07-07-突入──コラプス・メイオ砦
紫の瘴気が溢れていたのは階段の上部だけで、階段を降りきると瘴気などどこへやら、サシャ雑木林と同じように、地下にも関わらず太陽が俺たちを照らしていた。
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《コラプス》
《メイオ砦》
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視界の端に現れるメッセージウィンドウ。
砦といっても柵に囲まれた駐屯地のような仮設のものではなく、木々に囲まれた草原のなかに、石造りの建物が俺たちを見下ろすように建っている。
外側から見たところ三階建てで、屋上にも二階や三階の踊り場にもモンスターの姿は見当たらない。砦の敷地面積はさほど広くないようで、一階あたりバスケットコート二枚ぶん──体育館くらいに見える。
砦の周りを偵察に向かったコボたろうとコボじろうが帰ってくる。少なくとも砦の陰を含め、外にモンスターは居ないし、上階から弓を構えるコボルトも居ない。俺たちを見下ろすのは、太陽とこの砦だけだ。
階段の途中から俺たちは声を潜めている。砦の静けさは、モンスターが俺たちに気付いていないのか、あるいはモンスターたちも息を潜めているのか……。
「一階には窓みたいなものもないな……。となると、侵入経路は正面の大きな木扉か、壁をのぼって二階の踊り場から侵入するしかねえな……」
「壁をのぼるのは無理ですっ」
「大丈夫だ、俺も無理だから」
「じゃあなんで言ったし!!」
俺たちのこの声も、もちろんささやき声である。声を潜めても勢いよくツッコんでくる高木、超律儀。
《コボじろうが【気配LV1】【槍LV1】をセット》
《コボたろうが【警戒LV1】【槍LV2】【戦闘LV2】をセット》
コボじろうが正面の入り口──両開きの大きな木扉に耳を当てて気配を探る。物音はしなかったのか、槍を構えるコボたろうと頷きあい、そっと扉を開けた。
広々としたエントランスにモンスターは居なかった。
無骨な石造りの床、壁があり、階段も見当たらない。
木の扉が左右にふたつずつ、そして正面に砦の出入口のような大きな扉が一枚。合計五枚の両開きの扉が閉じた状態で俺たちを待ち受けている。
「階段が見当たらないけど……正面の扉かな?」
「ダンジョンオーブは一番奥なんだよねー? やっぱり屋上かなー?」
「本命はそうでしょうね。でも念の為、左右の扉も確認したほうがいいわね」
七々扇に皆が頷く。
左右の部屋にオーブがあったら……といったものではなく、部屋を放置した状態で階段を上がり、万が一見逃した部屋にモンスターがいたら、俺たちは挟み撃ちに遭ってしまう。
コンセンサスを得たところで、コボじろうは手前左の扉に耳を当て、つぶらな瞳を獰猛に光らせ「モンスターがいる」と俺たちに教えてくれる。
「
高木が覚えたてのオーラを発動させると、高木の周りの石床が円状に黄色く光りだす。おそらくは、この光った床の上にいれば、物理攻撃力が上昇するのだろう。
「これ、壁とか貫通してねえだろうな。してたらモンスターにモロバレなんだけど」
「さぁ?」
「少なくとも、朝比奈さんのオーラはそんなことなかったと思うのだけれど……」
しかしいまさらそんなことを言っても時すでに遅し。俺はステッキからコモンワンドとコモンシールドに持ち替えて待機する。
……戦闘なんて、何度もこなしてきた。
俺はだいたい後ろであたふたしているだけだったけど、それでも何度も闘って、何度も斃して、何度も斃された。
だからモンスターと出会っても、幾分かは落ち着いて対応できるようになった。
しかしそれは、いつもコボたろうやコボじろうがモンスターにいち早く気付いてくれるからで、言うなれば俺たちはいつも先制攻撃をする立場だった。
遠くから発見したモンスターを灯里の魔法や高木と鈴原が射撃し、呪いまでかけて、イニシアチブを獲ってからの戦闘だった。
しかしいまは、それがない。
この扉の奥にモンスターがいたとして。
灯里も七々扇も詠唱を開始していない。
鈴原や高木は弓を構えてはいるが、扉を開け、コボたろうとコボじろうにあてないようにして、扉の向こうにいるモンスターに
コボじろうが扉を開いた。コボたろうが勇敢に部屋内へ突っ込んでいった。
部屋内に居たのはマイナーコボルト二体。なにもない殺風景な部屋で、さして驚いた様子もなく、コボたろうを待ち受けている。
「がうっ!」
コボじろうがすぐさま援護に入り、二対二の形になると、
「アォォオオオオォォンッ!」
コボルトの片方が大きく吼えた。
それは己を鼓舞するための遠吠えには見えず──
「待て」
剣を構えて部屋に突入しようとする七々扇を止める。
これってもしかして、ヤバいんじゃねえのか──
バアァァァアン!
勢いよく扉を開く音が、俺たちの後ろからいくつも聞こえた。
「「「グルァァァァァァァッ!」」」
砦に入って左奥、右手前、右奥、そして正面の扉が勢いよく開き、二体ずつ──合計八体のマイナーコボルトが、槍を構えてこちらを囲むように一斉に駆けてきたのだ。
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