08-25-Kakaro, Rain From a Cloudless Sky
第七──最終ウェーブ。
23時35分。
中央の部屋に現れた巨大なひとつの渦から、大量のモンスターが一斉に押し寄せてきた。
五十を超えるモンスター。
長く太い大槍。
それを軽々と振り回す
一体でも厄介な臆病のピピンが八体もいて……
「「「ギャアアアアアアアウッ!」」」
東西にわかれて挟み込んだ俺たちに対抗し、部隊を左右に分けてぶつかってくる。
これだけでも精一杯だってのに、そのうえ──
《
多くのモンスターの後ろ……見えないところから放たれる矢。
「どすこーいぃぃぃぃぃっ⁉」
「きゃっ⁉」
灯里を庇い、盾で防いだはずのアッシマーは矢の勢いに大きく吹き飛ばされ、灯里を巻き込んでごろごろと転がってゆく。
「アッシマー! 灯里! くそっ!」
《
「うおぉぉおおおおっ!?」
青色の魔力をまとい、宙で三つに分かれて迫りくる矢。
鈴原の使う弓スキルを連発してくるやつが誰なのか──そんなこと、もうわかってる。
【
見えないところから矢の雨を降らせる敵は、雲がないのに雨が降る現象──天泣そのものだった。
「があああっ! クソがっ! あいつ、なんとかなんねーのかよ!」
「なんとかしようにも、姿さえ見えないっつーの!」
ピピンの一撃を大剣で防ぐ海野に、高木がピピンの槍を紙一重でかわしながら吼えるように応えた。
……ふたりの肩には、すでに矢が突き立っている。
『藤間くん、このままじゃまずい。予定より早いけど、撤退するっ……! ふっ、はっ!』
渦を挟んで東側にいた祁答院から念話が届くが、戦況を確認する暇なんてなかった。
「念話、わかった。国見さん、こまめに報告頼みます」
『了解!』
俺たちは渦を、そしてモンスターを囲むように布陣している。
それが功を奏して、今回の渦は移動したり分裂したりしなかったこともあり、モンスターの出現と同時に灯里や三好の魔法、鈴原や小金井の射撃で、かなりモンスターを減らしての戦闘開始に成功した。
しかし、肝心のピピンやカカロは無傷。
いまも凶悪な槍と恐怖の矢が俺たちに襲いかかってくる。
それに対し、こちらの前衛は八体のピピンに押され気味で、灯里や鈴原といった後衛は、魔法や射撃でなければ話にならないジェリーやフォレストバットの撃墜に手を取られている。
《
うようよと群がるモンスターの奥から出現する恐怖。
「あぶねえっ……!」
三好清十郎に向かう矢を俺の盾が受け止めた──といえば聞こえはいいが、実際は俺もアッシマーと同じように大きく吹き飛ばされてしまった。
「くっそ……! 弓ってこんなに強いのかよ……!」
素早く立ち上がり、体勢を整える。
「藤間くんごめんっ、回復をっ」
「いい、前衛にしてやってくれ」
三好を手で制して立ち上がる。
コボたろうもコボじろうもコボさぶろうも、それぞれがピピンを相手にしている。
俺が死ねば、こいつらも消える。俺にできることは、呪いをかけながら、なるべく格上のピピンを相手にしないよう、コボたろうたちに群がるマイナーコボルトに拳をぶつけるか、ロウアーコボルトの放つ矢の盾になるかしかない。いまの行動──カカロの矢を身を持って防ぐなど、大局を見れば、してはいけない行為なのだろう。
誰かを庇って俺が死んでしまえば、コボたろうたちも消える。
ごめんなさいでは済まないのだ。
祁答院、七々扇、小山田、小金井の四人はモンスターを挟んだ向こう──東側の通路へと駆けていった。
それを追い、ピピンを含めたモンスターの半分が東へと消えてゆく。
──ここまでは、作戦通り。
十二人のうち、撤退した三分の一、つまり四人で、モンスターの半分を抑えることに成功したと言っていい。
メイン戦力の祁答院と七々扇がいなくなるのは辛いが、少なくともここ──中央の部屋においては、残る三分の一でモンスターの半分を抑えればいい。数値上では有利になったはずだ。
しかし──
《
「があああああぁぁっ!」
「きゃあぁあぁぁあっ!」
「うわああぁぁああっ!」
どうやら天泣のカカロはこちらに残ったようで、相変わらずメッセージウィンドウだけが見え、矢の雨が降ってくる。……どう考えても、このままじゃジリ貧だった。
「
「
そんななか、灯里と三好伊織による四筋の落雷がモンスターに降り注いだ。
サンダーボルトは対象に一筋の雷を、そしてランダムな敵対象にもう一筋、計二回の雷を落とす攻撃魔法だ。
そのうちのランダムな一発が、コボたろうと闘っているピピンを撃った。
よろめいたピピンの隙を、コボたろうは見逃さなかった。
「ぎゃあああうっ!」
「ギャアアアアアアアアアアッッ!」
コボたろうのユニークパイク『☆クルーエルティ・ピアース』がピピンの胸を貫く。コボたろうはすぐさまピピンを蹴り飛ばして槍を無理やり引き抜くと、たたらを踏んだピピンの喉元を貫いて、ついに第七ウェーブ最初の黒煙を呼び寄せた。
「でかしたっ……! コボたろうっ……!」
地獄に垂れた蜘蛛の糸。
こちらに残ったピピンはこれで残り三体……!
そんな気が、したのに。
《
音速の矢が、黒い光の奥から飛んできて、希望の光となったコボたろうの背中から──
「え……な…………なんだよ、それ…………」
なんで、コボたろうの背中から、矢尻の銀が、飛び出ているんだよ。
「…………コボ、たろ、う……?」
「ぐ……ぅ……っ……ふっ……!」
胸と口から血を噴き出しながら、よろめくコボたろう。
「なんだよそれっ! コボたろうッ!」
モンスターたちは、俺がコボたろうに駆け寄る暇すら与えてくれない。
マイナーコボルト。ロウアーコボルト。マイナージェリーの群れが、俺に迫ってくる。
「どけええぇぇぇえええええッッ!」
一心不乱に、拳を、脚を、膝をモンスターに叩きつける。
何度か脳内に直接声が響くが、それを言葉として認識できない。
「おらァァああああっ!」
高木や海野の援護を受けるが、あっというまに囲まれ、カカロどころかコボたろうの姿も見えなくなってしまった。
モンスターの向こうには、カカロとピピン三体。それらに向かうのはコボじろうとコボさぶろう。
このままじゃ。
このままじゃ、コボたろうが、死んじまう。
《
「やめろおおおおおおおおっ!」
どれだけ吼えても止むはずのないメッセージウィンドウが、見たくもないのに、視界に映りこむ。
吼えながら拳を叩き込む。
すこしでも前へ。
すこしでも、コボたろうの近くへ。
悪路を掻き分けるように、扉をこじ開けるように、モンスターを倒してゆく。
あと何体倒せは、コボたろうに届くのか。
相手が誰でも関係ない。
相手がどれだけいようが関係ない。
ただ勝つ、と誓った拳を、
そのために立っていると言い切った脚を、ただ前へ。
コボたろう、お前は俺なんだろ?
……なら、わかってるだろ?
いまは、
そんな俺の傲慢を
「こっちよ、天泣のカカロッ!」
「いくぞッ……!」
東の通路から、撤退したはずの、作戦通りならばここにいるはずのない、七々扇と祁答院の
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