06-07-空回る想いと
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コボたろう LV4
HP19 SP13 MP2
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【槍LV2】【戦闘LV1】【攻撃LV1】
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コボルトの槍
レザーアーマー
コモンシャツ
コモンパンツ
コモンブーツ
採取用手袋
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コボじろう LV1
HP15 SP10 MP2
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【槍LV1】
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コボルトの槍
コモンアーマー
コモンシャツ
コモンパンツ
コモンブーツ
採取用手袋
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コボじろうにスキルと手袋を買い揃え、再び街の外へ。
装備のシャツ、パンツ、ブーツはストレージに入っていたモンスターからのドロップ品だ。
「がうっ、がうがうっ」
「が、がう……?」
「がうがう」
「っ……! がうっ!」
「がうがう♪」
「がうがう♪」
コボたろうがコボじろうにあれこれ教えているみたいだが、
「やば、なに言ってるか全然わかんない」
高木、大丈夫だ。さすがに俺にもわからん。
「ふふっ、なんだかやっぱりコボたろうのほうがお兄ちゃんっぽいね」
肩を並べて俺たちの前を歩くコボたろうとコボじろう。
コボたろうがだいたい167cm、コボじろうが160cmってところか。灯里の言うとおり、仲のいい兄弟のように見える。
「ふたりとも仲良しさんでよかったですねぇ」
「そうだよー。それがいちばん大事だよー」
新品のコモンアーマーに身を包んだアッシマーが感慨深げに呟く。コボじろうにも新品の鎧を与えてやりたかったが、さすがにそんなわけにもいかず、鎧をアップグレードしたコボたろうのお古を着てもらった。ちなみにシャツやパンツ、ブーツはストレージに入っていたモンスターからのドロップ品だ。
「「がうっ!」」
コボたろうとコボじろうが同時に吠えた。前方からマイナーコボルト二体の出現だ。
「藤木、呪いは?」
「かけねえ。ついでに俺は藤木じゃねえ」
「そ。……うりゃ!」
「…………ふっ……!」
高木と鈴原の射撃。あと、俺は藤間である。
「あっ……ごめんー!」
どうやら鈴原は外してしまったようだが、高木の一矢はコボルトの胸に突き刺さり、一体は胸を押さえて呻く。
「がうっ!」
「が、がうっ!」
そこへコボたろうとコボじろうが突っ込んだ。ついでのようにその後ろをアッシマーが続く。
初戦のコボじろうはやや緊張気味だったが、コボたろうが無傷のコボルトとぶつかり合うと、自身は手負いのコボルトへ突っ込んでいった。
四本の槍が火花を散らす。
目を背けたくなるような光景。
でも俺は、なにもできないからこそ、目を逸らさない。
コボたろうは自らの槍を相手の槍にわざと絡めるようにしてぐんぐん前進する。そのまま押してゆき後退させ、相手の背が草原の一本木に接触した瞬間、勢いよく相手の喉を貫いて木箱に変えた。
コボたろうは勝利の余韻に浸ることも、闘いの熱に浮かれることもなく、すぐさま転身してコボじろうへと駆けてゆく。
コボじろうはといえば、自分にも相手にも傷がつかぬまま10合ほど槍をぶつけ合っていた。
それはへっぴり腰で闘っているからという意味ではなく、実力が均衡しているからだ。
「がうっ!」
「ギャウッ!」
「コボじろう!」
相手の槍はコボじろうの胸を突き、コボじろうの槍も相手の胸を突いていた。
立ちのぼった緑の光はひとつだけ。コボじろうは膝をつくことなく、肩で息をしながら木箱に変わる相手を見つめていた。
いまの闘い、どう見ても相討ちだった。
しかし勝者はコボじろう。大してHPも減っておらず、勝因はスキルと防具。
手負いだったことも考えると、それでも互角だった相手はコボじろうよりも強かったということになる。コボじろうはきっとそれをわかっていて、初戦の勝利を手放しで喜べないのだろう。
「がうっ!」
「…………がう……」
「がうがうっ!」
「がうっ」
「がうがう♪」
「…………がうっ」
そんなコボじろうを慰めるコボたろう。コボたろうがコボじろうの頭に手を乗せると、コボじろうからやっと笑みがうまれた。
──
「どすこーいっ!」
「ひょえええぇぇえええぇぇっ!」
ダンッと音がして、ロウアーコボルトの放った矢はアッシマーと俺の盾に吸い込まれた。
ダンジョン外だというのに、マイナージェリー二体とロウアーコボルト二体、マイナーコボルト二体という団体さま。
ロウアーコボルトは放った矢と交錯し飛来する矢によって二体ともが戦闘不能になり、地面をのたうちまわる。
「
灯里の魔法は茶色に靄がかったジェリーのコアを貫き緑の光に変えた。灯里はすぐさまもう一体のジェリーを討ち取るべく、サンダーボルトの詠唱を開始する。
「「がうっ!」」
「「ギャウッ!」」
コボたろうとコボじろうはマイナーコボルト二体と攻防を繰り広げていて、その隣を残ったマイナージェリーが通り過ぎ、天敵だと判断した灯里のもとへぴょんぴょんと飛び跳ねてくる。
「させませんっ……! どすこーいっ!」
その進路を妨害しようとアッシマーが盾を構えて前進し、タックルを防ぐ。しかし──
「はううううーーっ!」
信じられないくらいの力量差。アッシマーは盾を構えたままの体勢で吹き飛ばされる。背中から地面に激突し数回バウンドして転がってゆく。
「アッシマー! くそっ……!」
「ふっ……!」
「このやろっ!」
灯里が詠唱を終わらせる時間を稼ぐべく、鈴原と高木が矢を放つが耐性が高く、呪いもかかっているというのに、なんの妨害にもなっていない。
「くそっ……!」
このままじゃ灯里の詠唱が間に合わねえ……!
ジェリーの目の前に立ちふさがり、左手のワンドさえもアイテムボックスに仕舞い、右手に持つ盾を前に構え、左手で盾を支え持った。
「きやがれっ……!」
さすがにアッシマーよりも俺のほうが体格もいいし、きっと体重もある。
そう簡単に吹き飛ばされたりしねえぞ……!
ジェリーの跳躍に合わせ、盾を構えて衝撃を待つ。
しかしジェリーは俺に接触する直前で速度を落として着地し、そして、回転を加えながら勢い良く突っ込んできた。
ジェリーはフェイントのように地上でもう一度バウンドし、俺が構えた盾の下をくぐり抜けるようにして俺の腹に──
ヤバい。そう思ったときにはもう遅かった。
「ぼっ」
俺の口からもれる変な声。悲鳴をあげる暇さえなかった。
俺は下からのタックルを下腹部に受け、腹から持ち上げられるように宙へと舞い上がった。
あ、やばい。
また死んじまう。
何メートル浮いたのだろう。
そんなどうでもいい思考に至ったとき、俺は顔から草の上へと勢いよく落下していた。
「あ……が…………ぅ……おげぇぇ…………」
い…………。
いっ……てぇ…………。
息、が、できねぇ…………。
酸素を吸い込みたいのに、腹からこみ上げるなにかのせいで息ができない。地面に顔から叩きつけられ、顔を横に向けると、俺はいつの間にか嘔吐していた。
あ…………これ、やば、く、ね?
身体が動かねえ。でも自分の身体が痙攣していることは自覚できて、それを止める力さえない。
「っ……! 許さないっ!
痛みと涙と鼻血、そして酸い臭いが俺に満ちるなか、大地を揺らす二つの音が戦闘終了を告げた。
灯里や鈴原が、ふらつきながらアッシマーが俺に駆け寄ってくるのが見えて、なんとも情けない気持ちになる。
弓を防ぐため盾を構えたときに感じた恐怖、そしてアッシマーよりも大きなダメージを
──守られて、ばっかりだ。
「く…………そ………」
強く、なりたい。
強く。
雄大に天空を舞う想いだけが空回って、しかし俺は無様に地を這う。
灯里がヒーリングを俺にかけてくれる。嘔吐感と鼻血、そして痛みはみるみるうちに無くなったというのに、涙だけは消えてくれなくて、俺は横になったまま顔を伏せるしかなかった。
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