03-18-そのひとことが言えなくて何が悪い
祁答院たちと別れ、ふたたびとまり木の翡翠亭。
「よっ……と。ふー」
「ぐるぅ……」
「んしょ……っと……」
三人がかりでなんとか運んだ荷物をようやく降ろして一息。役目を終えたコボたろうは俺たちにひと声かけたあと、白い光を放って消えていった。
オルフェの砂×140。
オルフェの白い砂×15。
そして──
──────────
《アイテムボックス》
容量10/10 重量10/10 距離1
──────────
コモンステッキ
オルフェのガラス×9
──────────
「えーと……”オルフェのガラスをこの作業台の上にそーっと置く”」
オルフェのガラスは俺が指示したとおり、台上にそーっと置かれた。
割れないように一枚ずつそっと取り出してゆく。コモンステッキで試したんだが、こうやって丁寧に取り出していかないと、かなり雑な感じで目の前に現れて落下してしまう。ガラスが落ちて割れたら大惨事だ。
じつのところ、すこし残念だった。
アイテムボックスがあれば無双できるんじゃね? と思ったんだが、そうはうまくいかなかったからだ。
まず俺はアイテムボックスが無限の容量を持っていると思っていた。しかし見ての通り容量10、重量10と決められている。
次いで革袋が収納できない点。いや厳密にはできるんだけど、中にものが入っていると、内容物も容量と重量に含まれてしまう。
だから、たとえば"オルフェの砂が三十単位入った革袋"をアイテムボックスに収納しようとすると、
──────────
《アイテムボックス》
容量10/10 重量10/10 距離1
──────────
革袋
オルフェの砂×9
──────────
アイテムボックスはこうなり、入りきらなかった残りのオルフェの砂×21はすべて地面にざーっと流れ落ちるのだ。
さらにいえば、この"距離1"がアイテムボックスの多面性をことごとく潰している。なんせ手で触れたものしか収納できないし、手のひらをかざしたごく近い距離にしかものを取り出すことができない。
だから例えば"敵コボルトの頭上10メートルからアイテムボックス内の岩を落とす』といった具合に攻撃に利用することはできないし、ものを貫通する能力もないから『触れた敵コボルトの体内にコボルトの槍を出現させる』というグロすぎてあまりしたくない攻撃方法もできない。
ようするに、この世界のアイテムボックスは"容量や重量の制約があり、ズルい使いかたはできない"ってことだ。
とくに容量制限が残念だが、しょうがない。コモンステッキを手に持たなくてもよくなったし、持ち運びに気を遣うオルフェのガラスや、ホモモ草といった副産物を分けて仕舞っておけるだけありがたい。
アイテムボックスに関してはそう思うことにして、リディアに癖をつけろと言われた、帰還後ステータスの確認だ。
俺の予想はSP5のMP8。──どうだ?
──────────
藤間透
LV1/5 ☆転生数0 EXP2/7
HP10/10 (+5) SP8/12 MP6/11
▼─────ユニークスキル
オリュンポス LV1
召喚魔法に大きな適性を得る。
▼─────パッシブスキル
──LV3──
採取
──LV2──
器用
──LV1──
☆アイテムボックス、〇採取SP節約 (+1)、SP、MP、技力、
召喚、逃走、歩行、運搬、草原採取、
砂浜採取、砂採取
▼─────装備
コモンステッキ ATK1.00
コモンシャツ DEF0.20 HP2
コモンパンツ DEF0.10 HP2
コモンブーツ DEF0.10 HP1
☆ワンポイント
採取用手袋LV1
──────────
全然違うじゃねえか。
「あーそうか。【〇採取SP節約LV1 (+1)】のおかげか」
節約スキルとダンベンジリのおっさんから貰った☆ワンポイントのおかげで、SPが思ったよりも減っていない。でもなんでMPはこんなに減ってるんだ……?
首を傾げる俺の背に、アッシマーの声がかけられる。
「アイテムボックスを使ったからではないですか?」
「えっ、アイテムボックスって魔法なのか?」
「違うんですか? わたしからしましたらどう見ても魔法でしたけど」
アイテムボックスって魔法なの? しかしたしかにそう考えればこのMPの減少も理解できる。……まあもっとも、俺がまだ自分の体調とステータスの因果関係をきっちりと掴めていないだけかもしれないが。
あとでリディアかココナに訊いてみるか……。
俺はまず、自分のSPとMPを回復させなければならない。そのあとコボたろうを召喚し、さらに消費したMPの回復だ。
─────
《錬金結果》
─────
オルフェの砂×2
─────
錬金成功率 67%
アトリエ・ド・リュミエール→×1.1
錬金LV3→×1.3
幸運LV1→×1.05
↓
錬金成功率 100%
↓
↓
↓
オルフェのガラスを獲得
─────
俺が休憩しているあいだ、アッシマーはステータスモノリスで自分のSPとMPの残量をこまめに確認しながら、次々と袋の中の砂をガラスへと変えてゆく。完成したガラスを十枚ずつひとまとめにして積んでゆく。
仕方のないことだと自分に何度も言い聞かせるが、俺がこうやってのんびりしているのにアッシマーが必死こいて頑張ってるのってやっぱり悪いよな……。
「な、なあアッシマー、なんか手伝うことないか?」
「ふぇ? 藤間くんもう全回復したんですか? コボたろうは出さないんですか?」
アッシマーはきょとんとした顔をこちらに向ける。
そりゃそうだ。俺は自分の回復をいまかいまかと待ち続けているのに、アッシマーを手伝って回復が遅れれば本末転倒だ。
「あ、いや、なんでもねえ……」
「??」
まるで繋ぎ止めるために伸ばした腕を下ろすように、しかし俺のつまらないプライドが口に出させた言葉は、
アッシマーはこの状態をどう思っているのだろうか。
自分以外の心の
──なあアッシマー。一週間経ったら……明後日の昼になったら、どうするつもりなんだ?
そんなこと、訊けるわけがない。
拒絶の
ならば言うべきなんだ。俺から。俺の口から。
──どこにも行かないで。
そのひとことが言えない。
拒否の
なあ、アッシマー。怖い、怖いよ。
お前が俺を拒絶するんじゃないかって。
あれだけ優しかったお前が、ほかのやつらと一緒な顔をして、俺を捨てるんじゃないかって。
そのひとことが、どうしても言えなくて。
「あんまり無理すんなよ。お前のペースでいいからな」
だからせめて、強がって。
情けなく、見苦しく、十五年ずっとほしかった言葉が、涙の代わりに口からそっと零れ落ちた。
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