07-13-紫を裂いて──コラプス・メイオ砦
ピピンが大きく振り上げた槍に、コボたろうとコボじろうの槍が巻き込まれ、ふたりが槍を持ったまま万歳の態勢になった。
ピピンはまるで勝者が決まったかのような笑みを口元に浮かべ、コボたろうに穂先を向けている。
すかさず手を伸ばして、声高に叫んだ。
「召喚解除、コボたろう!」
殺意
「グァウッ!?」
生まれた絶好の隙。
しかしコボじろうがその隙を活かし、槍で仕掛ける余裕なんてなかった。
──だが、このときのコボじろうの選択を、俺は頭を撫で回して褒めてやりたい。
コボじろうは反撃をするでも態勢を立て直すでもなく、横に大きく跳んだのだ。それこそハンターもびっくりのダイビング回避だ。
突然のことだったから、俺も高木も、きっとピピンもわけがわからなかったことだろう。
ピピンはコボじろうに振り返って槍を構える。
──そんなピピンの側面から。
紫を切り裂いて。
悪夢を
一筋の光が。
矢尻と矢羽を激しく回転させながら、ピピンの首を横から貫いていった。
「……!? …………ゴボッ……」
一瞬遅れて、ピピンの首左右、そして口から血が噴きだした。
しかしピピンは倒れない。
大きくよろめき、なおも槍をコボじろうに向け続ける。
アイテムボックスからウッドステッキを取り出し、
「召喚、コボたろう!」
コボたろうとコボじろうをふたたびピピンに向かわせる。
「嘘でしょ!? あいつ、なんで死んでないわけ!?」
「ごめん、ウチもう矢が……! 矢の生成にあと30秒くらいかかるよー……」
「もういい」
俺の声に、高木も鈴原も「ぇ……?」と弱々しく呟いた。
「もう、いいんだ」
だってもう、ピピンの眼に光がない。
紅い眼にはもう獰猛も狂暴もなく、死を覚悟した、最後の
声もなく槍を振り回すピピン。コボたろうとコボじろうが後ろに下がっても、見境なく槍を振り回している。
……なんだろうな。
モンスターって、なんなんだろうな。
例えば俺が死んだとして。
例えば祁答院が死んだとして。
イケメンBC──望月が、海野が死んだとして。
死の間際、ここまで必死に、しゃかりきに、自分を貫けるものなのかな。
「コボたろう、コボじろう」
「「がうっ!」」
戦士として闘って、戦士として死ぬ。
同じ土俵で戦いながら、しかしそんな立派なことが、果たして俺たちにできるのだろうか。
コボたろうとコボじろうの槍が、同時にピピンを貫いた。
緑ではない、漆黒が立ちのぼり、紫の空と溶け合って消えてゆく。
そうして現れたのは、見たことのない立派な木箱と、青い空だった。
高木と鈴原が抱き合って喜ぶなか、俺とコボたろう、コボじろうは青空の彼方、果たしてピピンはどこへ還ったのだろうかと、雲ひとつない天を仰いでいた。
《Congratulations!》
《5経験値を獲得》
──
高木と鈴原が意気揚々と階段を降りてゆく。
降りる途中、階下からきゃいきゃいと嬉しそうな声が聞こえてくる。
「いっちょあがりー」
「わー、伶奈たちも勝ったんだー! よかったー」
階段を降りきって扉を開けると、女子陣はひとかたまりとなって肩を抱き合い、手を合わせ、こっそりガッツポーズをしたりしていた。
「藤間くんもお疲れさまでしたっ。……無茶、しませんでしたか?」
アッシマーが俺にそう問いかけると、灯里も七々扇も視線をこちらに向けてくる。
「まあな。つーか無茶する前に、鈴原が全部やってくれたしな」
「ええー? 違うよー。亜沙美のオーラも援護も、コボたろうやコボじろうの頑張りも、藤間くんの呪いとかキックとか……あと、その……あははー……えっと、いろいろあったからだよー」
なんだよいろいろって……。
──────────
《メイオ砦》
《コラプス・メインコア》
─────
《Congratulations!》
《宝箱を開錠後、生存者はここに集合してください》
──────────
部屋の壁沿いに設置されたモノリスのメッセージが変化していた。俺たちはピピン撃破後、木箱を開けなかったのである。
「アッシマー。悪いんだけど、屋上の木箱を開けてもらっていいか? お前のスキルで報酬が二倍になんないと、なんか損した気分になるしな」
アッシマーは「はいですっ」と応え、元気よくどべどべと階段を上がってゆく。
「ウチも行くよー。ロウアーコボルトの木箱なら開けられるからー。しーちゃんが近くにいてくれたらウチが開けても報酬増えるしー」
「あたしも行こーっと。にししー、あのでっかい箱からなにが出るか楽しみー」
そう言って鈴原も高木も階段を駆け上がってゆく。
残ったのは俺、コボたろう、コボじろう、そして安心したように笑みを浮かべる灯里と七々扇。
「んあー……まあ、あれだ。よくやったよな、お前らも」
なんだか照れくさくなって、コボたろうとコボじろうの頭を両手で撫でながら、しかし女子ふたりに声をかける。
「私はいつも通りだよ。守ってくれるみんなの背中を見ながら魔法を唱えただけ」
「べ、べつに……その、大した相手ではなかったから」
灯里は穏やかに、七々扇はふいと視線を逸らしながら応える。
その姿をみて、俺は心配していたこと……というか、気になっていたことを問いかけた。
「七々扇。お前、獅子王とか朝比奈と同じ高校なんだろ? ……大丈夫だったのかよ」
七々扇は言葉遣いこそ丁寧だが、すぐ照れる様子から、失礼ながらあまり友人が多い印象がない。本当に俺が言えた義理じゃないが、昨晩の獅子王たちとのいざこざから、学校で孤立して──最悪、イジメを受けているのではないかという不安があった。
「べつに特別変わったことはなかったわよ。そもそも学校でも私から彼らに話しかけることはないし、ふたりとも昨日は学校を休んでいたから」
「ならいいけどよ……。獅子王はかなり陰湿だからな。お前がイジメられたりしたら意味ないだろ」
「心配してくれているの? ……ふふっ、ありがとう。でも平気よ。昨日は久しぶりに爽やかな気分で登校できたもの」
今度は俺が視線を逸らす番だった。べつに心配なんてしてねえよと口を開こうとすると、視線の先にいるコボたろうに、まるで「そんなこと、言うものじゃない」とでも言うように首を横に振られた。
「綾音ちゃん、なにかあったらすぐに言ってね? 私、力になるから」
獅子王がなにをするか──そして
警視総監である灯里の父はそれをふまえ、警察の表、そして裏の力を使い、獅子王や獅子王の父を監視させているという。
「灯里もマジで悪いな。面倒事に首をつっこませちまって。多分お前の親父さんにも綺麗事じゃないこともさせちまってるだろ」
獅子王の父は警察の力を己の為に使い、証拠のでっち上げや捏造を行なった。
灯里の父は目的が悪いものではないにせよ、娘や娘のクラスメイトのため、個人的に力を使っていると言っていいのではないか。
「そんなふうに私もお父様も思ってないよ。それより、その……もしかしたら、あの事件が明るみになっていくにつれて、藤間くんのところにマスコミとかが来ちゃうかも……警察はマスコミに真実を話すっていう協定を結んでるから。もちろん藤間くんの名前は出さないけど、彼らはすぐ嗅ぎつけちゃうから」
「マジかよ……」
ついに俺もモザイクとボイスチェンジャーデビューか……なんてのんきに構えていられるほど俺のメンタルは強くない。
そうやって俺がげんなりしていると、三人が屋上から帰ってきた。
「ふぇぇ……なにもできませんでしたぁ……」
「開錠ってモンスターをやっつけたパーティじゃないとできないんだねー……」
「まーいいじゃん! 香菜が全部開けたんだし!」
三人が言うことには、アッシマーが開錠に向かったはいいが、ピピン撃破時、アッシマーは別パーティだったため開錠の権利がなく、ついでにいえばユニークスキル【アトリエ・ド・リュミエール】の増収効果も得られなかったらしい。
「え、そんで開けたのか? 開いたのか? 鈴原、ピピンの箱の開錠率何%だったんだ?」
「32%……あははー。成功してよかったよー」
32%ってお前危なすぎるだろ。万が一、※おおっと、テレポーター!※ からの ※いしのなかにいる!※ になったらどうするつもりなんだよ。キャラロストしたらさすがに泣くぞ。
「あっ、みんな! モノリスの表示が変わったよ!」
灯里の声にみなが振り返る。
──────────
《メイオ砦》
《コラプス・メインコア》
─────
《Congratulations!》
─────
《コラプス攻略報酬》
2ゴールド
ソウルケージ(ソウル有り)×6
ソウルケージ(ソウル無し)×33
イメージスフィア(メイオ砦1回目→)×20
イメージスフィア(メイオ砦1回目←)×20
★リジェネレイト・スフィアLV1
☆クルーエルティ・ピアース(カッパーパイク)
☆グレートツリーズ・レイジ(ウッドハンマー)
☆ウォームス(レザーベルト)
【★アイテムスタックLV1】
【☆人馬一体LV2】
【☆アイテムボックスLV1】
【採掘LV3】
【採取LV2】
【緑黄色野菜LV1】
─────
《60秒後、コラプス外に転移します》
──────────
モノリスの前には大きな木箱が出現し、圧倒的な存在感を放っていた。
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