。



「まあまあ、紫苑しおん君、そのくらいでいいじゃないか」



 諦めかけていると、背広に白衣を着たおじさんが、マスク美人(紫苑さん?)の肩を叩きながら、俺たちの会話に割り込んできた。


「でも、先生!病院の規則が!」


「まあまあ、いいじゃないか。せっかく、美人のクラスメイトが来てくれたんだ、徹君も喜んでくれるさ」


「徹君の容態はどうなんですか?」


「それは、守秘義務で秘密かな。知りたければ、307号室に行くといいよ」


「ありがとうございます」


 俺は、足早にその場から去ろうとした。

 …だって、マスク美人さんがこちらを睨むように見ているんだもん。


(ごめんよ、マスク美人さん。正しいのはあなただよ。

 でも、世界の方が間違った状態になっているので、正しにいかなければならないんだ!)


「あ、ちょっと待って」


 先生と呼ばれた、白衣のおじさんが僕を呼び止めてきた。

 ちなみに、先生の容姿は一言でいうと『豚』みたいな感じ。


 …断じて、悪口じゃないよ?


 豚は綺麗好きだし、体脂肪率もそれほど高くないマッチョさんだからね!

 つまりは、豚=格好いいって意味だね。

 豚って言われて、落ち込んでいる人は豚について調べてみるといいよ!


「先生(豚さん)、何でしょうか?」


 そう聞くと、重そうな肉体をゆっくりと、こちらに近づけてくる。

 …なんか怖い。

 もしかして、俺、もとい、『私』が可愛いから、フォローしてくれただけ?

 セクハラの危機に身を震わせていると、湿った加齢臭の吐息を『私』の耳に吹きかけてきた。


「徹君の彼女なんでしょ?確か、君、昨晩、徹君が助けた女の子だよね?愛しの彼の癒しになってあげてね」


 純粋な好意の言葉をかけられたのだった。

 …人間、ひねくれるとダメだね。



 *


 病室の前に立つと、今度は緊張感が増してくる。


『女神(中身)』と会うのは、あの悪口を聞いて以来だ。


 緊張はするに決まっている。

 そうは言っても、話さないことには始まらない。

 俺は、病室の番号と、病室に飾られた自分の名字を示す『一(にのまえ)』の文字を目に映す。

 珍しい苗字だしこの病室で間違いないはずだ。


 ガチャリ




 病室に入ると、見覚えのない裸の女の子と、上半身を裸にする気がする男の子がいた。



 …



 …




「すみませんでしたーーー!!!!!」

 病室には、甲高い声が響いたのだった。




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