07-09-窮地──コラプス・メイオ砦
開錠と回復を終え、三階へ上がる前に一階へ降りると、砦の入り口からエントランスへ入ってきたコボルト四体と出くわした。
しかし鈴原と高木の弓、コボたろうとコボじろう、七々扇がそれをあっさり片付けて事なきを得た。
《戦闘終了》
《1経験値を獲得》
「うわぁ、本当にモンスターが居た……。藤間くん、どうしてわかったのー?」
階段で上に戻りながら、鈴原が問うてきた。
「二階からは外に飛び降りるベランダがあっただろ? 俺が砦の主なら、数体飛び降りさせて、扉から現れるコボルトと階段を上がってきたコボルトを使って二重に奇襲を仕掛ける。でも今回はそうしなかっただろ? だからまだ隠れてるか、出遅れたんだと思った。念の為確認したらやっぱり居たってだけだ」
「うっわあんた陰キャすぎない?」
「うっせえよ。むしろここは予想が的中した俺を褒め称えるところだろ」
とんでもない言い草の高木にそう返すと、今度は後ろからアッシマーが、
「さすが藤間くん! 石橋を叩いて渡らないだけのことはありますっ」
「おいコラアッシマー。絶対それ褒めてねえだろ」
言い合いながら二階へ帰ってきた。念には念で砦の外も調べるが、もうさすがにモンスターの姿はなかった。ならば残るは三階と屋上だけだ。
『死なねえでくれよ、透──』
大丈夫だ、オッサン。
オッサンは、友人を
『やぁまぁを見ぃ~れぇば採取をし~』
『うぅみぃを見ぃ~てぇも採取をし~』
『あよいしょ!』
あんたがサンダンバラのオッサンと一緒に見上げる青空を、いつかの
──
安全を確認して挑んだ三階は、下の階とは様子が違った。
フロアの手前三分の一ほどの広さに仕切られた部屋。
左右には壁がなく、砦の周りがよく見渡せる。
正面に大きな扉がふたつある。扉の中央には俺の背ほどのモノリスが設置されていて、近づくと文字が表示された。
──────────
《メイオ砦》
《コラプス・メインコア》
─────
進入条件:
2パーティに分かれる
─────
←
【☆臆病のピピン】(マイナーコボルト)
ロウアーコボルト×2
──
→
マイナージェリー×2
ロウアーコボルト
マイナーコボルト
──────────
「……なんだこれ」
「これは……まるでダンジョンのチャレンジルームね……」
そう呟いた七々扇が耳目を集める。
チャレンジルームとは、それぞれのダンジョンに存在する部屋のことで、チャレンジルームにもここと同じようにモノリスが設置されていて、モンスター名の表示とパーティ分断の指示が表示されているらしい。
一度攻略しても、数時間後にはモンスターが復活するらしく、また決まったモンスターしか出ないため、低ランクダンジョンのチャレンジルームは現地冒険者の稼ぎ場になっているそうだ。
「この【☆臆病のピピン】ってなにかなー? ☆がついてるってことはレアモンスター?」
「マイナーコボルトのユニークモンスターよ。獅子王や朝比奈さん達と一度だけ闘ったことがあるけれど、身体が大きく力もある。マイナーコボルトとは比べ物にならないくらいの強敵よ。六人がかりでどうにか倒したわ」
六人がかりでどうにか。
いまここには六人+二体しかいない。
それなのにパーティを分断?
そんなこと、できるわけ──
そのとき。
砦を揺るがす轟音が鳴り響き、その音に気づいたときには──
「あ、ああーっ! 階段が! 階段が閉まっちゃいましたぁ!」
アッシマーの声に弾かれるように階段に駆け寄ると、ズシィン……と音がして、下り階段の入り口が石壁で閉ざされてしまった。
「えっ、マジ!? 嘘でしょ!?」
高木が叩いても俺が叩いても、握りこぶしに不毛な痛みを負うだけだった。──びくともしない。
……閉じ込められてしまった。
「えっ、これヤバくない? だってこんなたくさんの敵、無理くない!?」
高木がモノリスに書かれたモンスターの群れを振り返りながらも、閉ざされた石壁を殴り続ける。
「やめとけ、高木。どれだけ殴っても開かねえ」
「っ……! じゃあどーしろっての!?」
高木の赤くなった拳を掴んで止める。
──高木は切れ長の眼に涙を溜めていた。
助けようなんて言わなければよかった。
高木たちがコラプスに付いてきたとき、止めておけばよかった。
──そうやってうじうじするのは、もうやめた。
強くなるって、決めたんだ。
立ち上がるって、決めたんだ。
そして"決めた"という言葉だけじゃなく、決意だけじゃなく、俺には守りたい存在が確かにいる。
「七々扇。臆病のピピンに弱点ってあるか? 臆病っていうからには超ビビリなのか?」
「っ……。いえ、私が相対したときは獰猛そのものだった。コボルトよりも一回り長く太い槍を振り回していたわ」
「臆病が聞いて呆れるな……。前回、アナライズは?」
「当然行なったわ。HP120で特殊能力はなし」
HP120。ちなみに普通のマイナーコボルトのHPが30らしい。
四倍かよ。120ってもしかして、俺たち全員のHP合計よりも高いんじゃねえか?
「相当の火力をぶち込まないと倒せそうにねえな……」
──となれば、パーティの主砲である灯里か、
「……? ふ、藤間くんどうしたのー?」
灯里と並んで、同じく主砲となった鈴原の火力が必要だ。
「……七々扇、お前の魔法でマイナージェリー二体を倒しきることはできるか」
「できなくはないけれど、現実的ではないわね。MPのこともあるけれど、問題はクールタイムよ。ボルト系の場合、同じ魔法は一分間詠唱できないわ。藤間くんの呪いがあれば四回、なければ六回で倒せるかしら。その間、ジェリーの攻撃を防ぎ続けるのは至難ね」
「となると灯里は右だな。前衛は召喚できる俺と七々扇だけ。アッシマーも相手が弓なら、俺よりしっかり防ぐ。上手いこと振り分けねえと……」
そうしてモノリスの前で考え込む。
なにもかもわからねえ。
敵の強さも、サンダンバラのオッサンがどうにかなってしまうまで、あとどれくらいの時間が残されているのかも。
わかっているのは、ふたつのパーティに分かれなきゃいけなくて、そのどちらもが勝利しないと、負けたほうは全滅、勝ったほうも唯一の出口を選択しなきゃならないってことだ。
その唯一の出口とは、言うまでもなく、この三階フロアから地上へ帰ることができる左右の吹き抜けだ。
部屋の端から眼下を見下ろすと、やはりこちらも選べない。
即死できればいいほう。全身を骨折し、長い間のたうち回って死ぬかもしれない。
選べる、わけがない。
拳を握る。
こいつらを巻き込んでしまった後悔じゃない。
救いたいと、奮った勇気に対する悔悟でもない。
こんどこそ勝つ。こんどこそ救ってみせるという強い想いが、握った拳をただ震わせていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます