04-03-ほんっとお前ら、ろくな妄想しねえよな

 灯里を連れて宿へ戻ると、アッシマーが「はわわわわ……」と慌てた様子で荷物をまとめはじめた。


「なにしてんのお前」


「まさか即お持ち帰りとは……。わ、わたし五時間くらい外に出てますね? あと、その、あのぅ……できればでいいんですけど、私のベッドと作業台は使わないでもらえると……」


 泣きそうな顔でいそいそと部屋を出ようとするアッシマー。またこのパターンか。


「まあ待て。……相変わらず打ち上げロケットみたいな脳内してんのな」


「その心は?」


「……どっちも飛びすぎて宇宙まで行きます」


「キレわるっ……」


「うっせえよ」


 俺たちのつまらないやり取りを不安げにうかがっていた灯里が慌ててアッシマーに説明すると、


「灯里さん、わたしに構ってくれるんですか……? わたし、居ても邪魔になりませんか?」


「邪魔なんてそんなことあるはずないよ。急に無理言ってごめんね? 今日はよろしくね」


 ……よく分からないが、そういうことになったらしい。


──


 カランカラン……。

 宿の斜め向かいにある、外観からはわかりづらいスキルブックショップのドアを開けると、


「あーっ! おにーちゃん久しぶりだにゃ!」


 客のことを指差すトンデモ店主が大きな声をあげた。


「うす。久しぶりって……昨日来なかっただけだろ」


「毎日来てくれてたのに一日あいだがあくと心配するにゃ! ……ん? ……んー?」


 ケットシーの血が四分の一だけ混ざっているらしい店主のココナは猫耳をぴくぴくとひくつかせ、俺の後ろへ視線を泳がせる。対象はアッシマーでもコボたろうでもなく──


「……レニャ伶奈?」


「おはようございますココナさん」


 ココナは活発そうな猫目をぱちくりとさせたあと、


「おにーちゃん……ユーマから寝取ったにゃ?」

「ほんっとお前ら、ろくな妄想しねえよな」


 とんでもないことを言う女だ。ちなみにココナは俺たちの一個下、十四歳らしい。十四歳がNTRとか言うんじゃありません。


 トンデモ妄想に出た"ユーマ"というのはクラスのトップカースト、その頂点に鎮座する顔面エクスカリバーこと祁答院悠真けどういんゆうまのことである。灯里はいつも祁答院と行動をともにしているため、ココナはそんなつまらないことを考えたらしい。


「足柄山さん、ちょっと訊いていい? ネトッタってなに?」


「はわわわわ……。灯里さんの清らかなお耳に入れるほどのことでは……」


 俺の背中では、灯里が世界一不毛な知的好奇心で首を傾げている。頑張れアッシマー! 灯里のピュアっピュアなハートはお前の手にかかってる!



「これ白い砂な」


 コボたろうが肩に担いだ革袋のひとつをそっとおろすと、 ココナは目を輝かせた。


「おっ、毎度ありにゃん♪ 革袋ってまだ需要あるかにゃ?」


「まだ当分はありそうだな。毎日革袋不足で困ってる」


「それはなによりだにゃん♪」


 スキルブックの購入とは別件になるが、ココナにはオルフェの白い砂三十単位を2シルバーと革袋で買い取ってもらっている。いまじゃ貴重な収入源だし、なにより採取、運搬、保管に大活躍の革袋が増えるのはありがたい。


「じゃあスキルモノリスを持ってくるから、ちょっと待っててにゃん!」


 しかしこの2シルバーという額は大抵一瞬で消える。

 というのも、この店主は俺が金を手にするなりスキルブックを売りつけてくるのだ。マジでとんでもない女だ。もっとも、ココナの母親である宿屋の女将がそんな言葉をどこかで聞いたなら、どんな残酷な殺され方をするかわからないから口には出さないけど。ただじゃ死ねないのかよ。


「レニャはどうするにゃん?」


「ごめんなさい、私はいま持ち合わせが少ないので遠慮しておきます」


 金のない灯里を買い物に付き合わせたことにわずかな申し訳なさを感じたが、アッシマーのスキルモノリスを楽しそうに覗き込んでるし、まあいいか。


──────────

藤間透

26シルバー

──────────

▼─────ステータス

(New)HPLV1 30カッパー

SPLV2 60カッパー

体力LV1 50カッパー

(New)俊敏LV1 50カッパー


▼─────自動回復

☆SP自動回復LV1 4シルバー


▼─────戦闘

戦闘LV1 30カッパー


▼─────魔法

▼─────召喚

(New)☆召喚時MP減少LV1 5シルバー

(New)☆召喚MP節約LV1 5シルバー

(New)〇召喚疲労軽減LV1 1シルバー50カッパー


▼─────呪い

(New)呪いLV1 30カッパー


▼─────生産

調合LV1 30カッパー


▼─────行動

歩行LV2 60カッパー

走行LV1 30カッパー

疾駆LV1 30カッパー

(New)休憩LV1 30カッパー


▼─────その他

冷静LV1 30カッパー

我慢LV1 30カッパー

覚悟LV1 50カッパー


──────────


「なあ……なんかめっちゃえてるんだけど」


「それだけおにーちゃんが頑張った証拠にゃん♪」


 灯里がアッシマーにしているように、ココナが俺のスキルモノリスを覗き込んでくる。その際、ついでに俺の所持金を見たココナの「おほーっ☆」という嬌声きょうせいを、俺はたぶん、生涯忘れない。


「藤間くんどうしましょう……わたしもたくさん生えちゃいましたぁ……」


「このあと武具屋でコボたろうの装備も見たいから、ひとり10シルバーまでな」


「はいっ、わかりましたぁ……。…………ってはああああああああああ!? 10シルバー⁉ 合計20シルバーも使っちゃうんですかぁ⁉」


 アッシマーの大きな声に、コボたろうを含めた全員がびくっとする。急に大きい声出すなよ、お前の驚きかたってなんかホラーじみてるんだよ。


「使う。先行投資にケチったら駄目だ。20シルバーなんて俺たちなら必死こけば二日で稼げるだろ。それを一日で稼げるようになるための投資だ」


「おにーちゃんカッコいいにゃ……♪ 大好きにゃ……♡」


 大好きだと言われても、俺はなんのときめきも感じない。だってもう露骨に聴こえるんだもん。


『おにーちゃんは (太っ腹で) カッコいいにゃ……♪(ココにゃんはたくさんお金を使ってくれる人が)大好きにゃ……♡』


 ってね。むしろ副音声のほうが長いからね。なんならもうココナの目の形が金貨になってるからね。


 聞こえなかったふりをして、話を逸らす。


「アルカディアじゃスキルが優秀だってイヤというほど知ったからな」


 習得すればするほど強くなったことが実感できる。実際【SP】や【MP】のスキルを習得しただけで随分楽になったし、他にも【歩行】スキルなんかもはっきりと分かるほど宿と採取スポットの往復が楽になった。


 さて、どのスキルを購入すべきか……。


「ココナ、生えたスキルに関していくつか訊いていいか」


「なんでもどうぞにゃん♪」


 【俊敏】はそのまま俊敏になる。戦闘にも採取にも使える大人気スキルだそうだ。


 ややこしいのは【☆召喚時消費MP減少】【☆召喚MP節約】【〇召喚疲労軽減】の3スキルだ。


 【☆召喚時消費MP減少】はコボたろうを召喚する際に消費するMPが1減少する。現在MP9消費してコボたろうを召喚してるから、消費MPが8になるってことだな。

 【☆召喚MP節約】ってのは召喚時と召喚中に消費するMPを1割節約してくれるらしい。消費MP9のコボたろう召喚が消費MP8.1に節約され、そのうえ『召喚疲労』により召喚中に少しずつ減少してゆくMPも節約してくれる強力なスキルだそうだ。

 【○召喚疲労軽減】は上記の『召喚疲労』によるMP減少を抑えてくれるスキル。これもいいな。


 そして俺がいちばん気になったのは、


「なあ【呪い】ってなんだ?」


 戦闘とか魔法、召喚に混じってえらく不吉な単語が並んでるんだが。


「呪いは相手に不利益をもたらす術のことにゃ」


「デバフってことか? 魔法とはどう違うんだ?」


「いちばんの特徴は詠唱を必要としにゃいことにゃ。クールタイムはあるけど、発動したいときにスキル名を念じるだけで発動できるにゃ。魔法より総じて効果範囲が広いことと避けられにくいのも特徴にゃ。あと魔法はMPを使うけど、呪いはMPを使ったりSPを使ったり種類によって様々にゃ。下級の呪いでも強力にゃものは多いから、習得しておいたほうがいいにゃ」


 【呪い】という響きはアレだが、ココナの話を聞く限り強そうだ。30カッパーと安価だし、買っておくかな……。コボたろうの助けになれるかもしれないし。


「あと呪いは魔法と比べて習得している人が極端に少ないにゃ。それと……呪いを持ってる人はパーティに誘われにくいにゃ」


「なんでだ? もしかして本人にも呪いがかかっちゃうのか?」


 もしそうだとしたら恐ろしすぎる。しかしココナは首を横に振って、


「呪いは悪くないにゃ。『呪いを習得できる人の性格に難がありすぎて、そもそもパーティを組まれない』にゃ」


 …………ええと……?



「呪いを習得できる人は闇を抱えているか、性格が陰険で陰湿な根暗野郎が多いにゃ」



 祝☆ついに異世界アルカディア・システムからも陰キャ認定されました!



 やかましいわ。

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