06-02-♡滅ぼしたい♡

 アッシマーは自分の身の上話を早々に切りあげて、この先どうするか、という話に切り替えた。


 俺としてはアッシマーたちがどうやって生活しているのか気になる……というよりも心配になったが、アッシマーからすればぺらぺらと喋りたいことでもないだろう。



「ちょっと待ってねー。ん……えーいっ」


 鈴原がそれを感じとり、すこし大げさに聞こえる声をあげ、魔法かなにかで何もないところから真っ白な紙を取り出した。


「え、なにいまの」

「【紙生成LV1】っていうスキルだよー」


 鈴原は事もなげにそう言って、さすがにペンとインクは魔法とはいかず、革袋をごそごそしだす。


「これからどうするかーとか、目標とかの話だったら、紙に書いたほうがそれっぽいと思ってー」


 そりゃ文字にしたほうがそれっぽいけど……。それにしてもすげえなそのスキル。トイレに紙がなくても慌てなくてよさそうだ。 


「うっわ藤間、またつまんないこと考えたでしょ」

「なあ頼むから脳内覗くのやめてくれ」


 またしても高木に思考を読み取られた。なにこいつエスパーなの? マイ○ドシーカーなの?


「べつに覗いてないよ。顔に書いてあるし」

「どんな顔だよ……あ、いや、しなくていい」


 しなくていいって言ったのに、高木は先日の女将のように一生懸命眉間にシワを寄せ、目を細めて非常に醜い顔をつくってみせた。俺っていったいどれだけ醜いの?


 ……とまあそんなつまらないことは置いといて、金稼ぎで一番効率がいいのは採取だ。

 採取をし、アッシマーが調合、錬金、加工して、リディアに買ってもらう。このパターンが戦闘よりも儲かることを、俺は昨日身をもって知った。


 しかしその調合に必要なのはレベル。レベルが上がればさまざまな能力が10%上昇するため、ポーションの調合成功率も上がるってわけだ。

 もちろんいろいろな調合を試して調合経験値を積む方法もあるが、手元にある不要な草はホモモ草のみ。精力剤を作られて女子に警戒されてもたまらん。



「藤間くんと足柄山さんは、私たちが来る前はずっと採取をしていたんだよね? 一日にどれくらい稼いでいたの?」


 首を傾げる灯里。たしかいちばん頑張った日で、一個24カッパーの薬湯を五十五本売ったから……


「ふたりで一日13シルバー20カッパーくらいだったよな」

「そうですねぇ……」


「13シルバー!? ふたりで!? すごくね!?」


「凄くねえ。言っとくが、まだまだ発展途上だからな。レベルが上がってポーションを調合できるようになれば、儲けは倍になる」


 実際はマンドレイクを採取する手間があるから単純に倍ではないが、少なくともそのころにはアッシマーだけじゃなくて俺もレベルが上がっていて、いまよりも効率よく採取ができるようになっているはずだ。


「んじゃとりまどーすんの?」

「採取もレベル上げも必要ってことだ」

「じゃあダンジョンに向かったほうがいいよね?」


「手に入れた素材はわたしが調合しておきますので、そのあいだに……」

「だめだよー。しーちゃんがいないとモンスターからのお金が半分になっちゃうー」


「両替はどうするー?」



 今日の目標などに関して、侃侃諤諤かんかんがくがくとした話し合い。やべえ俺、学校のディベートとかでこんなに喋ったことないわ。



「とりあえずこんなのでいいかなー?」


 話し合いが一段落いちだんらくすると、鈴原が丸文字の、しかしやはり意外と綺麗な文字が書かれた三枚の紙切れを作業台に置いた。


──────────


♡みんな♡で手に入れたお金は

♡みんな♡で均等に分ける!٩( 'ω' )و


昨日より今日、今日より明日、

たくさん稼げるようになろう!٩( 'ω' )و


──────────


──────────


٩( 'ω' )و今週の目標!٩( 'ω' )و


しーちゃんのポーション調合成功率を70%まで上げる!٩( 'ω' )و (現在48%)

全員がマンドレイクを採取できるようにする!٩( 'ω' )و

サシャ雑木林で安全に採取ができるくらい強くなる!٩( 'ω' )و


──────────


──────────

٩( 'ω' )و今日の目標!٩( 'ω' )و


♡みんな♡で35シルバー集める!٩( 'ω' )و

ひとり7シルバーずつ!٩( 'ω' )و

♡みんな♡でレベルを1ずつ上げる!٩( 'ω' )و


──────────



「んー、本当は壁に貼りたいんだけどー。セロテープってないよねー?」

「はい待てちょっとストップ」


 きょろきょろと見回す鈴原を慌てて止めた。


「なにー? ……あ、もしかしてウチ、字が汚かったー?」

「むしろ思ってたよりめっちゃ綺麗だった。いや問題はそこじゃねえだろ」


 めっちゃ女子らしい丸文字なんだけど読みやすくて綺麗な字だ。しかし口に出した通り、問題はそこじゃない。


「は? あんまりたくさん書いても達成できないから内容これでいいって言ったのあんたじゃん」


 高木が多少苛ついたように俺を咎める。

 ……え、いや、お前ら本当になんとも思わねえの?


「べつに内容にも文句はねえ。前のめりな顔文字も使いすぎなこと以外文句はねえ。でも『みんな』の周りのハートマークだけは勘弁してくれねえか……」

「「「そこ!?」」」


 いや、♡みんな♡とかどう考えてもヤバすぎるだろ。


「いーじゃんべつに。しゃーなしであんたも♡みんな♡に入れてあげるって」


 昨日のしおらしさはどこへやら、高木はにかっと笑いかけてくる。


「だからこそなおのこと恥ずかしいんだよ……いやもうハートマークそのものが恥ずかしい。滅ぼしたいレベル」

「理不尽! あんたハートマークに謝って!?」


「たぶんあれですねぇ。藤間くんはクリスマスになるたびに爆発しろって言ってるタイプですねぇ……」

「俺はそんな無駄なことはしない。そもそも俺はクリスチャンじゃないからクリスマスとはまったく無関係だ。だからむしろクリスマスというより、クリスチャンでもないのにクリスマスだからっていちゃつくカップルを滅ぼしたい」

「思ったよりも根深い!」


 唾を飛ばす勢いでツッコむアッシマー。

 高木に「それはいいからさ」と俺の意見はあしらわれ、ハートマークが残ったままの紙切れを作業台に置いたまま、俺たちは宿をあとにして、ココナのいるスキルブックショップへ。いくつか買い物をして、今日の目標を達成するため、レベル上げへと向かった。



 いまのLVは4だから、頑張ってLV5にあげねえとな……。


 誰にも言えない、俺だけの目標。

 祁答院、そしてイケメンBC──望月と海野の三人はおそらく高木たちと同じLV5だろう。

 祁答院はともかく、俺は望月と海野よりも強くならなきゃいけない。



『守るのは、祁答院、お前じゃない。────俺だッ‼』



 あの言葉を、啖呵じゃなく、勢いでも思いがけぬ激情でもなく、現実にするために。


──────────

《レベルアップ》(昨日分)

──────────

藤間透

LV4/5(↑1) ☆転生数0 EXP2/28

──────────

▼──HP13/13(↑1)

基本HP12.1×1.1=13.3

▼──SP17/17(↑2)  

基本SP12.1×1.1=13.3

【SPLV2】×1.2

【技力LV1】×1.1

▼──MP14/14(↑1)

基本MP12.1×1.1=13.3

【MPLV1】×1.1         

──────────



──────────

《ステータス》(本日スキル購入後)

──────────

藤間透

LV4/5(↑1) ☆転生数0 EXP2/28

HP13/13

SP19/19 (スキル【技力】LVUPで+2)

MP15/15 (スキル【MP】LVUPで+1)

▼─────ユニークスキル

オリュンポス LV1

召喚魔法に大きな適性を得る。

▼─────アクティブスキル

損害増幅アンプリファイ・ダメージ 消費MP4

纏ったものの被る損害を増幅させる靄を発生する。

▼─────パッシブスキル

──LV3──1Skill

採取

──LV2──7Skills(+5)

SP、MP(UP)、技力(UP)、器用、召喚(UP)、

召喚時間(UP)、歩行(UP)

──LV1──17skills

☆SP自動回復(New)、☆召喚MP節約(+1)、

☆召喚時消費MP減少(New)、☆アイテムボックス、

〇召喚疲労軽減、〇採取SP節約、

俊敏、戦闘(New)、杖(New)、ステッキ(New)、呪い、

逃走、運搬、休憩、草原採取、砂浜採取、

砂採取

▼─────装備 DEF0.40 HP5

コモンステッキ ATK1.00

コモンシャツ DEF0.20 HP2

コモンパンツ DEF0.10 HP2

コモンブーツ DEF0.10 HP1

☆ワンポイント (☆召喚MP節約)

採取用手袋LV1

──────────

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る