第3話 終わりの始まり

「立ち位置はそのままで先攻と後攻が入れ替わります! よろしいですね!」


 レフェリーの言葉に首を縦に振る。


「セット!」


 俺とJKMは体の軸を斜めにして利き腕を後ろに引いた。


「チョイス!」


 再びこの時間がやってきた。

 たった三十秒の間に何を見出せるか。


 JKMは先ほど真っ向からパーを選択してきた。

 データ上、やつが二度連続同じ手を出してきたことは過去一度としてない。

 なので、次もパーを選択する可能性は消してもいいだろう。

 となると、グーかチョキということになるが、俺は確実にジャンケンに勝たなければならない。

 既に体は限界を迎えているし、これ以上長引くと危ないからだ。


「……どっちを出すんだ」


 残り十五秒。俺は真剣に迷っていた。


 やつがパーを出す確率は0%に近い。

 グーとチョキはフィフティフィフティといったところか。

 あいこで引き分けることは絶対に許されない。

 外してはならない二択だ。


 どうする、俺。


 いや、決まっている。自分を信じろ。俺は握りしめたこの拳で勝ち進んできたじゃないか。


 シオリがくれた鎮痛剤がようやく効き始めたのか、先ほどよりも痛みは幾分か和らいでいるように思える。


「よしっ!」


 俺はグッと力強く拳を握りしめた。

 何が何でも沈めてやる。


「オープン! 先攻のジョン・Kェェェ!」


 ここで三十秒が経過し、レフェリーは俺に手札を明かすよう目で促した。


正義ジャスティス復讐パンチ拳ッ!!!!!!!!!!」


 俺が腕を突き出し声を大にして叫ぶと同時に、俺の背後に鬼が現れた。


「なにぃぃっ!? グーだと!?」


「後攻のJKM! オープン!」


 俺の心理の把握に失敗したのか、JKMは驚嘆の声をあげていたが、レフェリーは構わずにオープンするよう言った。


「くっ!」


 奴が出した手はチョキ。しかし、完全に気が抜けたのか技は発動されなかった

 残念だったな。あいこで引き分けならまだしも、ジャンケン自体に敗北すると手札や技の強さは全く関係がないんだ!


「正義の鉄拳を喰らえ!」


 俺は拳を振るった。

 これで終わりだ!!!!!!


 月から地球へ吹き飛べぇっ!


「グワァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!」


 すると、まともに受けたJKMはあっさりと吹き飛び、闘技場コロシアムの壁に勢いよく追突。

 カクンと首を垂らして脱力すると、難なく意識を失った。


 それからしばしの沈黙を置いて、オーディエンスはスタンディングオベーション。

 

「な、なななななな、ななな、なんとととととととぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーいうことでしょうかぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー! 勝者はまさかまさかのジョン・Kェェェェェェェェェッッッッ!!!! 新進気鋭のダークホースがオッズ100倍以上の下馬評をひっくり返しました!」


 レフェリーは唾を撒き散らす勢いで叫び声を上げ、闘技場コロシアムのボルテージは最高潮になった。


「は、ははは……やっ、たぜ……」


 俺は目眩に頭を押さえ、血濡れた右腕をだらりと垂らした。

 肩から先の感覚が全くない。

 酷使しすぎて神経が切れちまったか……痛えぇ。


「至急、両者のメディカルチームは安否の確認をお願いいたします。なお、優勝したジョン・K様には大会参加者全員の全ての資産とMVP賞として”ゴールデンジャンケントロフィー”を差し上げます! これにてTWSKJは終了となります! オーディエンス皆様、参加者の皆様、そして裏でサポートをしてくださったボランティアの皆様、まことにありがとうございました! では、また四年後にお会いしましょう! 次の舞台は火星です!」


 満身創痍になりながら、俺はレフェリーの締めくくりの言葉を最後まで聞いた。


 それを聞いてすっかり安心してしまったのか、途端に意識は朦朧となり、立つことすらままならなくなってしまった。

 硬い石造りの地面に倒れ伏し、血と汗で歪む視界の中で駆け寄ってくるシオリの姿を見つけた。


「ゆーくん! ゆーくん!? 早く、傷の手当てをしないと! 待っててね今すぐ——————」


 何やらシオリが俺の体を抱えて涙を流していたが、俺の意識はここで途切れてしまった。

 ゆっくりと目を閉じ、闇の世界に入り込む。

 ここで死ぬなら本望だ。

 喜んで受け入れよう。

 得た大金は残された家族、そしてシオリを含めたメディカルメンバーに行き渡るといいな。




◇◆◇◆◇◆◇◆





「はっ! 夢か……」


 ハッと目を覚ました。

 なんだよ、TWSKJって……。ジャンケンがサッカーやバスケを超えた世界的な競技になるわけがないだろうが。


 大学に行くのが面倒すぎておかしな夢を見てしまった。

 そもそも俺は一人っ子だし、可愛い幼馴染のシオリちゃんもいない。


「やべ、昼から講義だった」


 おかしな夢を見ていたせいで時間を無駄に過ごしてしまった。

 早く家を出なければ講義に遅れてしまう。


 とっとと夢のことなんか忘れて、今は現実に目を向けないとな。


 さあ、今日も一日頑張るぞー!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

ジャンケンで全てが決まる世界〜The World's Strongest King of Janken〜 チドリ正明 @cheweapon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ