第5話

 天然の転生者が魔法学校の入学式を行っている頃、私は魔法学校からかなり離れた場所にあるダンジョンの攻略をしていた。

 いくつもの冒険者と兵士で編成されたパーティーの総指揮官として。

 理由は明白、この世界が私のレベルに対してかなり低かった。それだけの事。

 当初の目的は、適当に強さをアピールして、あわよくば魔法学校に通う事になる貴族の子息化令嬢の護衛騎士として雇ってもらって、平和的に魔法学校へ出入りできる権利を掴むことだったんだけど、ただの冒険者を貴族が相手するはずもないって事で兵士になるためのテストを受けることにして……そこで少し力加減を間違っちゃったのよね。

 3勝2敗位のギリギリ感?50点合格の所を70点で合格みたいな、そんな良い感じのラインを攻めたつもりが、審判の上官をも吹き飛ばすという圧勝をしてしまったがためにお城から正式に兵士として働きなさいとオファーがくるというね。

 でも、魔王が何処かに封印されてるのだとしたら、こうして彼方此方世界中を巡れる方が見つけやすいのかな?って事で、今に至るんだけど……もうねぇ、事前に渡された小説は何だったんだろう?ってくらいには簡単に見つかったからね、魔王。

 そして今日、その魔王の討伐部隊の総指揮官として私は多数の冒険者と兵士のパーティーを率いて進軍中。

 一応ヒロインによってトドメを刺さないと倒せないかも知れないって言ったんだけど、ヒロインは同行してはくれず、かわりにヒロインの聖なる魔力をほんの少しだけ宿した小刀を渡された。

 弱らせてからこれでトドメを刺せばいい。って事のようだ。

 でも、この世界のレベルは低いし、レベルは低いとはいえこの世界での上級の冒険者と兵士を連れ立っているんだし、倒せないってことはないだろう。

 なんなら私の光属性魔法で一発KOとかあるかも知れないし。

 ダンジョンの入り口付近の魔物は、それこそ本当にスライムレベルなので、初級冒険者でも攻略は難しくなかったし、中層でも上級の冒険者数人だけでも攻略できるだろうショボさ。下層も似たようなもので、私達はほとんど全員が無傷のまま魔王が封印されている最下層まで来れていた。

 きっとここで昼寝をしても特に問題なく過ごせてしまうのだろう手応えのなさ。

 ここまで楽勝だなんて不自然だよね……。

 私はともかく、この世界に住んでいる冒険者や兵士ですら楽々ここまで辿り着けてしまっている。

 この世界にとって脅威であるはずの魔王の部屋の前まで、だ。

 いままでクリアしてきた異世界には、魔王を守る為の四天王とか、ラストダンジョンは強めの敵がうようよしてるとか、とにかく侵入者を本気で排除しようという姿勢が見えた。

 なのにここはどうだ?

 どうぞ入ってくださいと言わんばかりじゃないか。

 得体の知れない不安……それに、スカイ・ルリ・アクアマリンはこの世界の攻略には数年かかると予想していたのに、私は2か月足らずしかこの世界にいない。

 「ウスハ様、我々が先に入ります」

 そう言って私の前に名乗り出た2人の兵士。

 何時の間に「様」付で呼ばれるようになったんだろう?

 いや、それより総指揮官としてここは行かせていい場面?

 ギィィィィィ。

 返事もしていないうちから魔王の部屋の扉を開けた2人。その先に見えるのは封印されている魔王の姿だ。

 本当に封印されてるのか……目覚める気配すらないな。

 「……攻撃、しますか?」

 まぁ、ここまで来たんだし魔王は倒さなきゃならない。

 「光属性のこの剣で急所をつくだけで良いだろ」

 サックリ、サクリ。

 一応光属性を剣に追加で流しながら心臓部と頭部に2度攻撃をすると、魔王の体はうんともすんとも言わないままキラキラとした粒に変化し、そして消えて行った。

 ワァ!と湧く冒険者と兵士達。

 うん……え?終わり?

 念のために部屋の中をくまなく探してみたけど、別の魔王が隠れている訳でも隠し通路がある訳でもなく、本当に魔王の討伐はなったようだった。

 だとしたら可笑しいんじゃない?

 どうして私はまだこの世界にいるの?

 魔王を倒したらその後は元居たあの広場に戻れるはずでしょ?早く戻って、受け取った時の5倍ほどの分厚さにまでなったこの小説をスカイ・ルリ・アクアマリンに投げ返したいんだけど?

 あ……そうか。

 小説の内容を最後まで追わないとクリアにならないとか、そんな感じ?

 あぁ、だからクリアには数年かかるってことなのね?

 そっか、別に魔王が手ごわいって意味じゃなかったのね……え?ここから天然の転生者が小説のラストの魔法学校卒業するって所まで待たなきゃならないわけ?

 暇なんだけど……。

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