第6話「自分意識」と「超越自然」
この文章の冒頭にこう述べた。
「・・・その構造物は高度な能力をどんどん進化させ、これまでの大自然の創造能力を超越しつつある。高度高性能な大量の機械で大自然の造形を作り替え、山を削り、海を埋め、都市を作り、生物の遺伝子を操作し、生命体を自由に変化させ、光や電気電波を操作し、核分裂核融合を操り、スーパーコンピューター、AIを創り、宇宙船を創り、宇宙の成り立ちを解明し、宇宙の活用を図り、やがては万物の創造主にまで至るかもしれない可能性を想像させる存在だ。
でも、果たしてそれは大自然の営みと言えるものなのだろうか?」
この発想、この考え、このストーリー自体が人間による創られたストーリーであることに気がついただろうか?
冒頭の認識は現在の人間社会の一般的な認識でもある。しかしこれまで述べたような各分野の現時点の人間が得ている叡智を集約し、そこから「超越自然」というテーマの考察を深めて辿りついた結果は、「超越自然」という発想自体が既に「人間の意識」が創作した物語(ストーリー)なのだということである。
万物はそもそも初めから終わりまで〝ゆらぎ″としてのプルプル、ユラユラした〝在る″と〝無い″が共存し、エネルギーの霧のようなクラウドが密に疎に分散し、拡大しているだけのものなのだ。
それ自体に意味など何もない。万物にあらかじめ意味など何もない。ただ状態として〝在る″だけだ。いや厳密に言えば大部分はむしろ〝無い″のだ。それが万物だ。
原子から宇宙に至るまでの全ての姿がそうなのだ。
宇宙の始まりは超高密度な点からスタートし、インフレーションを起こし、それが138億年前(単なる推定ではなく、宇宙背景放射の観測データからの計測値)のビッグバーンとなり、そこから今ある宇宙の時空が始まり・・・、と科学的に究明されている。
さらに人間の科学の探求力は、その宇宙の始まりのさらに前段階にまで想像力を膨らませている。現段階でそれは「〝無″そのものとその〝ゆらぎ″」によるものなのだとまで概念化されている。多くの〝ゆらぎ″の中で一部のものがそれが高じて〝超高密度な点″に変化し・・・、という物語が真面目に語られている。
全ては〝無″が基本。〝無″から始まり〝無″で終わる。
〝在る″とされてるものも、そのほとんど大部分は〝無″で占められている。
神なるものがもしあるとすれば〝無″に対する〝ゆらぎ″がその位置づけに相当するのかもしれない。
そこまで、万物、宇宙、創造主の説明がつくなら、「人間の意識」などその中の極めてちっぽけな一部でしかなく、超越自然なるものも、神なるものも全ては「人間の意識」が創造した物語、ストーリーでしか過ぎないということになる。
どんな高度な文明、文化を発展させようが、宇宙の果てまで到達しようが、宇宙中の生命体を全部支配しようが、それは全て宇宙の営みと支配の範囲であり、地球に住む人類の「人間の意識と認識」など、万物、宇宙の存在の中ではあまりにもちっぽけなものでしかないということなのだ。
しかし、ちっぽけだから意味が無いということではない。むしろ逆なのだ。
「考えてもみてくれ」と言いたくなる。
たかだかプルプルエネルギーのクラウドでしかない存在の生物が、ついこの間まで食べることと繁殖するだけだった生物が、約20万年前から「自分という意識(こころ)」を持ったことにより、今や自分が「超越自然」ではないかと勘違いする程、文明、文化を発達させ、138億年前の時空のある宇宙の創成や物質の最小単位がプルプル振動であるとか科学的に想定したりできるのだ。これはこれで凄いことなんだろうと思う。
辿りついた結論は、人間がこの世に創り出した文明、文化、科学技術のもたらした産物や人工的成果のようなちっぽけなものが「超越自然」などというものではなくて、つまるところ「自分という意識(こころ)」そのものこそが138億年の宇宙の始まりと存在に意味づけしたり、万物の成り立ちや「存在」の在り様に意味づけしたり、科学とか哲学とか芸術とか、神とか国家とか社会とか人生とか自分とか、愛とか憎しみとか、幸福とか不幸とか、無限に物語(ストーリー)を創ったり、無限大なとてつもない物語を創ったりする「超越自然」なのだということになる。
そして現代の高度情報化技術とそれにより得られる高度情報化社会システムは新たなイノベーションを実現しつつある。それは「スーパーブレーン」という位置づけにあるものだ。人間の個の「自分意識」は多くの他の「自分意識」と関わりながら、学習と共感作用により増幅発展していく特性がある。その特性が及ぶ範囲はかつては人間の物理的行動距離と接触できる情報量の限界によりかなり狭いものであったが、現代ではその範囲は幾何級数的な拡大を遂げている。具体的に言えば、現時点において個人のスマホ一台で全人類78億人と相互にTV電話やSNSなどで無料でコミュニケーションすることが原理的には既に完成しているのだ。そして進化しつつある翻訳機能を駆使すれば全人類と78億人の知識データとそのアーカイブを相互利用することも可能なのだ。そういう環境で育まれるだろう人間の智性と知性は計り知れないものがある。現在は現実的な様々な障害があり事実上の実現はまだなされてないが、その障害が取り除かれた時代がやってきたら、多分世界には78億人の知性と智性が相互作用し、シナジー効果とスパイラルアップ効果により超越した「超越自然」、すなわち「スーパーブレーン」を形成させる可能性が予測される。
人間は無機的で無限大な万物の事実を科学的に明らかにした上で、そこに意味づけをすることができる。猿が見てる天空と人間が見てる天空の差、それは見えてるものの差ではなく意味づけの有無の差なのだ。我々人間が意識し、認識している世界は全てが人間の意味づけした夢であり、フィクションであり、想像イメージなのである。
しかしそれは極めて壮大な創作物語(ストーリー)なのである。
我々人間はその物語の中で生きているのだ。
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