第7話
地球風にいうならば丑三つ時、アーヴィンすら眠っている深夜に私とエドワードは神官が待つという教会まで馬を走らせた。
町外れにあったそこは既に朽ち果てる寸前の廃墟で、神官は中にも入らずに外で私達を待ってくれていたようだ。
いつから?
「ウスハ、少し待っていて……あ、アーヴィンの事は秘密だよ」
ソッと肩を抱かれて数秒後、神官に近付いて行ったエドワードは、教会の中を確認するためだろう、2人して中に入っていき……数分後、神官だけが出て来た。
なんだろうな、こういう場合神官は教会の前にある祭壇っぽい所にドンと立ってるんじゃないっけ?
いや、地球での結婚式はなんの参考にもならないか……もしかしたらこっちの世界の結婚式は神官が新郎新婦を所定の位置までエスコートするってのが一般的かも知れないし。
でもさぁ、黒いローブ姿って結構不吉じゃない?
神官でしょ?普通白じゃない?
あぁ、でも今はひっそりと祝福をしてくれるって前提だから、目立つ白いローブは避けてくれたのかな?そういう私だって暗い色の服だし。
「勇者ウスハ、中へどうぞ」
思ったよりも状態の悪い教会の中には、先に入って行ったはずのエドワードが床に倒れていて、その傍らには、レベルは弱いけれども1人の人間を殺すには問題のない武器を持ったモンスターが1匹。
これは、一体?
「勇者を倒すのは骨が折れますでしょ?丁度エサになりそうな弱い人間がいてくれて助かりましたよね。少しでも抵抗したらあの人間が死にますよ」
なんだ?この状況は。
勇者を倒す?
「私を倒したい?なんの為に?」
勇者を倒したいだなんて、そんな魔王みたいな事……いやいやしっかりしろ、魔王とかモンスターとかは後から考えればいい。今はあの弱い魔物を1匹ブッ倒してエドワードを助けるのは先決だ。
念のために光属性のスキルを神官とモンスターに向かって使い、私は倒れているエドワードを担いで教会を出て、追いかけて出て来るであろう神官を迎え撃つため、エドワードの前に立って入り口を睨みつけた。
出て、来ない?
「う、ウスハ……ウスハ……?」
代わりに教会の中からは明らかにさっきの神官の声なのに、何処か知っている声で私を呼ぶ声が聞こえてきた。
なんだ……これは。
「勇者ウスハ」
そして後ろからはエドワードの声のくせに全く知らない声で私を呼ぶ声と、これまでに散々聞いてきた剣で肉を斬る音。
「ウスハ?……っ!ウスハ!」
そしてヨロヨロと教会から出て来た神官は、私を確認するなり駆け寄ってくる。
この神官は魔王討伐の時にいた……あの時の魔王は本当に呆気なく消えて拍子抜けしたんだっけ。それで今度はこの神官がまるで魔王のようなことを言って私を殺そうとしてきた。なのに今はこうして……エドワードみたいな表情と言葉遣いで私を心配している。
なら、私を剣で突き刺しているこのエドワードは?
「五月蠅い」
突き刺さっていた剣がずるりと抜けていく感触と、それとは別に肉を切り裂く音がして、上からビチャビチャと生温かな液体が振って来たと同時に、私の足元に1つの生首が転がってきた。
途端、さっきまで私を呼んでいた声が消える。
膝が地につき、倒れ込んだ私の頭の中を埋め尽くしていたのは、恐らくは人間に乗り移ることで生きながらえていた魔王の精神に対する悪態でも、魔王を倒せなかった悔しさでもなく、ほんの少しだけ過ごした親子3人での平和な時間だった。
アーヴィンに、私が持っているすべてのスキルが授与出来れば良いのに……。
せめて光属性の魔力だけでも……。
「……薄葉さん、目ぇ冷めた?」
突然「ウスハ」ではなく「薄葉」とハッキリ呼ばれた事にビックリして飛び起きてみると、そこは保健室のような雰囲気の場所だった。
だけど目の端にちらちらと映るのは背に羽をはやしている天使だから、ここは地球でもないし、さっきまでの事も寝オチとかではない。
でも、それはそれとして藍川君?地球に転生させられたって聞いた……じゃない!
「良く分からないから説明して。エドワードは?アーヴィンは?」
少し……いや、随分と取り乱す私に、藍川君は随分と丁寧な説明をしてくれた。
私が攻略に失敗してしまったあの世界では、エドワードの姿をした魔王の正体に誰も気が付かないまま王太子とその妃である天然の転生者が手にかけられ、そのままエドワードが国を治めることで魔王の世界征服が成し遂げられたそうだ。
そんな世界でアーヴィンは生きている事、そして、私には功績に対するポイントがあるから地球で同じ両親から薄葉として生き直すことが出来る事と、残ったポイントを藍川君が欲している事。
でも、私の願いが叶えられるのだとしたら、ポイントなんか余らないんじゃないかな?
「エドワードも地球に転生させて欲しい……地球で、今度こそ結婚式挙げるんだ」
どう?ポイント余りそう?
異世界にいた運命の人 SIN @kiva
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