異世界にいた運命の人

SIN

第1話

 5時間目の真っ最中、私達は突然異世界と異世界を繋ぐ中心的な世界……異世界に召喚されてしまった。

 丸々クラス1組毎だ。

 異世界人である羽有人、エンジ・シュウ・ローズクォーツの指示に従って3つのグループにわけられた私達は、他の異世界を救う勇者となるべく自主トレを強要され、私はめでたく魔法使いとして勇者となったのでした。

 こうして私はいくつかの異世界を攻略し、もはや人間とは思えないほどの力を得る事となった。

 スキルとかもそうだし、そもそも魔法が使えている時点で地球人じゃないよね。

 しかも不老だ。

 お腹も空かないし、眠くもならないなんて、人間の三大欲求どこ行ったの?って感じ。

 お腹は空かないけど、食べられない訳でもないから、たまに美味しいものは食べたくなるんだけどさ、それでもほぼ無だよ無。

 何のために生きてるの?って聞かれたら、魔王を倒すためとか、物凄く勇者らしいことが素で言えそうだよ。

 正直、それしかないしさ。

 だから異世界への案内人であるスカイ・ルリ・アクアマリンに頼んでみたのよ、次の異世界はノンビリできてご飯が美味しくて何年かかかりそうな所にしてーって。

 で、珍しく説明があった。

 数多くある異世界の中には、魔王とその勇者についての出来事がアイデアとして他の世界に飛ぶことがあるそうだ。

 それを受け取った者はアイデアを小説や漫画にしたり、ゲームにしたりする。かなり忠実に作られるそれらを読んだり見たりプレイした人間は、元となった異世界に呼び込まれやすくなり、その、物語に出て来る登場人物の誰かとして転生する可能性があるのだとか。

 そういった偶然に偶然が重なった上の偶然で転生を遂げた者の事を、天然の転生者、もしくは天然の転移者と呼ぶらしい。

 で、私が挑む異世界はそんな世界の1つで、既に天然の転移者がいるそうな。

 じゃあ何故私もいけるんだ?と思えば、どうやらそのアイデアが「魔王討伐」にベクトルが向いていない場合があるそうで……。

 アイデアを受け取った者が、そこにある恋愛要素ばかりをかき集めて生み出した恋愛小説、恋愛漫画、恋愛ゲーム。よく言うハーレム系や乙女系。

 日常的な所ばかりをかき集めた日常物、スローライフ系。

 これらの中には「魔王」という単語すら出てこないものまであるようで、私が今から挑むのもそういう世界なのだと。

 「予備知識として、例の小説を読んで行くと良いわ」

 そう言って出された小説を読んでみた感想は、よくある感じの魔法学校に通う平民出身の聖女と王太子の恋愛もの……卒業パーティーでの悪役令嬢断罪イベント含め、良くも悪くもありがちな内容だ。

 「読んだよ」

 「しっかり読んでてね。世界に入ったら天然ちゃんの起こした行動で内容が変わったり、変わらなかったりするから」

 どうやらこの本は私が貰っていていいようだ。

 「これの、誰が天然?」

 「人間だとだけ。物語に登場しない敵をどうやって倒すのか見せてもらうわ」

 そう言って落とされた異世界。

 いつもならば召喚士たちに囲まれているか、女神像の前にいるか、それっぽい遺跡の中にいるとか、なんかそんな感じの場所に着地するんだけど、この世界には既に天然がいるせいなのか町の裏通りみたいな場所に着地した。

 遠巻きに何人かがこっちを見ながらビックリしているようだけど……見る限り召喚士でもなさそうだし、酔っ払いだし。

 とりあえず、異世界の基本はギルドの登録をして金策する事だから、あの酔っ払いにギルドへの道案内を頼むとしよう。

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