03-17-アッシマー無双・猛将伝

 砂浜にみっつの木箱。祁答院たちとコボたろうの汗の結晶だ。


「お楽しみタイムだねー♪」


 鈴原がうきうきと木箱に近づいて、しかし「あれー?」と首を傾げた。


 ようやく足腰が正常に戻った俺も近寄って確認すると、


──────────

《木箱開錠》

マイナーコボルト

──開錠者→開錠率──

足柄山沁子→91%

鈴原香菜→88%

祁答院悠真→48%

──────────


「香菜どーしたん? って、アッシマーあんた、箱開けれんの?」

「は、はいぃ……」


 みっつの箱すべてこの表示だった。


「あれ……俺らの箱ってコボたろうの倒したこのひとつだけじゃないのか?」


「なに言ってるんだい藤間くん。六人とコボたろうのパーティで三体のモンスターを倒したんじゃないか」


「そういう判断になるのか……」


 マイナーコボルトが持つ経験値は2らしく、前回はそれを俺とアッシマーで1ずつ分配したが、今回は三体のマイナーコボルト──合計6の経験値を六人で分配し、ひとりあたり1経験値になった……そういうことらしい。

 ちなみに今度こそコボたろうの経験値が『1/3』になっていて、ほっと息をついた。


「ウチが言ってるのはそうじゃなくてー。足柄山さんの開錠率が高くってびっくりしたのー。足柄山さん、箱ふたつ任せていいー?」


「は、はいですっ……! なんならわたくしめが全部やりますですっ……!」


 未だ恐怖が残っているのか、ただ緊張しているだけなのか、アッシマーの喋り方がおかしい。


─────

《開錠結果》

─────

開錠成功率 72%

アトリエ・ド・リュミエールLV1→×1.1

開錠LV1→×1.1

幸運LV1→×1.05

開錠成功率 91%

成功

─────

アトリエ・ド・リュミエールLV1→×2.0

幸運LV1→×1.1

66カッパー

コボルトの槍

【☆アイテムボックスLV1】を獲得

─────


「はわわわわ……! レア! なんかレアがでちゃいましたぁ……!」


 開錠者ではない俺の目からも見える報酬ウィンドウ。


 うっお、アイテムボックスってあれじゃねーの? リディアとかダンベンジリのおっさんが使ってる、なにもないところからアイテムを取り出したりするやつだろ?


「あ、あれー? ねーねー、この【アトリエ・ド・リュミエール】ってなにー? 中身がいつもの倍くらいあるんだけどー」


 鈴原は鈴原ではわはわしている。灯里がもしかして、と首を捻って、


「足柄山さんのスキルってこと……かな?」


「は、はいですぅ……」


「マジで? アッシマーすごくね? うっわこっちのにもめっちゃ入ってんじゃん」


 高木の言う通り、アッシマーの開けたもうひとつの箱には66カッパー、コボルトの槍、【○幸運LV1】、コモンメイス、コモンシールドと大量に入っている。この箱マジで大量だな。



──────────

《Reward》

──────────

1シルバー98カッパー

コボルトの槍×3


【☆アイテムボックスLV1】

【〇幸運LV1】

【技力LV1】

【遠泳LV1】


コモンメイス ATK1.00

コモンシールド DEF0.30

──────────


「たった三体のコボルトからこれか……」

「あはは……いつもはお金のほかにアイテムがひとつあるかないかだもんね」


 アイテム量を見て、祁答院も灯里も整った顔を驚きに染めている。

 木箱から出たアイテムが汚れないよう、砂の上に敷かれた白く大きな紙の上に次々と載せられてゆく。


 そんなこいつらの反応を見る限り、アッシマーのスキル【アトリエ・ド・リュミエール】で増えるのは、やはり金だけではなくアイテムもらしい。 



「ねーねー【〇幸運LV1】って光ってる人いる? 足柄山さんはもう持ってるんだよねー?」


 鈴原の言う『光っている』について説明すると、

 スキルが習得可能な場合、スキルブックは白く光る。習得不可能な場合は薄暗い影がさし、習得済みのスキルブックには《習得済み》とウィンドウが律儀に表示されるのだ。


 鈴原の言う【〇幸運LV1】は薄くかげっているから俺は習得不可能だ。【技術LV1】は《習得済み》表示。【遠泳LV1】は白く光ってるけど要らない。使うシチュエーションが想像できない。


 もうひとつ淡く光るスキルブック。

 【☆アイテムボックスLV1】。


 ほしい。


 【運搬LV1】スキルで気持ち楽になったし、時間さえ忘れなければコボたろうも荷物を持ってくれる。

 それでも、オルフェの砂の入った袋は重くてキツかった。


 いやだってアイテムボックスだよ? 異世界ファンタジーの王道じゃねえか。


「やったー! じゃあウチ【〇幸運LV1】もらうねー?」

「ねー、この【技力LV1】ってやつどーなん? 読める人いる? はーい。……もしかしてこれあたし貰っていい系のやつ? ラッキー!」

「私、コボルトの槍をもらっていい……かな?」

「俺も槍をいいかい? 【遠泳LV1】はさすがに要らないな……」


 それぞれがそれぞれに、敷かれた紙の上から欲しいものを手に取ってゆく。なんつーざっくりとした分配方法だよ。……でもこういうのって、どうやって分ければ公平なんだろうな。


「藤間とアッシマーも選びなよ。つっても結構減っちゃったけど……。もしかして【技力LV1】狙ってた? 大丈夫、まだ読んでないからジャンケンしよ」


「あ、いや、それ以前に貰っていいのか?」


「わたしもですぅ……。経験値だけ吸っちゃいました……」


「いや良いに決まってるじゃん。コボたろうは藤間の召喚モンスターなんでしょ? それにアッシマーが居なかったらこんな大量にアイテムも出なかったんだし」


「亜沙美ちゃんの言う通りだよ。変に遠慮しないでね?」


「足柄山さんもー。開錠って結構SP使うでしょー? ふたつも開けてくれたんだから気にしないでー?」


 やっぱりこいつらはあれだ。

 一時期口が悪かったりしたが、ぶっちゃけそれは俺のせいでもあって、根っこは良いやつなんだよなあ……。


 遠慮がちに手を伸ばす。


「そ、その。……【☆アイテムボックスLV1】って読めるやついるか?」


 いちばん良いもの──唯一のレアを欲しがることに抵抗はあったが、ここまで残っているってことは誰も読めないってことだろう。

 しかし、おずおずと挙がる手。


「よ、読めますっ」

「お前かアッシマー」


 こいつも遠慮してたパターンか。


「まあべつにお前ならどっちが持ってたってあんまり変わんないしな。俺はこの先のためにコボルトの槍でも……」


「ちょっと待ってください! もしかして藤間くんも読めるんですか?」


「まあ読めるけど」


「それなら藤間くんが使ってくださいよぅ……。いっつも重い荷物持ってるんですから」


「あー……たしかに俺が習得したほうが効率いいな。んじゃ貰うわ」


「はいっ。わたしはこのコモンメイスとコモンシールドを頂いてよろしいでしょうかっ」


 そういやアッシマーって武器持ってなかったよな。

 俺のコモンステッキみたいに最初から持ってる武器ってなかったのか?


「もちろん構わないよ。じつは、コボルトの槍が何本あっても足りなくてね。俺たちはこっちのほうがありがたいよ。香菜、俺たちよりも一~二本少ないはずだろ? どうだい?」


「えっいいの? やったー! ありがとうみんなー」



 ……そういやコボルトの槍って、レベルアップに必要だって以前祁答院が言ってたな。俺たちもそのうち集めないとな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る