10-31-なにこの子可愛すぎじゃね?
「足柄山つくねです! よろしくおねがいします! あははははは!」
「かわいー♪ 香菜だよー、よろしくねー」
「やっべ、つくねめっちゃかわいいんだけど」
「いま六歳? じゃあ小学一年生なんだね。学校楽しい?」
「うん、たのしい! あははははは!」
十一人きょうだい足柄山家の末っ子、つくねは早くも女子陣のハートを鷲掴みにしていた。
にっこにこの笑顔で朗らかに元気よく笑う姿はマスコット的な愛らしさがある。
つくねは鈴原、高木、灯里に囲まれ、抱きしめられ、頭を撫でられていた。
対し、俺はと言えば……
「アニキ、なにする? レースか? ボウリングか? なんでも負けねーぜ!」
パッと見ヤンキーの金髪坊主に絡まれていた。
一徹は上下灰色のスウェットにピンクのサンダルという、いにしえのヤンキーといった装いで、ありとあらゆる方向からマシンガンのように質問を浴びせてくる。
「それにしてもオンナ多いな……。アニキの本命は? 姉ちゃんか? 姉ちゃんだろ? 姉ちゃんだよな? ──ぐえっ」
アッシマーに襟を引っ張られ、一徹はカエルのような声を出して盛大にえずいた。
「もう、本当にごめんなさい……。藤間くんもいるって知ったら、一徹も来るってきかなくて」
「いいって。これだけ大勢いたら最初からなにがなんだかわからねえ」
スクエアテンの入口は大所帯になっていた。
俺、高木、鈴原、祁答院、灯里、海野、三好清十郎、伊織、アッシマー、一徹、つくね──合計十一人。
出入りする客たちが俺たちをチラ見しながら避けるようにして通ってゆく。
……そりゃそうだよな。俺だって若者がこんな大勢いるところ、通りたくないもん。むしろ諦めて帰るもん。
とにかく中に入るなりもっと端に寄るなりしたほうがいいんじゃないか、と口を開こうとしたとき、
「あーーーーーーっ! ふじまーーーー!」
女子たちの隙間からつくねがこちらを指さした。
「ふじまだーーーー!」
つくねは灯里たちをかき分けて、万歳の体勢で俺のほうへと駆けてくる。
これまで俺が指さされたと感じたときは、大抵悪口か、俺の後ろにいるやつを指さしたのに、俺が顔を上げてしまい、お前じゃねーよみたいな視線を向けられたときだ。なにこれ泣きそう。
しかし幼女は明らかに俺の名前を呼びながら猛ダッシュをしてくるのだ。
それにしても変ではないだろうか。
どうして彼女が俺の名前を知っているのか──
「あ
思わず口にしたものの、つくねによる俺の腹部への突撃は、体格差もあってあまり痛くはなかった。
むしろ盛大にぶつかってきたつくねの顔が心配になり、ベルトが必要な服ではなくてよかった、と高木と鈴原に感謝しながらその場に屈む。
「おい、大丈夫か?」
つくねは一切気にした様子を見せず、屈んだ俺に抱きついてきた。俺の名前を呼びながら、頬を擦りつけてくる……。
幼女に抱きつかれる目つきの悪い男。間違いなく事案な図に、周囲の耳目は集まった。
「はわわわわ……つくね、どうしちゃったんですか?」
「ふじまだふじまだーー! あははははは!」
慌てて屈んだアッシマーの質問に応えることもなく、つくねは俺の首に腕をまわし、ぎゅーっと抱きしめてくる。お陽さまのにおいがした。
「ふ、藤間くん、ずいぶんと懐かれているんだね……」
灯里の慌てたような声。
「や、初対面なんだけど……たぶん。な、そうだよな、つくね」
「つくね、ふじまだーいすき! あははははは!」
アッシマーと顔を見合わせるが、彼女も不思議そうに首をかしげるのみ。
どうしてこんなに懐かれているのかわからない。
わからないが、目つきの悪い俺が子どもに怖がられなかった、というのははじめての体験で、これ以上ないくらいどストレートで無邪気な好意は、俺の胸を柔らかく撃ち抜いた。
「お、おう、なんか知らんけどありがとな。いやマジで好かれてる意味わからんけど」
抱きしめ返すというよりも、背中に手を回してぽんぽんと撫でるようにしてやると、首に込められる力がさらに強くなった。
「んふふふふふ、あったかーい!」
なにこの子。いくらなんでも可愛すぎじゃね?
──
エスカレーターを上がった先にはゲームセンターフロアが広がっていて、数々のUFOキャッチャーが何色ものファンシーな光を誇っていた。
蜜に群がる蝶のように、女子たちが景品機の光に吸い寄せられてゆく。
「こうなると長ぇーんだよ……」
海野のぼやきが耳を掠めた。
俺みたいなゲーマーならばゲームセンターといえば音楽ゲーム、体感ゲーム、格闘ゲームだったりするわけだが、女子からしてみればゲーセンといえばUFOキャッチャーなのだろう。
正面から横からせわしなく景品の位置を確認する高木に、祁答院が声をかける。
「亜沙美、俺たち一周してくるから」
「んじゃ一時間後にスポッチュの前集合ねー」
高木はすでに蝶から獲物を狙うカマキリになっているようで、どこか上の空で祁答院に返した。
一時間。ゲームに興味のない人間からすると長過ぎるし、ゲーマーからすると短過ぎる時間。
これまでの俺ならば、大勢で来ていることなんてお構いなしに並んでいない音楽ゲームを見繕ったり、向かいに対戦相手のいない格闘ゲームに座っていたことだろう。
それにしても、すこし意外に感じた。
群れってのは、常にひとかたまりで行動すると思い込んでいたから。
ずっと十一人で固まって動き、リーダーというかこの集まりを提案した高木の指示通りに行動し──なんて勝手に想像していたから。
ゲームセンターフロアに入って早々に別行動をとること自体も意外だったが、調和を重んじる祁答院からそんな提案がされたことも意外だった。
「じゃあ。あとでなにかで勝負しよう、藤間くん」
「ぼくとイオも行ってくるよ。みんな、またあとでね!」
祁答院と海野、三好清十郎と伊織が揃って奥のほうへ歩いてゆく。
「一徹もゲームしてきていいですよ。お小遣いいりますか?」
「じ、自分で稼いでるからいいってそういうの! アニキの前でやめろよ!」
一徹は俺とアッシマーに視線を交互にやり、逃げるように走り去った。
その背が見えなくなると、ごちゃごちゃした景品機のBGMに混ざり、すぐそばでアッシマーの声が聞こえた。
「一徹は……きょうだいと馴染めていないわけではないんですけど、下の子と遊ぶにはもの足りないみたいで、かといってわたしはなかなか一緒に遊んであげられなくって」
アッシマーは「きっと、わたしじゃ力不足ですけどね」と力無く笑う。
「だから、そのう……。あとで、すこしだけでもいいので、一徹と遊んであげてもらえませんか? あの子、藤間くんのこと大好きですし、家でも藤間くんの話ばっかりで……」
「もしかしてつくねが俺に懐いてるのって、あいつの話からかよ……」
そもそも一徹が俺を慕う理由もわからないが、一徹の誇張した俺への評価が、俺の手を握って離さない幼女に幻想を見させているのかもしれない。
「お前もいいぞ」
「……ふぇ?」
「や、お前もいつも頑張りっぱなしだろ」
今日アッシマーが来られたのは奇跡的なことなんじゃないかって思う。
バイトを四つだったか五つも掛け持ちしているアッシマーが、日曜の昼に予定が開いているのはとんでもない偶然なんじゃないかと。
「遊んでこいよ。俺はつくねと遊んでるから。な」
「なー! あははははは!」
そのうえ、家に帰れば十一人きょうだいの長女──しかも両親がいない──という重責が待っている。
中学校まで両親に育ててもらい、高校になると自分から一人暮らしをはじめた気楽な俺からすれば、どれだけ大変な人生を歩んでいるのだろうか。
「ほれ、行け」
指さした先には、UFOキャッチャーの前できゃいきゃいやっている灯里たち三人の姿があった。
わざと追い払うように、そちらへしっしっと手の甲を振る。
「で、でも……」
「いいんだよ。こっちは任せとけ。お前だってたまには羽を伸ばしたっていいだろ」
つくねを抱き上げて、心配すんな、とアピールする。
アッシマーは俺とつくねを交互に何度も見て、斜め掛けしたポシェットを開く。
そこからなにを取り出すかを見る前に「いいって」と
首だけで振り返ると、やはり彼女は財布を取り出していた。
こちらに深々と頭を下げ、灯里たちのもとへ駆けてゆくアッシマーを見送り、俺はつくねを抱いたままぶらぶらと歩き出した。
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あとがき宣伝失礼します!
『召喚士が陰キャで何が悪い』
第二巻発売いたしましたー!
comeo先生の美麗なイラストとともに、アルカディアを冒険してみませんか?
電子版には5500文字という大ボリュームのSSもつきます!
ぜひぜひ、お手に取っていただけますとうれしいです!(*´ω`*)
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