08-06-Footsteps to Sorrow
第二ウェーブのモンスターを片付けたあと、メンバーの半分は休憩、そして木箱から入手したアイテムをストレージに預けるために教室へと帰還した。
俺、アッシマー、灯里、高木、鈴原、七々扇といったいつものメンバーは国見さんから第三ウェーブ出現の情報が提供されるまで、中央の戦場で採取をすることにしたのだ。
というのも、渦内の採取スポットでは薬草、マンドレイク、そして中央の部屋にある泉付近では都合の良いことにオルフェのビンが採取できることがわかった。このみっつはマイナーヒーリングポーションの調合素材だ。
現在俺たち──といっても六人だが──のポーション所持数は6。その半分をアッシマー、残り半分を俺が持っている。
俺たちはポーションを使ったことはないが、リディアの話では、飲み下すことで速効性のあるHP回復ができるらしい。となれば、場合によっては詠唱が必要な回復魔法より有利だ。いくつあってもいい。
それに、アッシマーがリディアからステータスモノリスを借り受け、レベルアップができるようになったのはいいが、肝心のレベルアップに必要な素材を持ってきているやつもいない。
モンスター素材は戦闘をすれば入手できるが、エペ草やライフハーブ、ホモモ草なんかは採取で集めないとレベルアップできないのだ。
とまあそういうこともあり、俺たちは中央の部屋で手分けして採取に勤しんでいた。
そして三回目の採取が終わったとき──
『第三ウェーブがきたよ!』
国見さんの声がした。意識を集中し、与えられた情報を脳内の図に書き込んでゆく。
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《簡易マップ》
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《Wave3》22:40~
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《Vortex1》
4:59 (西-北)
ロウアージェリー
マイナージェリー×5
フォレストバット×7
ロウアーコボルト×7
68 Costs
──
《Vortex2》
4:59 (東-北)
ロウアージェリー
マイナージェリー×5
ロウアーコボルト×7
マイナーコボルト×10
67 Costs
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合計135コストか。教室にいる奴らの一部は、モンスターの量に辟易するか凍りついているだろうが、折り返してもいない第三ウェーブで100コスト以上のモンスター出現は、俺としては逆に安心できた。
西にも東にもジェリーがいて、西はフォレストバットが七体、東はロウアーコボルトが七体か。
「念話。俺、アッシマー、灯里、高木、鈴原の五人で西に向かう。氷魔法が使える七々扇に東へ向かってもらうから、そっちから弓持ちの小金井を西に向かわせてほしいんだけど」
『了解。今すぐ向かうよ』
すぐに祁答院からの返事があり、みなに状況を説明する。七々扇は嫌な顔ひとつせず「気をつけて」とだけ残し、東に向かう通路へと駆けていった。
俺たちは西中央で小金井と合流し、北上して北西の部屋へ突入したところでアイテムボックスからカッパーステッキを取り出して、召喚魔法を展開する。
まず必要なのは、大量のコボルトたちから俺たちを守る盾。
「──召喚、ぷりたろう」
床に出現した魔法陣が色づき、白い光を放つ。
光が消えたとき残っていたのは、ぷよぷよしたゲル状のモンスター……マイナージェリーのぷりたろうだ。
「…………(ふるふる)」
敵モンスターとして出現するマイナージェリーとはカラーリングがやや違い、半透明な緑のゼリーっぽい色と言うよりも、パステルカラーが鮮やかだ。
そんなボディを俺にこすりつけるように寄せてくる。控えめに言って可愛い。
「ぷりたろう、よろしくね」
「…………(ぴょんぴょん)」
灯里が声をかけると、ぷりたろうはぴょんこぴょんことゴムまりのように跳び跳ねて、今度は灯里に身体をすりよせる。
マイナージェリーなだけあって、斬撃耐性、刺突耐性を持つぷりたろうは、詠唱中無防備になる灯里と非常に相性が良い。
「ぷりたろうー、あははー、さっきぶりー」
「…………(ぴょんぴょん)」
それは弓を持つ鈴原にも言えることで、飛んでくるコボルトの弓も、襲いかかるコボルトの槍も、すべてその身体で受け止めてしまうのだ。そしてカウンターのタックルは、ようやく灯里や鈴原にようやく迫ることができたモンスターを大きくぶっ飛ばしてしまう。
「うふふ……かわいいね」
「かわいー。現実じゃ味わえないかわいさだよねー」
「…………(ぷるぷる)」
ぷりたろうのやつ、俺より灯里とか鈴原のほうが好きなんじゃないかと思うときがある。こいつらはこいつらで自分になつくぷりたろうにベタぼれで、可愛い顔をだらしなく綻ばせている。
もうひとり必要なのは、灯里や鈴原を守る盾だけではなく──
「召喚、コボさぶろう」
──ジェリーを穿つ力だ。
「…………ぐるるぅ」
コボさぶろうは、俺と、先輩であるコボたろうに跪いたまま一礼し、立ち上がる。
コボルトにしては突出した180cmほどの長身。しかし瞳もコボルト三兄弟でいちばん大きく、やや自信なさげに揺らめいている。
「うーっす、コボさぶろう」
「コボさぶろう、よろしくお願いしますっ」
「が、がうっ」
コボさぶろうが持つのは高木と同じ、両手用のハンマー。もっとも高木のようなユニーク武器ではなく、ただのウッドハンマーだが。
コボさぶろうはジェリー対策として、マイナーコボルトの【槍に適性を得る】という特性を無視し、最初から槌を握ってもらっている。
高木と同じハンマー。
場合によってはアッシマーと同じ、片手槌──メイスと盾を切り替えて、大きな身体で相手を圧倒している。
そのためか、高木にとっては弟分のように感じるのだろう。コボさぶろうは高木に気に入られてしまった。
メイスと盾を持って味方を守るときはアッシマーと立ち位置が被るため、アッシマーとも仲がいい。
マイナーコボルトの意思三つから顕現したコボさぶろう、マイナージェリーの意思からはぷりたろう、そして第一ウェーブから召喚しているジャイアントバットの意思から現れたはねたろうの三体が、今朝購入したモンスターの意思──新しい仲間だ。
「アッシマー、回復してもらってもいいか」
「はいですっ」
アッシマーに手渡したリジェネレイト・スフィアから緑の光が現れ、俺にまとわりつく。
あたたかな光が、二体同時召喚を行なったばかりの俺の疲労を癒やしてゆく。失ったMPをみるみるうちに回復させてゆく。
しかし、MPが満タンになったという実感は一瞬で、すぐに召喚疲労によるMP減少がわずかながら押し寄せる。
レベルアップ、そして【MP】【召喚疲労軽減】のスキルレベルを上昇させたとはいえ、四体同時召喚はさすがにこたえるな……。
「はい、おわりですっ」
「ん。さんきゅ」
スフィアを俺に返そうとするアッシマーに、俺のものとダンベンジリのもの、ふたつともをそのまま持っていてくれと手で制す。
アッシマーが使えば回復効果は二倍だ。どちらにせよアッシマーに使ってもらうんだ。
アッシマーは、でも、と俺に大きな瞳を向ける。
曰く、わたしが死んだらどうするんですか、と。
だから、そんなことにはならねえよ、と顔を逸らし、部屋の中央に鎮座する渦を睨みつけた。
『あと10秒だよ』
『了解』
「念話、了解。……あと10秒だ」
「あーい。
国見さんと祁答院の声がして、みなに伝えると、それぞれに渦を囲むようにして武器を構える。
《コボたろうが【槍LV2】【パイクLV2】【戦闘LV1】【攻撃LV1】をセット》
《コボさぶろうが【槌LV1】【ハンマーLV1】【戦闘LV1】をセット》
ユニークウッドハンマー【グレートツリーズ・レイジ】を軽々と肩に担ぐ高木を庇うようにして、コボたろうとコボさぶろうが獲物を構える。
《ぷりたろうが【HPLV1】【防御LV1】【俊敏LV1】をセット》
ぷりたろうが【マジックボルト・アーチャー】を握る灯里の前に陣どって、絶対に灯里には攻撃を通さない構えを見せる。
矢を番えた鈴原と小金井の前ではアッシマーがピンク色の──愛の盾を構え、ロウアーコボルトからの矢を受け止める態勢をとっていて、その上空では、
《はねたろうが【飛行LV1】【攻撃LV1】【斬撃LV1】をセット》
はねたろうが渦をにらみながら、円を描くように舞っている。
──さあ、来いっ……!
俺が紫の草につけたカッパーステッキを握り直したとき、それは起きた。
「え、ええっ…………!?」
だれの口から出た声かなんて、わからなかった。もしかしたらその呆れたような驚いたような声は、俺の口から出たものだったかもしれない。
モンスターが出る前の渦が、動いたのだ。
木々に囲まれた部屋中を高速で動き回り、ゴゴゴ……と音をたてる。
「なんだよこれっ……!」
そうして目にも止まらぬ速さで縦横無尽に動き回ったあと、部屋の入り口で止まり、そこから俺達を部屋にとじこめるようにして、モンスターがわらわらと出現しはじめた。
「グルアアアッ!」
「キイイイイッ!」
二体のロウアーコボルトと、二体のフォレストバットが同時に渦から飛び出してくる。虚をつかれた俺たちだったが──
「「ふっ……!」」
鈴原と小金井の矢が、二体のフォレストバットを撃ち落とした。
ロウアーコボルトから放たれた矢は、ぷりたろうの身体とアッシマーの桃色の盾に吸い込まれた。
「驚かせやがって……!
モンスターがもう一波現れたことを確認すると、俺は呪いをかけ、ステッキからウッドアーツに装備変更し、そしてモンスターの群れに駆け出したとき──
『ひ、ひいっ、み、みんな、聞いてくれ! 大変だッッ‼』
国見さんの悲鳴にも似た声が俺の脳内に響きわたった。──そんなこと言われても、このタイミングかよっ……!
『どうしました? ふっ……やっ、はあああっ! ……国見さん?』
器用な祁答院は戦いながら国見さんに応えている。器用じゃない俺は、戦況と国見さんの様子を比べ、突っ込むことをやめて聞くことに意識を集中させる。
……え?
つーかこれ、なんだよ。
この部屋、渦、ふたつもあったっけ……?
部屋の入り口にひとつ。
いままさにモンスターが溢れ出ていて、みなが一斉に攻撃を仕掛けている渦。
じゃあ、もうひとつ、中央でとぐろを巻いているこの深紫はいったいなんなんだよ。
『た、大変だ……! 第四ウェーブがっ……! ぜ、全部一分後に……!』
…………?
国見さんはなにを言ってるんだよ。
たったいま、第三ウェーブが始まったばっかりじゃねえか。
一分後って、いったいなんの話だよ。
『七ヶ所に渦がっ……! 第四ウェーブが現れた! 七つの部屋全部に渦が……! 一分後に全部の渦からモンスターが10体以上……! ひっ……ひいいっ……!!』
すべての部屋に渦。
すべての渦からモンスターが10体以上現れる。
一分後に。すべての渦から。
身体が、弾かれたように動いた。
「闘いながら聞けッ!!」
叫びながら、俺もロウアーコボルトに殴りかかる。
繰り出される槍を交わし、下顎に掌底。よろめいて下がった頭に蹴りを浴びせ、吼えるように状況を伝える。
「はああ!? それ大丈夫なわけ!? 戻んないとやばくね!?」
高木の言うとおりだ。
いま、教室には国見さんただひとり。
モンスターの群れは国見さんをあっさりと葬って、防衛ラインへ次々となだれ込むだろう。
俺たち六人は北西の部屋。
祁答院たち六人は北東の部屋。
そしていま戦闘中のこの渦からは、まるで俺たちをこの部屋に閉じこめるようにモンスターがあふれ出している。
「念話。祁答院、そっちは戻れそうか?」
『囲まれてる。可能な限り急ぐ』
どうやら祁答院も俺たち同じ状況に陥ったらしい。
第二ウェーブを見た感じ、祁答院はめっちゃ強かった。海野も戦闘に慣れている感じだった。向こうには七々扇もいる。
しかし残る三人──三好姉弟と小山田はまだ不慣れ。こんな言い方しちゃアレだが、一人前とは言い難い。祁答院や七々扇が気遣ったりかばったりすれば足手まといだ。
とてもすぐに突破して南下できるとは思えなかった。
「お前ら全員聞けっ……!」
紫の空が、ただただふてぶてしく俺たちをあざ
俺がとれる行動なんて、ひとつしかなかった。
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