第3話

 小説を頼りに屋台のある市場の方へ向かい、なぜか不自然に木の陰に隠されているように設置されたベンチに、デート中の天然と王太子を見つけた。

 あれだけ仲良くなるのは嫌だと繰り返し繰り返し思っておきながら、随分と楽しそうだな……。

 仲良くなりたいのか、なりたくないのか方向性を一貫して欲しいものだが、恋愛小説のメインヒーローである見目麗しい王太子と一緒にデートというのだから楽しいのは楽しいのだろう。

 少なくとも、ちやほやされて悪い気はしない筈だ。

 さて、小説ではそろそろヒロインが現れる筈だが……えっと?

 さっきまで読んで把握していた内容がサラリと変わり、ヒロインがベンチの近くを通り過ぎるという内容から、裏道で酔っ払いに絡まれているという内容に変化した。

 「いやっ……誰か助けて!」

 そして聞こえてくるヒロインの助けを呼ぶ声と、警備兵達。

 裏道では助けられたヒロインが酔っ払いの手から助けられ、警備兵達に礼を述べて帰宅。天然と王太子はそんな事が起きているとはつゆ知らずにベンチで串焼きを頬張っている。

 本来はヒロインが王太子の前を通り過ぎる時に目が合って、王太子が一目惚れをする……その序とばかりにヒロインはハンカチを落として王太子が拾う。

 そして2人は魔法学校で再会し、ハンカチを見せることでヒロインは王太子を思い出してそのまま恋に発展していくと。まぁ、そんな感じの流れだ。

 残念なことに、いわゆる悪役令嬢として転生した天然は、ヒロインをイジメないようにと心に誓いながら過ごし、王太子とも早い段階から婚約破棄をしてーとか思い、既に婚約破棄を王太子に申し込み済み。

 原作なら魔法学校卒業まで王太子から何度も婚約破棄の話を出されても断っていた悪役令嬢が、だ。その上、他の攻略対象者とも距離を置くだの、ヒロインともできるだけ顔を合わせないだのと心に決めている天然は、婚約を破棄した後、魔法学校を卒業する時に断罪となった場合を想定し、事業まで起こしている。

 前世で培ったのだろう食の知識をフル活用させている……のは良いんだけど、小説の合間にいきなり始まるレシピはなんなんだ?

 トマトを潰して~とか延々ピザの作り方を説明されてどうしろってのさ。え?これを見ながらあなたも一緒に作りましょうって?

 だったら焼く時の温度とか、時間とか細かい香辛料とかも教えて欲しいし「こっちの世界に小麦粉の代用が出来そうなものがあって良かった☆」じゃあ、白い粉があるんだな?しか分からない。

 まぁイイヤ。

 で、この天然は原作にはない事を散々やって、いきなり家から追い出された時に困らないよう貯金をしているし、時々庶民に混じって城下町の食堂で働きもしているし、そっち方面ではもう他の攻略対象者との対面を経験済み。

 原作では魔法学校に通い始めてから出会うはずの攻略対象者とだ。

 にもかかわらず結構な頻度で会い、喋り、愛称で呼び、呼ばれ、まぁーちやほやとされている。

 パタンと小説を閉じ、天然と王太子が座っているベンチを眺めてみると、フト目が合い、不自然な程の素振りで目をそらされた。

 そうしてよくよく思って見ると、私の格好は一応防具は装備しているとはいえ、地球での学校の制服に違いない。

 この世界の女性は素足を見せることはなく、足首までしっかりと隠れるほどの長さを誇るドレスを着ている。

 まぁ、よくある中世を意識した舞台。

 そんな中で膝上の丈のスカートはさぞ珍しかろう。

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