04-召喚モンスターが大好きで何が悪い
04-01-待ち合わせ、乙女心と春の空
平日における俺の起床時間は七時である。
以前、身体に良いとされる睡眠時間は七時間だという話をしたが、俺はそれを律儀に守っている。
モンハン (モンスターハンティング)新作が発売されてから初めての平日前夜、ちゃんと二十四時に眠った自分を褒めてやりたい。丸の内のOLのように自分へのご褒美に千円札が飛んでいくようなスイーツを買ってやりたい。
「んあー……」
だというのにクソ眠い。
朝に強い人間は、なにかコツのようなものでも知っているのだろうか。こんど、アッシマーあたりに訊いてみようか。
そんなことを思いながら歯をガシガシ磨く。
「んあー……」
……朝飯、まだ食ってなかった。
──
順番が前後したが、朝食のスティックパン (メープル)をはぐはぐしながら制服に着替えて家を出た。
「あっ……藤間くん、お、おはよう」
「んあー……おはようさん」
いつもよりすこし遅れてしまったというのに、またしても灯里と出くわした。偶然って怖いな。
「ふ、藤間くんは休日はなにをして過ごしたの?」
「ゲーム」
灯里の質問に、我ながらにべもなく答える。朝弱いから声出ないんだって。
「藤間くんってゲームする人なんだ。じつは私も亜沙美ちゃんに勧められて──」
灯里が言うゲームとは、バズドラとかRAINシムシムのような、いわゆるスマホゲー。スマホゲーを馬鹿にする気はさらさらないが、モンハンやペノレソナ、アトリエシリーズといったコンシューマゲーム、CIV5等のPCゲームをやり込んだ俺からすれば、
「私すぐやられちゃって……」
「ばっかそれじゃ相性悪いだろ。そのダンジョンに行くときはだな──」
しかしライトゲームにも精通してこそのゲーマーだ。灯里の話にもゲームならついていける。『ゲームなら』ってかなり寂しいなおい。
そして声が出ないと言っておきながらゲームの話だと声が出るってどうなの俺。
「それでね、それでね」
べつにゲーマーなわけでもないだろうに、灯里は楽しそうにゲームの話をする。俺は相槌を打ったり時折アドバイスをしながら、学校への道のりをゆっくりと歩いた。
──
「なー悠真、今日カラオケ行かね?」
「カラオケ? そうだな……亜沙美はどうする?」
「んー、香菜が行くなら行ってもいーけど」
「行こーぜ? 最近俺らあんまり遊んでないべー」
放課後。
ようやく今日の授業が終わった。
家でモンハンが待っている。
鞄を手に取っていそいそと立ち上がったとき、
「アッシマー! 藤間ー! あんたらもカラオケ行かない?」
高木がクラスの後ろのほうからとんでもない言葉を言い放った。
「ひうっ……! ご、ごめんなさい、また誘ってくださいっ」
アッシマーはよほど急いでいたのか逃げようとしたのか、どべべべべー! と廊下へ走っていった。
「あちゃー。藤間、あんたは?」
「あ、その、いや、わりぃ、遠慮しとく」
つーか行くわけねーだろ。アニソンと洋楽のハードロックとかメタルくらいしかわかんないって。なにより高木が俺を誘ったことで、カラオケを提唱したイケメンBとCがめっちゃいやそうな顔をしてるっつーの。
「んー、そっか。ならまたこんどね! んじゃどーする? 香菜はー?」
なんだよまた今度って。カラオケの時点で行かねえし、そもそもそのふたりがいる時点でどこへも行かねえわ。
そうして教室を出る前に、そういえば、と思い出して
「灯里」
「はっ、はいっ!」
窓際にある灯里の席に近づいて声をかけると、こっちがびっくりするほど驚かれた。急に話しかけてごめんね? 女子にRAIN送るのとか逆に緊張するからって声かけてごめんね?
「お前【
「え、っと……アルカディアのスキルブックのことだよね? LV1は習得したけどLV2はまだ……」
「こないだ拾ったんだけど俺もアッシマーも使えねえし、もしよければ貰ってくんねえか」
灯里は遠慮していたが、いつも砂を集めてもらってるお礼だと伝えると首を縦に振ってくれた。
「私、取りに行けばいいかな?」
「いや俺から言い出したことだしそれは悪い。どっかで待ち合わせとかできねえか」
「ま、待ち合わせ……!?」
え、なに。なんでそんな反応すんの。つーかみんな注目するからあまり大きな声を出さないでいただきたい。
「いやならべつに──」
「いやじゃないよ! わ、私、藤間くんと待ち合わせ……して、みたい、な」
そんな灯里の上目遣いにたじろいだ。しかしそんな心の揺らぎもほんの一瞬で──
「あ、え、あ、じゃ、じゃあアルカディアでの翌朝八時半くらいに噴水広場でいいきゃ」
「う、うんっ!」
はい嘘。一瞬とか嘘でしたー。めっちゃ動揺してどもりましたー。そのうえ噛みましたー。
灯里はなんというか、男を惑わす可愛らしさといじらしさを持っている気がする。俺みたいな永遠童貞男フォーエヴァーはコロっといってしまいそうだ。永遠って二回言ったな。
「藤間くんと待ち合わせ……え、えへへ……」
顔を真っ赤にした灯里から視線をずらすと、教室の後方からこっちを睨んでいるイケメンB、Cと目があった。
「暇なやつらだな」
「……? 藤間くん、なんて言ったの?」
「なんでもねえ。話しかけて悪かったな」
「えっ、えっ!? なんにも悪いことなんて──」
灯里の言葉を最後まで聞かず、鞄を肩に担いで廊下に出た。
『悪かったな』という言葉は、カラオケに誘うところを邪魔して悪かったな、とイケメンBCに向けた言葉だったのか、それとも俺と話すことで友人から見て格を落とさせた灯里に向けての謝罪だったのか──。
祁答院、灯里、高木、鈴原はもう格がどうとか俺のことをべつにどうこうしようと思ってないのはもうわかってる。
でもイケメンBCは俺に対して明らかな敵意を持っている。そしてこいつらは仲良しこよしの"オトモダチ"同士なのだ。
俺が自分の非を認めつつ、それでもこいつらを心のどこかで信用しきれないのは、あのふたりとつるんでるからなのかもな。
灯里や祁答院、高木や鈴原との絡みがあるたびに、後ろにイケメンB、Cがいるんじゃねえかって思ってしまう。
──あ、そうか。
あいつらが言っていた『格を落とす』って、こういうことなんだな。
「やり直しても相変わらず性格悪いな、俺」
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