第2話

 とてもとても予想外なことに、かなり大人しく案内してくれた酔っ払いに手を振って情報収集と金策の為にギルドで冒険者登録を済ませた。

 私にとっては何度目かの初心者冒険者の為のチュートリアルを受け、軽い依頼をこなしていくらかの報酬を手にしたら、宿を取って休憩。

 別に何か食べたい訳でもないし、睡眠だって必要ないんだからいちいち宿まで取って1泊する必要はないんだけど、内容が変わるという小説が気になったので、ゆっくりと読みたかったのだ。

 インベントリに入れていた小説を取り出し……

 「ははっ」

 内容がかなり変わっていることを読まずとも知れる小説の分厚さに、思わず笑ってしまった。

 3倍?いや、それ以上か?

 装備品を外してインベントリの中に入れ、楽な格好で椅子に座れば後は読書の時間だ。

 この世界に来る前に読んだ時、1ページ目の舞台は学校の入学式で、長々と主人公の回想が続いていたっけ。

 入学式中には同じクラスのイケメンと出会い、新入生挨拶にはイケメン生徒会長、式が終わって教室に戻る前に現れるのは腹違いの義弟の登場でこれまたイケメン。

 義弟だから攻略対象者でもあるし、同い年という都合の良さ。そして当然のように同じ学年にいる王太子。

 と、まぁこんな感じで一通りの紹介も兼ねて、それはもう長々と。

 異世界攻略に関わっていなければ始めの2ページで読むことを諦めていただろうカタカナの登場人物とカタカナの国名、隣国紹介をやられちゃ読む気が失せるってものよ。

 下手すりゃ人名なのか国名なのか分からなくなる。

 それはさておき、増量された小説1ページの舞台は天然の転生者が目が覚めるシーンから始まっている。

 そして簡単な説明……私は会社帰りに事故に遭って……とか言うアレだ。ここまでは普通に生きていたのにふとした切っ掛けで「前世の記憶を思い出した」とか言うアレ。

 何故、天然の転生者はいつも事故るんだ?

 確かに死なないことには転生出来ない訳なんだけど、何故他殺にする必要があるんだよ。

 何故物語始まってスグに事故現場もしくは犯罪現場を見せられなきゃならんのだ?

 誰かをかばって車にひかれるってのも多いシチュエーションなんだけど、あんなん実際には絶対無理でしょ。

 轢かれるーってなった時に走り出して、轢かれそうになっている人物とか動物を押しのけて自分が轢かれるんだよ?

 例え加速スピードが尋常じゃないほど良い人物だったとしても、既に轢かれそうになっている人物を、車よりも速いスピードで吹き飛ばすんでしょ?

 え?そっちの方が余程の怪我しない?

 無駄に車の前に飛び出して、元々轢かれそうになっていた人物もろともドカンってのが自然じゃない?

 まぁ、そういったシチュエーションで今回の天然の転生者がここにいるんだから、実際にはあるのかな?

 もしくは、そういう奇跡じみた事をやってのけられたから天然の転生者になれたのか……。

 ご丁寧な事に天然様は生前の名前と今世の名前まで1ページ目に詰め込んでくれたので、とりあえず私はこの天然が知り合いではないことが分かった。

 さてと、今度はどう行動するべきかな……天然の転生者が何処を目指しているのかも分からないんだから接触は控えた方が良いだろうし、今後物語に魔王が絡んでくるのかも分からない。それに今はこの小説で言うどの辺りなのか……。

 読めば分かるか。

 こうして大人しく読み進めていくと、特に話の区切りでもない場所で1ページもの空白があった。

 あまりに不自然なその個所を眺めていると、サラサラと文字が浮かび上がって来るので、現在地点がココである事が分かる。

 それによると天然転生者は魔法学校の入学を数か月後に控えたあたりで、現在は婚約者の王太子と2人でお忍び城下町デート中。

 「フフッ……関わりたくないのにどうしてこうなるのー、だって」

 あー、ありがちだよ。

 もう、なにからなにまでありがちだ。

 数ページ先を眺めれば、物語のヒロインとの偶然遭遇イベントがあるけど、天然はそれを知っている筈だ。それなのに何故城下町に行くという選択肢が出た?

 と、数ページ戻って王太子と城下町に行くことが決まった個所を読み返してみれば答えが書かれている。

 全ての内容を知っている天然の転生者は、主要な人物とは関わらないようにしようと言いながらも主要な人物がいそうな場所を狙って行動している節が見られる。

 で、その心情がこう書かれている「デッドエンドだけは回避して行動しなくちゃ」そのためにはある程度好感度を上げておく必要があると考えたらしい。

 ならここで王太子と城下町デートに発展していることは。好感度を上げることを考えれば成功していると言って良いだろう。それなのになぜ喜ばないんだ?

 城下町デートか……奇しくも今私がいる町は王都で、この宿は当然城下町に建っている。

 天然の転生者の顔でも拝みに行こうじゃないの。

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