第2話 死神と死神。
ヤンキー達は気が済むまで殴ったあと、“また明日”と最も聞きたくない台詞を残して帰った。
ギリギリの意識を無理やり戻し、痛む体を無理やり起こした。
この後、万年金欠の俺にはバイトが待っている。
いつまでもこんな所で寝てられない。
バイトから帰った頃にはいつものように心身共にボロボロになっていた。
布団に寝転がる。
ふと目に入った月が綺麗で思わず泣いてしまった。
慌てて目をこする。
しかし涙が止まらず、頬を濡らした。
“あーあ、俺なんで生きてんだろ。”
そして漠然と死にたくなった。
思い立ったら早くて、俺は兄貴のバイクで海に向かっていた。
死ぬなら海で死ぬと決めていたのだ。
海につくと辺りは真っ暗で人はいなかった。
どうせ俺が死んでも嘆く人はいない。
俺は母親とは違うのだから。
一歩一歩進んでいく。
冷たい。
真冬の海は体のすべての感覚を奪っていく。
それすら心地良く感じた。
“ねえ。僕と取引しない?”
どこからか幼い声が聞こえた。
しかし周りには誰もいない。
“その命僕にちょうだいよ。”
また聞こえる。よく見たら浜辺に小さい影が手を振っていた。
馬鹿らしい。
俺はさらに一歩前に進んだ。つもりだった。
しかし俺の意志とは反対に浜辺に戻っている。
俺の意識の抵抗も虚しくいつの間にか砂浜の上を歩いていた。
隣には影が付きまわってくる。
嫌になってそのまま帰った。
“人のバイク勝手に使ってんじゃねーよ。”
帰るともちろん兄貴に殴られた。
部屋に駆け込み座り込んだ。
まだ濡れた服はずっしり重くて気持ち悪い。
“ねえ。僕と取引しない?”
驚いて顔を上げる。
さっきまで影だったやつが光に当たってしっかりとした顔や体の輪郭、パーツを描いていた。
“だ、誰だよ。おまえ…”
“あれ?わかんないか。
僕はねー。そうだなぁ。
“死神”かな。”
そう言って死神は不気味に笑った。
混乱してる俺に死神は話を続けた。
“それじゃあ改めて。
森本海斗君。僕と取引しない?”
“なんで…名前知ってんだよ。”
“知ってるよ。だって死神だもん。”
また不気味に笑う。
“君は死にたい。現にさっき死のうとしてたしね。
でもさ。何にもしないで死ぬなんて馬鹿らしいじゃん?
だからさ。僕と取引するんだ。
3日間。君を僕にちょうだいよ。
僕も君にあげる。どう?
悪い話では無いと思うんだけど。”
どういうことか全く意味がわからなかった。
“どういう意味だよ…”
“ん?まだわかんない?
簡単な話だよ。
君は3日間死神になる。
あだ名なんかじゃない。本当のね。
死神は何でも出来るんだよ。
父親や兄貴に復讐も出来る。
クラスメイトを殺すことだって、
世界を終わらせることだって出来るんだ。
君は自由になれる。無力な人間でなくなるんだ。”
世界を終わらせる…
もちろんそんなことしたいとは思わない。
復讐も人殺しも御免だ。
でも、自由になれる…
“俺はどうなるんだよ。”
“あー心配しないで。
3日間君はこの世にいなかったことになる。
でも、3日後にはその3日間が無かったことになるよ。
もちろん僕が君の体を貰ったりなんてしない。
僕はこの取引で人間になるだけだ。”
その後も死神は詳しく話してくれた。
死神は取引成立によって人間になれること。
人間になることが死神界では凄いということ。
“いいよ。取引してやるよ。”
どうかしてるかもしれない。
でももうどうでもよかった。
“ほんとに?やった!
じゃあ取引成立だ。”
そう言って死神は右手を出した。
俺はそっと握り返した。
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