08-29-Why I'm Me
コボたろうの
コボじろうごとカカロを貫いたコボたろうは、槍を持ったまま爆風に大きく吹き飛ばされる。
コボじろうの光が消えたとき、
「グルゥゥゥゥゥゥ…………!」
カカロはまだ、立っていた。
「うそ……だろっ!?」
前身は黒く焦げ、コボたろうに貫かれた胸は焼けただれている。キャトルマンは爆発で吹き飛んだのか、あるいは消滅したのか、ぴんと尖った耳が見える。
その手には木製の弓。
いままでカカロが手にしていたものとは違う。
俺たちがいままで見たこともないような
誰も、動けない。
コボじろうの爆発に口を開けたまま、動けない──
「ぐるぁぁあぁぁあああッッ!」
そんななか、体勢を立て直したコボたろうが槍を構えてカカロに駆け寄る。
カカロは上体を逸らし、天に向かって弓を引き絞った。
矢を放たせまいと突っ込むコボたろう。
それを一顧だにせず、弦をぎりぎりと
それは、同時だった。
《
「ぎゃぁぁああああああうッッ!」
天空に放たれる、漆黒の矢──それと同時にコボたろうの槍が、ついにカカロの喉を貫いた。
カカロはコボたろうに貫かれながらも、
やりきった。
満足した。
そんな笑みを浮かべ、黒煙にも似た光へと変わってゆく。
それをのんびり眺めている暇なんてない。
「あ、あいつ最後、なんで何もないところに
「なんでもクソもあるかっ! 上から矢が降ってくるんだよッ!」
ゲーム慣れしている俺にはわかる。
あいつの最期──頭上に現れたウィンドウを見れば、英語がすこしできれば、意味くらいわかるだろっ……!
ティアリング・アローレイン。
一本や二本の矢のことを、誰も雨とは呼ばない──
漆黒の矢を吸い込んだ紫の空で、何かが一度、星のように瞬いた。
──いや、星じゃない。
紫に浮かぶ、黒点。
あれは黒い点の形をした、カカロの最期の意志──!
「
そう言ってアイテムボックスから取り出したレザーシールドを頭上に構え、周りを見渡す。
盾を持った祁答院やアッシマー、高木の背中に、盾を持たない小山田、小金井、鈴原が隠れる。海野は大剣を頭上に構えた。平たい部分で凌ぐつもりのようだ。
七々扇もふらふらと立ち上がり、盾を構えて備える。三好姉弟も盾を掲げる。コボたろうも自らの【コボルトボックス】から、シュウマツ前に念のために渡しておいたコモンシールドを取り出して頭上に構えた。
──どくん。
いやな、予感。
──どくん。
己の鼓動で、視界が、揺れた。
──どくん。
視線の先には──
部屋の隅で仰向けに倒れたままの、灯里。
気づけば、駆けていた。
黒点からシャワーのように降り注ぐ
「「「うわぁぁああぁぁあッッ!」」」
みなの悲鳴のなか、何本もの黒い矢がとすとすと地面に突き立ってゆく。しかしいまは、そんなものに怯えている暇すらない。
「灯里ッ!」
灯里を守る──その方法を模索する時間など、残されていなかった。
上向きに倒れたまま動かない灯里に覆い被さるようにして膝をつく。
灯里の胸元の矢はすでに消えていて、綺麗な身体にも、あどけなさの残る顔にも矢は突き立っていない。
「ふ……じま……くん、だ、め……」
灯里の目がうっすらと開く。小山田にポーションを飲まされるまで生死の境目にいたからだろう、目が
──絶対に、死なせねえ。
はねたろうが。
ぷりたろうが。
コボさぶろうが、コボじろうが犠牲になったのは、なんのためか。
相手が誰だろうが、ただ、勝つため。
それだけじゃない。
アッシマーを守りたい。
灯里を守りたい。
そんな俺の信念に、
灯里がここで凶矢に
でも、守るってのは、そんなことじゃないんだ──
「ふじま……くん、だめ、どい、て」
腰に衝撃。
肩に灼熱。
背中に悲鳴をあげたくなるような痛みが襲いかかる。
「ーーーーー~~~~~っ…………!」
唇を噛み、声を殺して降り注ぐ矢に耐える。
「だめ、だ……め……」
俺の顔の真下で、灯里の瞳に涙が溜まってゆく。いやいやと首を横に振るたび、美しい雫が横に飛んでゆく。
『透のぎせいでたすかっても、よろこぶ人は、透のまわりにもういない』
渦に入る前、リディアにそう告げられた。
俺はあのとき「ああ」って首肯で応えたんだっけか。
じゃあ、なんだよ。
じゃあこの状況は一体なんなんだよ。
「ふじまく……わ、たしっ……!」
「…………ごめん、な」
止まぬ矢の雨。
背中を襲うもう一矢に顔が歪んだ。
ごめんな。
相変わらず、自分のことしか考えられなくて。
無茶するなって言われたのに。
犠牲になったらだめだ、って言われたのに。
俺が傷つけば、灯里は哀しむ──そんなこと、もう、とっくにわかってる。
「でも……俺は、俺だから」
俺は、陰キャだ。
俺が傷ついて灯里が哀しむより。
灯里が傷つくことで、俺が哀しみたくないから──
俺は、身勝手に、わがままに、利己的に──お前を助ける。
…………でも、俺は、痛みにこらえるだけで、考えが足りなかった。
灯里が。じつは、めちゃくちゃ負けず嫌いで。
「わた──」
おどろくほど、優しくって。
「わた、し、は──」
想像もつかぬ強さで、俺を守ってくれたことを、忘れたことなんてなかったのに──
「私は、シュウマツを──」
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