第5話 『非現実的現実』
目が覚めると、白一色の天井が見えた。
ここが、自分の部屋でないことは直ぐに分かった。
周りを見回しても、愛読していたはずのラノベ類は一切ない。
その代わりとして、テディーベアなどの可愛らしい人形、整理された勉強机などが見られた。
寝起きのぼんやりとした頭で、ここがどこかを考える。
考えるとすぐに答えはでてきた。
きっと、ここはあの助けた女の子の部屋なのだ。
助けたから、この部屋に連れてきてくれたのだ。
(とはいえ、車に轢かれたんだぞ!救急車くらい呼んでくれよ!)
俺は心の中で愚痴を言う。
そうは言っても、連れてこられたものはしょうがない。
それに、寝転がっている限り痛みも特になかった。
(俺の身体強すぎかよ。車に轢かれたってのに無傷とか、スーパーマンかよ!
どこぞのヒーロー協会にでも応募しようかな?)
立ち上がると、ほんの少し立ちくらみがした。
それに、どことなく、胸部が重い。
無傷と思っていたが、どうやら全くの無傷とはいかなかったようだ。
それでも、歩けないような違和感はない。
眠っていた部屋の扉を開けて、家主を探す。
トタトタトタ
部屋を出ると、すぐに、前の方からちみっこい男の子が走ってきた。
「よう!姉ちゃん。車に轢かれそうになったんだってな!危なかったな!」
姉ちゃん?この家は、見知らぬ人に姉ちゃんとか呼ぶ習慣があるのだろうか?
ラノベ好きでそういうことに察しのいい俺は、その時、嫌な予感がよぎった。
『まさか、入れ替わ…』
いや、こういうことは口に出してはいけない。
出したら、本当になる気がする。
この世界は、どこぞの『君の〇は』の世界ではないのだ。
ここには三〇も〇君もいない。
そんなことになるわけはない。
そう思って、その予感を無視した。
間違っても、こういう時は胸とか見たり揉んだりしてはいけない。
そうしたら、現実を突きつけられる可能性がある。
とりあえず、この子に事情を聞こう。
「どうしたんですか?見知らぬ人に姉ちゃんなんて言ってはダメですよ」
しかし、いつもよりも、高い透き通るような声が出た。
こんなところにも現実を突きつけそうな罠があった。
いや、まだ大丈夫だ。
きっと、事故のせいで耳がおかしくなっているだけだ。
耳がおかしくなって、声が高めに聞こえているだけだ。
そうに違いない。
「はあ?何言ってんだ?姉ちゃんは、姉ちゃんだろ?」
そんなわけない。
あんまり、変な現実を突きつけないでほしい。
「…そうですね。ところで、洗面所ってどこでしたっけ?」
とりあえず、最悪の事態に備えて、肯定の返事を出す。
まだ、0.001%くらいは、俺の顔がこの家のお姉ちゃんとやらに似ていて、この坊やが俺のことを姉ちゃんと勘違いしているだけな可能性がある。
俺は、どちらかというと、女顔だし、そうに違いない。
多少、ボーイッシュな女の子となら、間違えられる可能性はあるはず。
「姉ちゃん、ぼーっとしているし、大丈夫か?洗面所は1階だろ?」
訝しながらも、俺を案内してくれる弟(仮)についていく。
そして、俺は、いよいよ否定できない事実に直面した。
ここまで、無視していた事実が目の前には、存在してしまっていた。
(俺が女になっている…だと?)
洗面所の鏡には、『女神』こと広瀬 莉奈の可愛らしくも憎らしい姿が映っていた。
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