第6話

 魔王討伐を終えて数日が経った。

 私はまだ元の場所に戻れる気配はなく、魔王を退治した勇者として彼方此方のパーティーへの招待を受けることになっていた。

 勇者としてのパーティー参加なのでドレスではなく制服で良いからまだ楽なんだけど、この世界に住む貴族ってのはどうしてすぐ人に結婚を進めて来るんだろう?

 どこぞの次男とか三男とかを紹介されても、私はこの世界に永住するつもりはないんだけど、少なくとも3年は暇なのよね……モンスターの残党狩りと称して山籠もりとかしようかな?

 「あのっ、勇者様。私はエドワード・メンデルストーン・トワイライトと申します」

 何処か聞き覚えのある名前を名乗りながら話しかけてきたのは、ヒロインと恋仲に発展しそうにはない王太子の弟だ。

 「初めまして、薄葉で良いですよ王子様」

 「う、ウスハ様、僕っ、わ、私とけっ、結婚……してください。ませんでしょうか……」

 うん……あのさ、結婚を進めてこられても困るのよね、どこぞの次男とか、三男とかさ。だって私はこの世界に永住するつもりはないし、ね?

 「少なくとも、今日初めましての人との結婚は考えられないよ」

 「3度目です。僕の印象が薄いのなら、毎日会いに行きます!」

 え?3回目?どうりで名前に聞き覚えがあると思ったわ。

 でもさ、毎日会いに行くとかそんな、なんというか、恋する乙女みたいな台詞と顔で迫られても最大級で困る訳よ。

 いや、分かるよ?勇者をこの国に留めるには結婚が1番有効な手段だし、王太子は既に天然の転生者と仲睦ましいしで次男が私の所に来てるってのは分かる。

 私はこう見えて、いくつもの異世界を救ってきた勇者よ?不老だし、実際何歳なのかだって最早あやふやで……。

 「毎日ですか、楽しみにしておきます」

 とりあえず王族だし無碍にするといくら私が勇者だってもそれなりにお咎めがあるかも知れないから、とりあえず返事は先延ばしにしておこう。

 毎日会いに行くって言うんだから来てもらおうじゃない?で、1日でも来ない日があればそれを理由に断れば良いんだし、王子もそのうち飽きて来なくなるだろうしね。

 と、思ってたんだけど……エドワード王子は毎日毎日本当に私の所にやって来た。

 宿に泊まっている時には宿に、パーティーへ行けばパーティーへ、ダンジョン攻略中なんかはダンジョンまで。もうね、ビックリを通り越して爆笑してしまったよ。

 地球ならストーカー?ってなるところなんだけど、ここは都合のいい異世界。魔法って概念のある世界。で、王子が言うんだよ、瞬間移動の魔法があるんだよーってさ。

 なんでもなさそうに、王族にしか受け継がれないスキルの目的地を私に合わせちゃったんだよ。

 生涯に1度きり指定できるという目的地を、だ。

 うん、永住しよう。

 こうして私はヒロインよりも先に婚約を済ませることになったのだが、王太子もエドワードもまだ魔法学校に通う学生の身なので、とりあえず卒業するまで待とうということになり、大人しく待つこと3年、遂に王太子が結婚式を挙げる日がやって来た。

 「兄さん達の結婚式、だね」

 王太子と同学年のエドワードも魔法学校を卒業したんだけど、王太子よりも先に式を挙げるのは何かと不都合があるようで、先延ばしにされるらしい。

 それどころか、結婚式を挙げる事すらできない可能性まであって……その理由が部屋の中央に置かれている小さなベッドの中にいる。

 正真正銘私とエドワードの子供、アーヴィンは父親似で物凄く可愛らしい。

 そんな我が子には私の光属性がほんの少しばかり宿ったので、王室から追い出されたとしても冒険者としてやっていけるだけの強さも約束されてるんだから将来は安泰だ。

 「披露宴なんかしなくても、手続きさえすりゃ夫婦なんだし私は良いよ」

 それに、アーヴィンの存在を大々的に公表する訳にもいかないしね……王族に間違いなんだけど、母親が異世界人である私だから、王位継承権のある男児を産んではいけないってのがエドワードと結ばれるための大きな条件だったわけ。

 「魔王討伐の時、現王に使えてる神官様が参加したのは知ってる?」

 え?そんな大層な肩書の人も参加してたんだ?言っておくけど、私人の名前って覚えられないのよ。しかもここって無駄に長いカタカナの名前でしょ?フルネームで覚えてるのって、本気でエドワード位だよ?

 と答えるわけにはいかないよね、私ってその時総指揮官だったんだから。

 「……う、うん……シッテル」

 「ふっ。その方が僕達を夫婦として祝福してくれるって言ってくれてるんだよ。あ……でも招待客とか、友人も呼べなくて、2人きりなんだけど……」

 こっちの世界に友人とかいないし、そんなのはどうでも良い。神官による祝福すら私にはどうだって……だけど、エドワードが祝福を受けたいというのなら、それはもうどうでも良い事じゃない。

 2人でひっそりと、こっそりと祝福を受けに行こう。

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