04-08-案外負けずぎらいなんだな

「もう一回、よく話し合ってくる、ね。私はできることならここに住みたいと思ってるの。リディアさんも、足柄山さんも、ふ、藤間くんも……や、優しい、から」


 とまり木の翡翠亭。

 灯里がここに住むかどうかという話はひとまずそんな感じに落ち着いた。


 それにしても、灯里の判断基準がわからない。鈴原はよくわからんけど高木は友達思いな感じがするし、祁答院なんて半分くらい優しさで出来てるだろ。バファリン祁答院だろ。


 アッシマーやリディアはともかく、俺はチンピラから灯里を助けて以降、少しでも灯里に優しさを見せたことがあったのだろうかと。


 ……まあぶっちゃけ、俺も薄々は気付いてる。


 数日前の体育の授業で祁答院が俺を庇ってから、こいつら六人のあいだにひびができたって。

 それが原因で灯里がこうしてここにやってきてるんじゃないかって。


 しかしパリピのもつ驚異的な修復能力で、それも修繕されたものだと思っていたけど、こないだ鈴原と偶然出くわしたとき、あるいはスタバで高木が言っていたように、こいつらのあいだには温度差が生じている。


 さしもの俺だって、パリピのうち、祁答院、灯里、高木、鈴原の4人はいいやつなんじゃないかって思ってる。


 だからもしかすると、イケメンBCも距離が縮まれば、いいやつの可能性だってなくもない。


 でもやはりあの俺を見下す目が、アッシマーを蔑む言葉が、モンスターに対する暴虐が──俺とは相容れることは絶対に無いと、声もなく雄弁に語るのだ。


 だから、逆に問いたい。

 祁答院とか灯里とか、高木とか鈴原が──あんなやつらのどこがよくて友達なんてやってんのかと。


──


「おらぁっ!」

「は、は、ほわあああああっ!」

「グルゥゥ……!」


 格好だけで杖を振り回す俺、へっぴり腰で盾を突き出して殴り掛かるふりをするアッシマー。

 目の前のコボルトは忌々しげに俺たちに獰猛な視線を向ける。そんなコボルトの後ろから──


《コボたろうが【攻撃LV1】【槍LV1】をセット》


「がうっ!」

「ギャアアァアッ!」


 すでに一匹を仕留めたコボたろうが突きかかり、コボルトを木箱に変えた。


「これで終わらせるっ……! 落雷(サンダーボルト)っ!」


《戦闘終了》

《2経験値を獲得》


 雷鳴とともに、メッセージウィンドウが戦闘の終わりを告げた。


「せ、セーーーーフ……!」

「ひんひん、怖かったですぅ……」


 いつものように、その場にへなへなと崩れ落ちるふたり。毎度のことながら情けない。

 しかし三体のマイナーコボルトに対し、その一体を俺とアッシマーのふたりがかりで抑え込むことに成功した。これは大きな一歩だ。


「それにしてもアッシマー……お前『ほわああああっ!』って……その掛け声なんとかならんの?」


「し、仕方ないですよぅ! 怖かったんですから……!」


 びっくりするし、なによりやられたんじゃないかと不安になるんだって。


「灯里、一回の戦闘で魔法を二発もぶっぱなしてもらってるが……MP大丈夫なのか?」


「うんっ! ふたりからもらったこの杖、本当に凄い……!」


 灯里は嬉しそうにウッドスタッフのユニーク『☆マジックボルト・アーチャー』をかざしてみせる。

 三人とコボたろうの四人で手に入れたものだから、ふたりから貰ったってのはなんか違うんだけど……。


 ともかく、いまの杖は前の杖と比べ、火力が増えるうえに消費MPも1減少するんだったか。

 なるほど、そのおかげで灯里の負担は少なくなったようだ。


「コボたろうも調子いい感じだな」

「がうっ!」


 コボたろうは新規スキル【戦闘LV1】【攻撃LV1】【採取LV1】【警戒LV1】【気配LV1】を習得していた。


 攻めるときは【攻撃LV1】と【槍LV1】をセットして、

 防御や牽制のときは【防御LV1】と【戦闘LV1】をセットする。


 戦闘が終了し、アッシマーが開錠しているあいだは、


《コボたろうが【警戒LV1】【気配LV1】をセット》


 こうして周囲を警戒しながら自身のHPやSPの回復に努め、それが終わると、


《コボたろうが【器用LV1】【採取LV1】をセット》


 足元に視線を落とし、屈(かが)みこんで採取を開始する。


「コボたろうは本当に賢いですねぇ……」


「そのうえ一生懸命だしな。……はぁぁ…………可愛いよなぁ」


 採取をするときの真剣な目がまた可愛いんだ。



──────

《採取結果》

──────

 20回

 採取LV1→×1.1

 ↓

 22ポイント

──────

 判定→E

 エペ草を獲得

──────


「がうっ♪」


 そして採取に成功して俺に振り向いたときの嬉しそうな顔。


「おー、エペ草も成功できるようになったのか。すごいぞコボたろう」


 頭を撫でてやると、


「くぅーん……」


 垂れ気味の耳を揺らすところがまたたまらないんだ。



「ま、負けないっ……!」


 灯里が闘争心を燃やして採取に取りかかる。

 なるほど、エペ草の採取で失敗こそしなくなったものの、30ポイントのD判定には届かない灯里としては、どちらもE判定ということでエペ草の採取量がコボたろうと並んだのが悔しいんだろう。

 案外負けずぎらいなんだな。


「アッシマー、報酬でかさばるものがあったらアイテムボックスに仕舞うぞ」


「ありがとうございますっ。じゃあいつものようにコボルトの槍を三本お願いしますっ」


 一本ずつコボルトの槍を掴み、アイテムボックスへ収納してゆく。


 ちなみにこのアイテムボックスなんだが、リディアの話によれば、アッシマーの言う通り『魔法』で、やはり収納数や重さによってMPを少しずつ消費しているらしい。


 ならば万年MP不足のうちは使わないほうがいいかとも思ったんだが、


『MPを使い続けたほうがMP関連のスキルを習得しやすい』


 リディアにそう言われたため、積極的に使っているのだ。無論、無理はしないように何度も釘をさされたが。


「……なんだよこの【イカ釣りLV1】ってスキルブック……」

「ココナさんは喜んでくれるかもですよぅ?」


 ほんとドロップするスキルブックの種類が豊富すぎて辛い。ニッチなスキルが多すぎるせいで、実用的なスキルブックのドロップ率が低下している気がする。


 何が悔しいって【イカ釣りLV1】も【反復横跳びLV1】も【遠泳LV1】も、俺が習得可能なところなんだよ。欲しいのはそこじゃねえよ。


「よいしょ、よいしょ……」


「いちいちあざとい声出さんでいいっての。……ほらそっちのブーツもよこせ」


「ありがとうですっ。……って! あざとくないですよぅ! 素ですよ素!」


「素だったら余計怖いわ」


 同い年に素で『よいしょ、よいしょ』とか『はわわわわ』とか言ってるやつがいたら怖いっつーか心配になるっつの。幼女に転生してからこい。


──────

《採取結果》

──────

 36回

 採取LV3→×1.3

 草原採取LV1→×1.1

 ↓

 51ポイント

──────

 判定→B

 エペ草×3

 ホモモ草を獲得

──────


「あれ、B判定が出ちまった」


 召喚中は無理しないよう、力のコントロールも慣れたものだと思ったが、思ったより調子が良くて力を抜いてもB判定が出てしまった。


「もっと楽にやっていいってことか」


 B判定でとれるホモモ草の有効的な使い道を見つけられていない以上、コンスタントにC判定でエペ草を三枚採取したほうがずっといい。


──────

《採取結果》

──────

 35回

 採取LV3→×1.3

 草原採取LV1→×1.1

 ↓

 50ポイント

──────

 判定→B

 エペ草×3

 ホモモ草を獲得

──────


「あれ?」

「藤間くん、どうしたの?」


 同じタイミングで採取を終えた灯里が汗を拭いながら近づいてくる。


「ああいや、なんつーかさっきから力の加減がわかんないんだよな」


 さっきから、やたらと調子がいい。

 もしかしてレベルアップすることで、戦闘だけではなく、採取もやりやすくなったのだろうか。


「それ……もしかして、ホモモ草?」


 灯里は俺の右手にある淫靡いんびなフォルムに視線を落とす。


「ん? ああ。知ってんのか?」


「はわわ……灯里さんがホモモ草に興味津々きょうみしんしんですぅ……」


 あいつマジで黙ってろ。


「うん……じつは、LV3からLV4にレベルアップするときに一枚必要なの。お店で買おうかなって考えてたんだけど……」


「ホモモ草が? へえ、使い道があったんだな。……ほれ、よかったら」


「ほ、ほんとう? ほ、ほしい、な……」


「はわわわわ……灯里さんが上目遣いで藤間くんのホモモ草を欲しがってますぅ……」


「おうコラヤマシミコ。お前いい加減にしとけよ顔面も陥没させてやろうかアホンダラ」


「あ、ああーーーーっ! い、言いました! 言いましたね!? 人が気にしてることをふたつも! ……ふぇ……ふえぇぇぇん…………」


「足柄山さん!? ふ、藤間くん、だめだよ。女の子にひどいこと言ったら……」


「なにこの理不尽」


 たぶん灯里は気づいていないと思うけど、アッシマーのほうが相当ひどいこと言ってるからね? つーか気にしてることふたつって、ヤマシミコって呼びかた、そんなに気にしてたのかよ。

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