第4話

 さてと、私のやるべき事はこの小説とは一切関係がないから、ここからはいつも通り魔王を探して退治することに集中しますか。

 ただ気にかかるのが、先にこの世界に呼ばれているのがあの天然であることと、魔王の闇属性と対になる光属性をヒロインも持っていること。

 今までの魔王は私がとどめを刺せば退治できていた。それは私が「勇者」であるからこそ出来る一種の光属性のスキルだったんだけど。

 この世界での私は恐らく「勇者」ではない。

 とどめを刺せるのは、先に呼ばれた天然か、それともこの物語の主人公ともいえるヒロインか……。

 とりあえず、魔王を探さないことには始まらないんだけど、こう何度も異世界攻略をしていると、魔王が居そうな場所って大体見当がつくようになる。

 それに加えて今回は原作という名のヒントまであるんだ。

 この小説がどうしてこんなにも恋愛にばかり焦点を当てることができているのか、世界の脅威である魔王の存在をいとも簡単に排除できているのかを考えれば簡単に想像がつく。

 ようは、攻略対象者の中……いや、ネームドキャラクターの中に魔王がいる。

 既にヒロインに絡んでいるのか、それとも隠しキャラクター的存在で、スピンオフ小説か何かで詳しく書かれることになるキャラクターか……そのどちらにしても、原作が終わる前に何らかの形でヒロインに接触する。

 魔法学校に通う女の子が出会うってんだから、モンスターが出そうな森の奥とか山の上とかな筈がない。

 つまり、ヒロインの行動範囲である王都のどこかにいる。

 でもそれだと腑に落ちないことがあるのよね……。

 私はこの世界に来る前に「ノンビリできてご飯が美味しくて何年かかかりそうな所にして」そう注文を付けた。

 こんなヒントとなる小説まで手渡されて、その上ネームドキャラクターの内の誰かが魔王なのだとしたら、1人づつ当たって行けば2日もあればカタが尽きそうなものだ。

 魔王はまだ封印されている状態で、数年後でなければ復活しないとか?

 魔王が作中にいることを意識してもう1度小説を読み返した方が早いか。

 私から目をそらしたくせに、チラチラとこっちを気にしている天然に背を向けて宿に戻り、ベッドに寝転びながら本日3度目の読書の時間。

 長ったらしい自己紹介文と、要所要所に入る何らかのレシピ、関わりたくないと言いながらデートする様子や、自分から率先して原作からかけ離れた行動を起こしておきながらの「こんなの原作になかった」発言。

 それでも攻略のヒントがあるかも知れないので熟読しなければならない。

 あ、でも本来は魔法学校を入学した所から始まる訳だから、この延々とした増量部分は読まなくて良いのか。

 それに、魔王の復活が数年後なのだとしたら中盤辺りまでは読まなくて良いのかも知れない。

 あぁ、でもそれだと登場人物を把握できないか……いっそ私も魔法学校に入学してみようかな?

 ただの冒険者が学校に通うって出来る事なのかな?それなら学校に通う事になる子供の護衛として雇ってもらう方が現実的?

 強さだけなら自信はあるんだけど、この世界のレベルがどの辺りなのかってにも把握しないとね。ならギルドにいって、上級冒険者のレベルがどの辺りなのかを調査して、ダンジョンとか適当に行ってモンスターのレベルの調査をしようじゃないの。

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