第5話「幸福意識」

 あなたの大好物が漉し餡団子だとしよう。

ある日あなたは街で偶然、漉し餡だんごを見かけたとする。

目:< あっ、なんかいいモノ発見!>

脳: <それは大好物の漉し餡団子だ!>

心臓: <よっしゃ!全身に元気モード発信!>

脳: <心臓の鼓動アップモード了解!全身は大好物に接近する対応をせよ!>

手足: <全速力で大好物接近動作中!>

消化器官: <スタンバイ!消化液準備OK!>

鼻: <いい匂い感知!>

全身: <了解!心臓、肺にさらに心拍、呼吸数アップ要請。>

心臓,肺: <了解!>

脳: <大好物ゲットの行動を関連各器官が協力し合って実行せよ。>

手足: <了解です!摂取した栄養は直ぐに送ってね!>

口: <ただ今、漉し餡団子体内侵入!とても良い感覚。味覚器官全集中!>

脳: <今まで食べた中でも一番美味いと認証する!>

心臓: <更に心拍アップ!全身動作機能アップ!>

全器官: <動作機能最高モード!快感!>

脳: <よっしゃ!漉し餡団子の摂取は我が身、我が存在にとって最高の活性化をもたらす。これを自分の「幸福」という分類に登録する。>

全身: <OKこの状態を共有する!>


 これが現在最も新しい科学的な理解なのだ。

 幸福という意識は人間の全身が機能する、感知、情報発信•受信と相互処理、行動、連携行動、活性変化、共感共鳴などにより、形成されるのだ。 

 この時、人間というプルプルクラウド体は一定のプルプルモードの姿(状態)を示しているはずだ。

 それは確かに存在するものではある、しかし単独ではどこかに取り出したりは出来ない水面や境界面のようなものでもあり、完全無形のソフトウェアであり、そういう意味では物理的には存在しないものでもある。

〝在る″と同時に〝無い″という状態。

 瞬間、瞬間のプルプルエネルギークラウドの状態モードが意識(心)というものの正体なのだ。雲がアイスクリームに見えてるからアイスクリームと意味づけることと同じなのだ。だからもしある日、突然食べた漉し餡団子で食中毒を起こしたら意味づけは一気に変わる。漉し餡団子は、油断できない「不幸意識の対象」に意味づけが変わったりする。もちろんそれはプルプルモードが別モードに変わって、全身がその反応をするからだ。

 脳の前頭前野が意識の働きに大きな働きをしていることは事実にしても、決して人間の脳の働きだけで意識(心)の形成を為しているというような単純なものではないのだ。ましてや脳の在りようが意識そのものだったりはしないのだ。

 心臓という臓器が心の形成には大きな働きをしているのだ。

 全身の在りようが心(意識)であり、全身が心(意識)そのものではないのだ。

 

 人間の異性間で愛を育むのも同じメカニズムが働く。全身の五感が総動員され、全身のネットワークコミュニケーションによる鼓動と呼吸のリズムによりプルプルクラウドモードが♡マークに達すると「愛の意識」のポイントは加算されていく。

ポイントが増える程に愛は深まり、ポイントが減ってくると愛は薄れていく。

例えば高齢になった夫婦が、SEXによる効果的な♡ポイントが加算されなくとも、愛を熱く語らう行為で効果的な♡ポイントが加算されなくとも、毎日の居心地の良さと傍に居る安心感だけでも♡ポイントは加算されたりする。長く人生を共にし、苦難も含めた歴史を共有している戦友意識でも全身のプルプルクラウドモードは♡マークに達したりする。♡マークが積み重なり、ポイントが加算され「愛の意識」は「幸福の意識」と重なり合っていく。決して、脳の前頭前野が独裁的に決めているわけではないのだ。心臓の鼓動と肺による呼吸のリズムは時にハイテンポで愛を育むこともあれば、時に穏やかでゆっくりとしたリズムで愛を育むこともある。脳の前頭前野はそれを見極めながら結果的に「愛の意識」を管理し、育んでいく。

発達した頭だけで考えた愛は空振りになることが多い。

激しいSEXと熱い愛の言葉を重ねれば単純に愛が深まる訳でもない。

全身がフィールする深い感覚や蓄積時間に拠り所を持ったものが本物の「愛の意識」だったりする。


 脳はその全身プルプルモードを全て情報化する。逐一意味づけし、記憶として処理する。全器官が体験したこともまた情報化し、記憶として処理する。それらの記憶は天文学的な膨大な量になる。

 人間はその膨大な量の記憶の処理を睡眠中に行う。レム睡眠と呼ばれるものだ。

レム睡眠は浅い眠り、ノンレム睡眠は深い睡眠とする俗説がある。それはほとんど正確な意味を表していない。レム睡眠は人間の脳が覚醒している時と同じくらい活発に活動している状態なのだ。それは脳波の活性度を測定するとリアルにわかるらしい。

 レム睡眠中、具体的に何をしているのか。

国会図書館にも負けない記憶のアーカイブの引き出しをランダムに開けて、記憶の整理をしているらしい。ある記憶をピックアップし、要らないものは消去、要る情報は関連する他の情報も集めて来て編集する。新しい意味づけも行う。そして編集したものに意味付したタグをつけて再度保存モードで保管する。最近はスマホがスマホ内のアルバム写真を勝手に編集して、タイトルとBGMを付けて鑑賞を推奨してくれる。人間も睡眠中に同じようなことをやってるらしい。しかも同じく映像情報として。従ってその最中に目を覚ますと夢としてその作業の一旦を垣間見る。ランダム編集だから現実に体験したストーリーとは異なるものにもなる。

 自分にとって不要な情報はどんどん消去される。必要な情報は編集された上で保存される。それによって自分の国会図書館は常に情報の新陳代謝が行われ、結果として、全身が体験した意識も新陳代謝される。そして認知、知性、情緒、人格、性質に相当するものも、睡眠中に変化する。覚醒中ももちろんそれは外界と接しながら行われている。しかし人間は睡眠中もレムモードで覚醒モードとは異なる新陳代謝を行っているのだ、その両方の作業により、人間の意識は総合的に形成されている。そしてどんどん変化している。それを人間は人間的な成長などと呼んでいる。人間は自分自身で分かる顕在意識と分からない潜在意識としてそれを何となく感じている。

 偉大な科学者や芸術家は朝一番の発想や思い付きを重要視し、枕元にメモ用紙をおいて置くというようなエピソードをよく聞く。さもありなんなのだ。

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