04-06-召喚モンスターが大好きで何が悪い

 スキル【☆召喚MP節約LV1】のおかげで随分と楽になった。ダンベンジリのオッサンから貰った『☆ワンポイント』によるスキルレベル上昇の効果も相まって、召喚に必要なMPは9から7に減少し、自然回復力が召喚疲労によるMPの減少を上回った気がする。


 しかし俺の休憩時間が飛躍的に短くなることはなかった。なぜなら、呪い【損害増幅(アンプリファイ・ダメージ)】を二度使用し、8ものMPを消費したからである。


 俺がぐだぐだと休憩しているあいだ、アッシマーはいつもの調合。灯里はそれを興味深げに観察していた。


 MPが全快し、コボたろうを召喚してしばらく経過した頃。



「足柄山さん、エペ草なんだけど、六枚は残しておいたほうがいいよ?」


「ふぇ? なんでですかぁ?」


「LV1からLV2にレベルアップするとき、10カッパーとコボルトの槍、あとエペ草が二枚必要なの。だから残しておいたほうがいいかなって」


 うっわ、たしか祁答院あたりがそんな面倒くさいことを言ってたわ。レベルアップには経験値だけじゃなくて、金も素材もいるって話だったな。どんなシステムだよ。


「ならここで調合終わりですっ。えへへ……薬草が四十四枚も出来ちゃいましたよぅ?」


 昨日までの俺ならば、アッシマーの成長にまたもや焦りを覚えていたことだろう。

 いや、無論焦りはある。昨日俺がすてずに取り込んだ十五年間の俺は『おい大丈夫かよ』とささやきかけてくる。


 ──大丈夫だ。焦らなくていいんだよ。


 そんな俺を追い払うでもなく、受け入れたうえでそう言ってきかせる。


 何回でも、何度でも、言ってきかせてやる。



 こんな俺も、こんな『俺』も、すてないでくれた人がいるんだって。



「どんどん稼げるようになっていくな。ビンの在庫は?」


「五十本くらいありますから、次は砂浜でも、もう一回草原でもいいですよぅ?」


「なら砂浜にしとくか。アッシマーはどうする? 薬湯に調合してるか?」


「いきますっ。わたしがいないと誰が木箱の開錠をするんですかっ」


 そういやそうだった。

 灯里がいてモンスターを倒すことができるぶん、アッシマーが居ないと木箱が開けられないという悲惨な結果になる。


 いまふと思ったんだが、このパーティって相当バランス良くね?


 俺が召喚するコボたろうが前衛戦士。

 灯里が後衛のマジックユーザー。

 アッシマーが100%の開錠、しかも報酬が二倍以上になるスキル持ち。

 俺が呪い。やだ呪いの存在感だけ禍々まがまがしすぎて主人公を食ってる悪役の風格さえ感じる。


 誰の目にも明らかな強化すべき点は、俺とアッシマーの戦闘能力なんだよなぁ……。どうすっかなぁ……。


「そういえば三人ともレベルアップしたかな?」


 灯里が首を傾げ、俺はそういえばしていなかったな、と立ち上がる。


 ステータスモノリスに触れると、下のほうにレベルアップの項目があった。


──────────

《レベルアップ》

──────────

藤間透

LV1→LV2

経験値7/7→0/14

─────

要:

10カッパー

コボルトの槍

エペ草×2

──────────


「必要なものを手に持つか、革袋に担いだ状態でステータスモノリスに触れると、素材とお金を消費して自動的にレベルアップするんだよ」


「へぇ。コボたろう、槍を一本貰っていいか? あとはエペ草を……うおっ」


 足元から頭のてっぺんまで駆け抜ける熱。

 ステータスモノリスに触れたままエペ草を手に取った俺は、白い光とともに『自分の身体になんらかの変化』があったことを理解した。


「おめでとう藤間くん」


「え。レベルアップってこんだけ? 終わり?」


 レベルアップしたときってファンファーレが鳴ったり、ぐいぐいぐい! って感じの効果音がなるもんじゃないの?


「はわっ……。ちょっとびっくりしますねレベルアップ……」

「がうっ!」

「足柄山さんもコボたろうもおめでとう」


 無事ふたりともレベルアップが完了したらしい。ちなみにコボたろうも俺たちと同じだけの素材が必要なようだ。召喚士大変だなこれ。


──────────

《レベルアップ》

──────────

藤間透

LV2/5(↑1) ☆転生数0 EXP0/14

──────────

▼──HP11/11(↑1)

基本HP10×1.1=11

▼──SP14/14(↑1)  

基本SP10×1.1=11

【SPLV2】×1.2

【技力LV1】×1.1

▼──MP12/12(↑1)

基本MP10×1.1=11

【MPLV1】×1.1         

──────────


──────────

足柄山沁子

LV2/5(↑1) ☆転生数0 EXP0/14

──────────

▼──HP8/8(↑1)

基本HP7×1.1=7.7

【HPLV1】×1.1

▼──SP19/19(↑1)

基本SP15×1.1=16.5

【SPLV2】×1.2

▼──MP9/9(↑1)

基本MP8×1.1=8.8

【MPLV1】×1.1

──────────


──────────

コボたろう(マイナーコボルト)

LV2/5(↑1) ☆転生数0 EXP0/6

スキルスロット数1→2(↑1)

──────────

▼──HP16/16(↑1)

基本HP15×1.1=16.5

▼──SP11/11(↑1) 

基本SP10×1.1=11

▼──MP2/2(↑0)

基本MP2×1.1=2.2

──────────


「数値的にはあんまり変わった気がしないな」


 俺とアッシマーは全能力が1ずつ、コボたろうにいたってはHPとSPしか伸びていない。


「この書きかただと、全部の能力が一割上昇した感じですかねぇ」


「うん。レベルアップするたびに『基本能力』に×1.1されるみたいだよ。私たちはみんなそうだったから」


「つーことはレベルが上がれば上がるほどレベルアップの恩恵が大きくなるパターンのシステムだな。理解した」


「そうみたいですねぇ」

「?」



 足し算じゃなくて掛け算で能力が上昇するならば、低レベルでの能力上昇のしょぼさも納得できる。俺のそんな多少メタい考えかたに、アッシマーは頷いて応えた。自称ゲーマー (にわか)の灯里にはよくわからないようだった。


 今回のレベルアップでいちばん大きいのは、やはりなんといってもコボたろうの『スキルスロット+1』だ。


「コボたろう、もうスキルをふたつ同時にセットできるのか?」


 問うと、コボたろうは目を瞑り、


《コボたろうが【槍LV1】【防御LV1】をセット》


「がうっ!」


 見事にふたつのスキルを同時に選択してみせた。


「おー……素晴らしい。よーしよしよしコボたろう、スキルブックショップに行こう。好きなだけ買ってやるからな」


「がうがう♪」


 コボたろうと一緒にうきうきしながら部屋を出ようとすると、


「あ、ま、待って……!」

「置いていかないでくださいよぅ……!」


 ふたりが慌ててついてきた。


「藤間くんのコボたろうに対する愛情、すごいね……」

「そうなんですよぅ……。わたしも同じ部屋にいるのに、毎日イチャコライチャコラ……」


 階段を下りる際にふたりのひそやかな声が聞こえてきて、俺は頭をがりがりと掻いた。


 俺は召喚士だ。


 召喚モンスターが大好きで何が悪い。

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