07-08-奇襲──コラプス・メイオ砦

 コボたろうとコボじろうが部屋の中にいるコボルト二体と闘っているとき──


 バアァァァアン!


 俺たちが背にする四つの扉が勢いよく開き、合計八体のコボルトが一斉に、エントランスからコボたろうたちを見守っていた俺たちへと猛然と駆けてくる──!



「「「「きゃあぁぁぁあああっ!?」」」」

「ほああああああああああああ!?」

「うおあぁぁぁあああぁっ⁉」


 モンスターは俺たちに気づいていないかもしれない──そう思っていたすこし前の自分をぶん殴ってやりたい。気づいていないどころかばっちり奇襲されてるじゃねえか!


 頼りの前衛、コボたろうとコボじろうは部屋の中。


「応戦できねえ! 俺たちも部屋に入るぞ! 急げッ!!」


 女子連中を戦闘中の部屋へ押し込むように入れると、すぐさま俺も部屋に入り、両開きの扉の片方に背中を押し当てて塞ぐ。もう片方の扉はアッシマーと七々扇が塞いだ。



「がうっ! ぎゃうぅ!」

「グルゥ! ガウッッ!」


 教室ほどしかないスペースで、コボたろうとコボじろう、二体のコボルトが槍の応酬をしていて、扉を抑える背中には、扉に体当たりでもしているのだろう、衝撃と凄まじい轟音が鳴り響いている。



 こっ……


 怖ええぇえええぇぇぇ……!



 コボたろうとコボじろうがやられれば間違いなく俺たちは死ぬ。

 そして、二体のコボルトを倒さぬまま扉を破られても、俺たちはコボルトに囲まれて確実に死ぬ。


「あ、損害増幅アンプリファイ・ダメージ……!」


 震える声で部屋内のコボルト二体に呪いをかけ、高木が側面に回り込んで援護射撃すると、コボたろうが相手取っていたコボルトは緑の光に包まれた。



「もう一体……! ぐあ、急いでくれ、もう持たねえっ……!」


 一緒に扉を抑えようとしていた灯里が戦況を見て詠唱を開始すると、鈴原も扉に向かって矢を番えた。


 両開きの扉の隙間に、槍が差し込まれる。

 アッシマーと一緒に「ひっ」と短い悲鳴をあげた瞬間、中ほどまで部屋に侵入した槍はなにかを探るように蠢き──



「ギャアアアアッ!」



 てこの原理で『扉を向こう側に開け』、数体のコボルトがなだれ込んできた。


「ふっ……!」

火矢ファイアボルト!」


 鈴原と灯里の攻撃で、先頭の二体が同時に灰燼かいじんと化し、出来上がった木箱に足をかけたコボルトを、


「しッ!」

「おらぁっ!」


 七々扇が斬りつけ、反転した高木の第二射が襲う。コボルトは痛みに顔を歪めながらも、二枚の扉を完全に向こう側へ押し開けて、満足そうな顔をして緑の光へと変わっていった。


 扉が完全に壁としての効力を失ったと同時に、二体のコボルトを片付けたコボたろうとコボじろうが前に出る。

 残る五体は完全に部屋へなだれ込んできた。


 コボたろう、コボじろう、七々扇の三人が果敢に応戦する。


損害増幅アンプリファイ・ダメージ……!」


 この戦闘二回目の呪いは、ひとかたまりになった五体のコボルトすべてを巻き込んだ。


「ふっ……」

落雷サンダーボルト!」


 七々扇たちの側面を狙うコボルト二体を、鈴原と灯里が瞬時に木箱へと変える。


 ガツガツとぶつかり合ういくつもの槍。


 コボルトの突き出す槍を盾で防いでいた七々扇が、槍をかわしながらコボルトをやり過ごすように駆け抜けた。


「グボ…………ッ」


 すこし遅れて、コボルトの首から鮮血がほとばしり、首元を押さえながら膝をつき、木箱へと変化した。

 それを背中で確認した七々扇は、すぐさまコボたろうとコボじろうの援護へと向かってゆく──。



《戦闘終了》

《4経験値を獲得》



 た……



 たっ……



 助かった…………!


──


──────────

リジェネレイト・スフィア LV2

HP13/20 SP8/20 MP14/20

──────────


 ダンベンジリのオッサンから借り受けた球体は、俺たち六人+二体をほぼ全回復しても、まだ相当の余裕があった。


 俺は呪いを二回、灯里も魔法を二回、アッシマーは開錠、高木はオーラと矢を生成する魔法、鈴原は矢の生成とスキル【強矢パワーショット】に加えて開錠の補助、七々扇は【強剣パワーエッジ】という剣スキル、コボたろうとコボじろうはHPの減少と、リソースの消費は著しかった。


「足柄山さん、あなた………こんなにも凄かったのね」

「ふぇぇ……お役にたててよかったですぅ……」


 それでもこんなにリソースが残っているのは、アッシマーのおかげだった。


 というのも、アッシマーのユニークスキル【アトリエ・ド・リュミエール】の効果は非戦闘スキルに大きな適性を得る、モンスターからの報酬が大きく増加する、そして、アイテム使用の非常に大きな適性を得る、というものだった。


 何度もアッシマーのステータス画面を覗いていた俺はさすがにそれを覚えていて、リジェネレイト・スフィアをアッシマーに持たせ、使用してもらったのだ。


 その結果、ステータスモノリスがここにはないため細かい数字までは分からないが、俺と高木で合計12のMPを消費し、たぶんふたりとも全回復したんだが、スフィアのMPは6しか減少していない。どうやらアッシマーがスフィアを使うと、回復量が倍になるらしい。


 アッシマーは火力こそないが、開錠、増収、そしてアイテムによる回復で、戦後処理のエキスパートと化していた。


──


「二階も似たような構造か……」


 一階の全部屋を開け、正面の扉の先にあった階段を警戒しつつ登ると、やはり広間があって、左右に二枚ずつの扉、そして正面に大扉が壁に取り付けられている。


「また同じパターンね。……次は奇襲を受けないようにしましょう」


 七々扇の言葉に皆が頷く。誰だってもう、あんな恐怖はごめんだ。


「つってもどーすんの? なんか対策あんの?」

「対策っていうほどのもんじゃねえけど、開くかもしれねえ背後の扉に杖や弓を構えておくことくらいできるだろ」


 さっきは全員でひとつの部屋をのぞき込んでいた。その隙を突かれて危機に陥ったのだ。


「コボたろう、この部屋にモンスターは居るか?」


 俺の問いにコボたろうは緊張気味に頷いた。


「相手が二体以内なら、悪いけどコボたろうひとりで頼む。コボじろうは奇襲を警戒」

「「がうっ!」」


 コボたろうが扉を開け、部屋内に突入する。

 やはり中には二体のコボルト。一階との違いは外へのベランダが扉を開けた正面にあることくらいだった。


損害増幅アンプリファイ・ダメージ……! 頼むぞコボたろう!」

「がうっっ!」


 呪いだけかけ、あとはコボたろうを信じて背を向けた。

 やがて後ろから遠吠えが聞こえ──


 ダアァァァァアン!


 やはり開く四つの扉。そして勢いよく飛び出してくる八体のコボルト。


 頭がいいのは褒めてやる。──でも、ワンパターンなのは駄目だ。

 まず鈴原の射撃が一体を緑の光に変え、高木の矢が一体の足を撃ち抜いた。残るは六体。そのうちの二体が矢をつがえる。


損害増幅アンプリファイ・ダメージ! 予定調和だっつの……! アッシマー!」

「はいですっ! どすこーい!」


 七々扇と灯里に放たれた矢は俺とアッシマー、ふたりの盾に吸い込まれ、命を穿てなかったロウアーコボルト二体は、代償として──


火矢ファイアボルト!」

氷矢アイスボルト


 一体が瞬時に木箱に変わり、一体は氷柱つららのような矢を胸に受けてうずくまる。


「ふっ……!」

「るあぁぁっ!」


 さらに鈴原と高木の第二射が襲う。残るは敵五体。しかしもう、万全に動けるコボルトはもう二体しか残っておらず、槍を構えるコボじろうとロッドから剣に持ち替えた七々扇のふたりと激しくぶつかりあった。


「香菜、こっち頼んだから!」

「任せてー!」


 高木はコボルト二体をひとりで相手取っているコボたろうを援護するため、最初に確認した部屋へ洋弓を構えて飛びこんでいった。


 七々扇たちは汗を飛ばしながら激しい攻防を繰り広げている。


 七々扇も祁答院と一緒だ。なんというか、戦闘が上手い。

 槍のリーチを殺すようにがんがん詰め寄ってゆく。コボルトが後ろにさがれば一歩詰め寄って、自身の優位を崩さない。


「はあっ!」

「ギャッ」


 剣撃を警戒したコボルトの横っ面を盾でぶん殴り、怯んだところに剣を突き立て、見事に討ち取った。

 そうして七々扇はいまいちど周囲の状況を確認し、自身の魔法──アイスボルトで膝を屈させたロウアーコボルトが鈴原の矢で木箱になったことを確認すると、高木の射撃により足を押さえているマイナーコボルトにトドメを刺してゆく。


「ギャアアアァァァッ!」


 コボじろうも見事一対一で勝利を収めていた。ふーふーと肩で息をしながら、己の槍が突き立ったコボルトを睨み続けている。

 そのコボルトが緑の光から木箱に変わるのと、


「いっちょあがりー」


 高木とコボたろうが部屋から姿を見せたのは同時だった。



《戦闘終了》

《4経験値獲得》

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