第2話 技のぶつかり合い!
直径200メートルほどの円形の闘技場(コロシアム》に、レフェリーの興奮した声が響く。
「さぁ! いよいよ待ちに待ったTWSKJの決勝戦だ! 本日、この四年に一度開かれる世紀の一戦を見届けるのは、なんとなんと100,000人を超えるオーディエンスだ! 準備はできているかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?」
マイクを片手に
殺せだの、血飛沫をあげろだの、死ぬ気でやれだの。
普通のスポーツでは考えられない罵声だが、ジャンケンは常に危険と隣り合わせの競技だから仕方ないか。
年間の死者数は1,000に近いし、俺だって何度も死にかけたことがある。
「それでは、両者の紹介に移ります。まずは先攻、赤コーナー、魑魅魍魎を体現したかのようなジャンケンマスター。世界No. 1の称号は伊達じゃない。俺様の目の前に立つやつは問答無用で木っ端微塵だ! JKMゥゥゥゥゥゥッッッッ!!!!!!!」
静まる空気感の中でレフェリーが紹介を終えると同時に、オーディエンスはドッと沸き上がった。
その声に空気と地面が大きく揺れていることがわかる。
「へはははッ! 一瞬でぶっ飛ばしてやるゼェ!」
そして、俺の真向かいの入場ゲートから現れたのは、筋骨隆々とした大男だった。
JKM……。
実は俺がジャンケンの世界に入って、公式戦で初めて対戦した人物でもある。
当時十歳だった俺は、全く歯が立たずに蹂躙されてしまったが、今回に限ってはそうはいかない。
「続きまして、後攻、青コーナー、今大会のダークホース! 体格の小さな黒髪短髪の日本人は、二十歳にして初の決勝進出! 初の公式戦でJKMに蹂躙された少年が成長してCome Back Again!! ジョン・Kェェェェェェェェッッッッ!!!!!!」
俺はゆったりとした足取りで
に入場していく。
JKMほどではないが大きな歓声が聞こえてくる。
大番狂わせを期待する人々がそれなりにいるのだろう。
全世界に中継されて、大規模な賭けジャンケンまで行われているので、当然と言えば当然か。
「久しぶりだな。JKM」
知らぬ間にレフェリーが退いていた
俺はJKMと向かい合った。
「ひゅ~ぅ! そんなに怖い目で見るなよ。っていうか、俺様はお前のことなんて知らないぜ?」
「だろうな。だが、俺にとっては十年越しのリベンジマッチということだ。お前の無敗記録を今日で終わらせてやるよ」
「くははははっ! やってみろ。俺に敗北を教えてくれ!」
JKMが豪快に笑うのと同時に、レフェリーは騒がしい会場を沈めるために一度だけゴングを鳴らした。
「それでは、世界最強ジャンケン王決定戦~The World's Strongest King of Janken~の決勝戦を始めたいと思います。両者準備はよろしいですか?」
「ったりめぇだ」
JKMはふてぶてしく返事をした。
逆に俺は無言で首肯する。
レフェリーはそれを確認したのか、大きく息を吸い込んだ。
「——————セット!」
その掛け声と同時に俺とJKMは、体の軸を斜めにすることによって利き腕の拳を後ろに隠す。
まるで剣や刀を抜き払うときのポーズのようだ。
既に心理戦はスタートしている。
相手の目線や呼吸の頻度、肩口から腕にかけての筋肉の動き。それら全てを見逃すことなく観察する。
「チョイス!」
次に頭の中で何を出すかを選択する。
グー、チョキ、パー。相手が出しうる三つの手を予測し、こちらも手を考える。
制限時間は30秒だけ。
事前に収集したデータによると、JKMの得意手はパーだったはず。
だとしたら、俺はチョキを出せば勝てるはずだが、そんな安直にパーを出してくるとも思えない。
消極的に攻めるのならば、こちらもパーを出すのが良いだろう。引き分けに持ち込めば、再度チョイスの機会を与えられるし、心理戦に必要な情報もいくつか得られるはずだ。
「終了! 世界最強の座は一回で決するのか!? まずは先攻、赤コーナーのJKM!」
——————ゴーーーーーーーーン。
腹の底にまで響くような重低音の鐘が鳴らされた。
同時に俺とJKMは利き腕を前に突き出して、順に叫んで技を発動させる。
「
JKMが左腕を突き出すと、彼の背後に闇より深い闇が現れた。
全てを飲み込んでしまいそうなそれは、ただ見ているだけで、精神が破壊されてしまう。
グッ……! 耐えろ!
レフェリーが反撃の合図を出すその時まで、じっと忍耐するんだ!
「後攻、青コーナーのジョン・K! 真正面からぶつかり合うのです!」
「
圧に押し負けてしまいそうになりながらも、俺は何とか技を発動させた。
技と技がぶつかり合うことで、爆音を上げながら砂煙が巻き上げられた。
酷い衝撃だ。多少は様子を見て手を抜いてくると思ったが、まさか初っ端から全力で来るとは!
「……はぁはぁ……っっ……ッ!」
俺は息を荒げながら、砂煙の向こうにいるJKMの影を捉えた。
たとえジャンケン自体が引き分けだとしても、相手の力の強大さに負けてしまうと、こちらの手が封じられてしまう。
今は何とか技を発動できたから良かったが、もう一歩遅れていたら間違いなく死んでいたことだろう。
やがて砂煙が晴れると、そこには何でもない様子で佇むJKMの姿があった。
「ひゅ~ぅ! 俺様も少しばかり危なかったぜぇ。雑魚のくせに結構やるじゃねぇか。遊びはこの辺にしてとっとと決着つけるとするかね」
口笛を鳴らすと、挑発するような口調でそう言った。
どうやら次で決着をつけるつもりらしい。
俺としては長期戦にもつれこんだら都合が悪いので、ありがたい話だ。
しかし、こうなるとますますJKMの考えが読めなくなる。
「素晴らしいィィィィィィィィ!!! 両者ともにピンピンしています! あれほどの攻防があった後とは思えません!」
レフェリーは沸き上がるオーディエンスに負けないように声を張り上げる。
かなり興奮しているようだ。
「……こい!」
息を整えた俺は、痙攣を起こす右腕に鞭を打って気を引き締めた。
既に感覚はない。
指の先が僅かに動く程度で、これがラストジャンケンとなるだろう。
この一撃に全てを懸ける!!
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