04-07-きみをつれて
部屋には甘くもあり、爽やかでもあり、どうにも居心地の悪い匂いが充満している。
いや、決して
「そうなんですか? 足柄山さんはどう思う?」
「わたしの場合スキルが特殊ですから……。でも、えへへぇ……そういうのもいいですねぇ……」
「アッシマーは無理せずしばらくいまのままでいい。伶奈はレベルアップをかさねてはやく転生すべき」
俺とアッシマーの二人部屋に女三人、男ひとり。
アッシマーはともかく、灯里もリディアもいい匂いなんだって。そんでアッシマーほど見慣れた顔ってわけじゃないから、どうにも居心地が悪い。
それはなにかを期待するとかそういうことじゃなくて、なんつーかもう、女子が集まるとそれだけで怖い。祁答院とかよく平気だわマジで。
「……」
──────────
藤間透
LV2/5 ☆転生数0 EXP4/14
HP11/11 SP5/14 MP3/12
──────────
リディアが来てから9回目のステータスモノリスへの接触は、俺が今はまだコボたろうを召喚できないことを教えてくれた。
「…………」
──────────
藤間透
LV2/5 ☆転生数0 EXP4/14
HP11/11 SP5/14 MP3/12
──────────
「透、さっきからしきりにステータスを気にしてどうしたの」
「あ、いや、なんでもねえ」
十回目のタッチも虚しく、MPはまったく回復していなかった。
くすん。早く来てくれ、コボたろう。
ここは俺の108ある陰キャスキルのひとつ……【闇に溶けこむ】を使うしかないか? いやむしろいまはまだぎりぎり午前中だから溶けこむべき闇がない。ならば【空気と同化する】か……? いやここはむしろ最終奥義【寝たふり】で…………。
「そういうわけだから、これからあらためてよろしく透」
「……あ? えっと悪い、聞いてなかった」
いつの間にか陰キャスキル【意識遮断】を発動していたらしい。改めてアッシマーのベッドに座るリディアに顔を向けると、
「アッシマーと透がこれからもいっしょでよかった。これからもよろしく」
真面目な顔で頭を下げてきた。
「ぬあ……い、いや、こちらこそ迷惑かけてすまんかったな」
「きょうからわたしもここに住むから」
「ああ、こちらこそよろしく頼むわ。リディアが居てくんないとこっちも買い手が……。……? いまなんつった?」
「きょうからわたしもここに住む。だから改めてよろしく」
ぬぼーっとしたアイスブルーと目を合わせたまま俺は固まってしまう。
いや、意味わからん。アッシマーがぼそりと「ノリツッコミのキレわるっ……」と呟いたので、睨んでやったら「ひうっ」と身をよじらせた。
「ここってこの部屋ってことじゃないよな?」
「あ、当たり前だよっ!」
「藤間くんなに言ってるんですか!? この万年ド変態! 歩くホモモ草!」
「なんで灯里が怒ってんだよ……。あとアッシマー、お前あとでマジ覚えとけよ」
くそっ、誰が歩くホモモ草だよ歩く片側陥没乳首。いやまあその……べつにきらいじゃないけどね?
「そ、それでね? 実は私もこの宿屋にお世話になろうと思ってて……。この部屋の隣が二人部屋なんだけど、そこでリディアさんと一緒に住もうかなって…………」
「はあぁぁああああ? なんで灯里まで……。もしかしてパリピ連中全員こっち来るとか言うんじゃねえだろうな」
そういや以前、灯里が女将にこの宿のことで質問してたことが会ったっけな。別にこいつだけなら特に害はなさそうだけど……。
「パリ……?」
「いやお前らいつも6人仲良しこよしだろ。全員こっちに来るんなら俺が引っ越すぞ」
「ぅ……。大丈夫。それはたぶん、私だけ……」
「高木とか鈴原と同じ部屋に住んでんだろ? いいのかよ」
「じつはもう、亜沙美ちゃんと香菜ちゃん、あと祁答院くんには伝えてあるの。それでその、じつはね? 今日藤間くんと足柄山さんと行動してるのも亜沙美ちゃんから言い出したことで……」
「は? お前ら喧嘩でもしたのか?」
学校では普通だったような気がするけどな……。放課後に行ったらしいカラオケでなにかあったのだろうか。
「ううん、そんなのじゃないの。ぅ……やっぱり、迷惑、かな?」
「べつに迷惑とかそんなんじゃねえ。ただ……もうこの際ぶっちゃけるけど、お前とか祁答院、高木と鈴原は平気だけど、もうふたりいるだろ。あいつらまで来るんなら俺はアッシマー連れて引っ越すから」
「ぇ……」
「は、はわ、はわわわわ……」
悪いが俺は
そもそも俺は、善人なんかじゃない。
俺にだって許せないことはある。
『うわキモ……』
『汚ねぇ、ホームレスかよ』
『あいつは採取かよ。楽でいいよなー』
『悠真、そんなやつと話したら格落ちるってー』
……はて。
イケメンBCが俺に言い放った罵詈雑言を思い出しても、大してイラつかない。
──ああ。
──やはり、そうなのだ。
あいつらを許せない理由は──
『あれ、藤間のやつ、女に採取させて休憩してね?』
『でもアレ地味子だろ。ならいいわー』
『だよなー。ほかの女だったら殴ってたわー』
これに尽きるのだ。
「あ、あの、藤間くん……?」
「んあ、わ、わりぃ」
アッシマーに視線をやりながらあの会話を思い出したから、アッシマーからすれば俺に睨まれた気分だっただろう。すぐに目を逸らす。
「そもそも俺の許可なんていらねえんだから、好きにすりゃいいだろ。ただあのふたりが住んだり入り浸ったり、アッシマーを無理やりパーティに入れようとするなら俺はアッシマーを連れて
灯里は唖然と俺を見やり、リディアは相変わらずぬぼっとしている。
当のアッシマーは赤くなって汗を飛ばしていた。
──────────
藤間透
LV2/5 ☆転生数0 EXP4/14
HP11/11 SP7/14 MP5/12
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気まずい空気のなか行なった二十一回目のタッチは、俺に絶望しか与えなかった。
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