05-11-このへやには ひつぎが はんダースも!

 百戦錬磨の諸兄は、スライムと聞いてどんな想像をするだろうか。

 戦士なら一撃、勇者ならLV2になれば一撃で倒せる愛らしいフォルムを思い浮かべるだろうか。

 それとも、半ダースある柩の中から現れる、倒すことのできない最強のモンスターを思い浮かべるだろうか。


 それはまあ十人十色だろうが、十人九色くらいは8匹集まると王様になる最弱モンスターを想像するだろう。


「コボたろう、相性悪すぎだ! 構うな! マイナーコボルトを抑えろっ!」

「が、がう……」


 ならば『ジェリー』という名前のモンスターならばどうか。

 なんだかスライムをさらにドロっとさせて、天井とかにへばりついていて、ドロっとした粘液を滴らせているようなイメージを持つだろうか。

 しかしまあどちらにせよ、強敵のイメージはないだろう。


「怜奈、急いでー!」

「やっば、こっちきた! うりゃ! ……やっぱ呪いがあっても全然効いてねーし!」

「お、抑えますっ。どすこーいっ!」


 マイナージェリー。

 ジェリー系最下級モンスター。


 直径1メートル程度の球体をした緑色の敵だ。

 コアだろうか、中央に淡く光る石が半透明のボディに透けて見える。


 ドロドロに見えるくせに意外と弾力があるのか、ぴょんぴょんとゴムまりのように飛び跳ねていて、地面に着地するたびボディが楕円にひしゃげてゆく。


「が、がうぅ…………」


 高木と鈴原が事前に説明していたとおり、こいつは斬撃耐性と刺突耐性を持っているようで、コボたろうの槍も高木と鈴原の矢も効果が薄い。俺のアンプリファイ・ダメージがかかっていてもイマイチだ。


「ひぐぅぅっ……!」

「うおっ……! があっ……!」


 マイナージェリーのタックルを盾で受け止めたアッシマーが俺の元まで大きく吹き飛んできた。思わず受け止めた俺もろとも吹っ飛んで地面を転がる。


「あいたたた…………」

「いっ……てえ……! くっそ、序盤の雑魚のくせに強すぎだろっ……! バランスどうなってんだよ……!」


 悪態をつきながらアッシマーを引っ張り起こすと、ちょうど灯里の術式が完成したところだった。


火矢ファイアボルトっ!」


 緑を赤がつんざいた。

 俺たちを、高木と鈴原をたちまち追い抜いて、茶色にもやがかったジェリーのコアをたしかに撃ち抜いた。


「伶奈ありがとー! えいっ!」

「一撃!? ともかくまじナイス! うらっ!」


 ジェリーが緑の光に転じたことを確認すると、フリーになった鈴原と高木がコボたろうのサポートに入る。



《戦闘終了》

《2経験値を獲得》



 マイナーコボルト三体、マイナージェリー一体の群れを倒しきり、ようやくふうと一息ついた。


「しーちゃん、マイナージェリーの開錠なんパーセントー?」

「えとえと……92%ですっ」

「わー、やっぱりしーちゃんすごいねー。たはは、ウチ69%だし、お願いしてもいいかなー? ウチ、コボルトの箱開けるねー」

「はいですっ」


 鈴原とアッシマーが木箱を開けてゆく。このときのアッシマーの表情で、レアが出たか出なかったかがわかるから面白い。


「1シルバー10カッパーですかぁ。マイナージェリーさんはお金持ちさんですねぇ……」


 大して驚いていないアッシマーの様子から、レアは出なかったと確信する。すこし残念だ。


「しー子が居ないとその半分なんだけどね。おっ、ジェリーの粘液出てんじゃん! それもふたつも! 藤田ぁー、アイテムボックスって空いてるー?」

「なあ、空いてるけどわざとか? やっぱわざと間違えてんのか?」


 メンチをきりながら高木とアッシマーのほうへ向かう。高木はいけしゃあしゃあとアッシマーに「あれ? あいつなんて名前だっけ」なんて訊いている。本当に忘れたのかよ。


 「そーそー、藤木ね。あれ、あたし藤木ってちゃんと呼んだっしょ?」と、とんでもないことを言いだす高木を横目に木箱を覗く。


 ちなみにこの世界の木箱には、厳密にいえば中身が入っていない。入っているのは『ウィンドウ』だ。


──────────

1シルバー10カッパー

ジェリーの粘液×2

スキルブック【加工LV1】

──────────


 木箱のなかのウィンドウに表示されているアイテム名をタッチすると、そのアイテムが大きさや形状にあわせて手のひらに収まったり、手に握られたりするんだが──


「収納」


 アイテムボックス持ちの俺は、そのままボックス内に収納できる。


 このジェリーの粘液という素材、じつは相当大きく、重いそうだ。

 というのもこの素材は、ジェリーからコア──核の石を抜いた造形をしているらしい。そりゃあれだけのサイズだと簡単には持ち運べないよな。

 その点アイテムボックスは便利だ。なんたって、そんな大きなアイテムを容量1で持ち運べる──


──────────

《アイテムボックス》LV1

容量8/10 重量10/10 距離1

──────────

ジェリーの粘液×2

コボルトの槍×4

──────────


 ……全然容量1で持ち運べないじゃねえか。


 コボルトの槍が容量1の重量1だから、ジェリーの粘液は容量2の重量3ということになる。どんだけでかいんだよ……。


「ここまださっきの泉からそんな遠くないっしょ。一旦戻った方がよくね?」


 リディアのつくった泉の拠点へ戻れば、これまた彼女が俺たちのために準備してくれた簡易ストレージボックスがあり、そのなかにアイテムを一時的に保管しておける。


 俺たちは高木の言うとおり、拠点への道を引き返した。



 そうして拠点と狩場を往復すること四回。休憩を繰り返し、それでも全員が疲労困憊ひろうこんぱいするころ、すでに日は暮れて様々な木々はオレンジに色づき、泉の拠点には俺たち五人ぶんのジェリーの粘液が集まっていた。

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