03-15-藤間透がダンジョンに潜らなくて何が悪い

 一夜明けて、アルカディアの朝がやってきた。


 ……現実? ああ、最高の一日だった。土曜日だから授業がなくて、部活動にも入っていない俺はスティックパン (いちごミルク)を一日かけてはむはむしながら、昨日購入したモンハン (モンスターハンティング)をずーーーーっとやってた。下位をクリアしていまから上位ってところで力尽きた。最高の休日じゃねえか。


「藤間くん藤間くんっ、わたし思ったんですけどっ」


「んあー……お前相変わらず朝から元気な」


 土日くらいゆっくり寝ていたいもんだが、たぶんアルカディアには土日なんて関係ない。自分で決めた日が休日なのだ。


「やっぱり採取、わたしも行っていいですかっ」


「なんでだよ。素材はたくさんあるだろ……ってあれ?」


 昨晩は八十単位あったはずのオルフェの砂がきれいさっぱりなくなっている。あれ、俺が朝の採取に行っているあいだに錬金と加工をしてもらおうと思ってたんだが。


「藤間くんが寝ているあいだに終わらせちゃいましたよ? ……ほら」


 アッシマーが自分のベッド脇にあるストレージボックスを開き、ずらりと並んだオルフェのビンを見せつけてくる。


「マジかよ。お前いつも何時に起きてんの?」


「だいたい四時半ですかね? 今日は四時過ぎでしたけど」


「午前四時半って夜じゃねえか。お前いつ寝てんの?」


「藤間くんらしい台詞ですねぇ……。四時は明け方ですよぅ?」


 つまり俺が起きる七時までに錬金も加工も休憩も終わらせてしまい、さらには朝飯の調達とシャワーまでこなしてしまうということだ。


「眠くなんねえの?」


「疲れたり眠かったりしたら昨日みたいに仮眠をとらせていただきますから平気ですっ。というわけで行きましょう!」


 アッシマーがやる気満々だ。昨日の朝もそうだったが今日はなおのこと満々だ。


 ぶっちゃけアッシマーが採取をしてしまうと採取しかできない俺の立場がなくなるんだが、そんな女々しすぎる心境を吐露とろするわけにもいかず、かといって断れるだけの材料も持たない俺は、ただ頷くしかなかった。


 ココナの店でオルフェの白い砂を一袋売り、2シルバーと革袋を手に入れる。その金で俺に新しく生えた【召喚時間LV1】を50カッパーで、アッシマーのスキルブック【HPLV1】【SPLV1】【MPLV1】【防御LV1】、そして新しく生えた【開錠LV1】を1シルバー50カッパーで購入した。


 【召喚時間LV1】というのは召喚モンスターの活動時間を10%延長し、

 【開錠LV1】はモンスターの木箱開錠率を10%上昇させるスキルだ。


 せっかくコボたろうが頑張っても箱が開けられなかったら喜びも半減だ。


──────────

藤間透

LV1/5 ☆転生数0 EXP1/7

HP10/10(+5) SP12/12 MP11/11

▼─────ユニークスキル

オリュンポス LV1

召喚魔法に大きな適性を得る。

▼─────パッシブスキル

──LV3──

採取

──LV2──

器用

──LV1──

〇採取SP節約(+1)、SP、MP、技力、召喚、

召喚時間、逃走、歩行、運搬、草原採取、

砂浜採取、砂採取

▼─────装備

コモンステッキ ATK1.00

コモンシャツ DEF0.20 HP2

コモンパンツ DEF0.10 HP2

コモンブーツ DEF0.10 HP1

☆ワンポイント

採取用手袋LV1

──────────


──────────

足柄山沁子

LV1/5 ☆転生数0 EXP1/7

HP7/7(+5) SP16/16 MP8/8

▼─────ユニークスキル

アトリエ・ド・リュミエール LV1

全ての非戦闘スキルに適性を得る。

アイテムの使用に大きな適性を得る。

モンスターからの報酬が増加する。

▼─────パッシブスキル

──LV3──

調合、錬金、加工

──LV2──

──LV1──

○幸運、SP、器用、逃走、歩行、

採取、開錠

▼─────装備

コモンシャツ DEF0.20 HP2

コモンパンツ DEF0.10 HP2

コモンブーツ DEF0.10 HP1

採取用手袋LV1

──────────


 コボたろうは変化無し。【警戒LV1】を購入しようか迷ったが、移動時は【歩行LV1】、採取中は【器用LV1】、戦闘時は【槍LV1】か【防御LV1】をセットするだろうから見送った。


 ステータスを確認後、三人揃って東門からいつもの採取場──砂浜へ。


 しかし遠目に見える砂浜はなにやら様子がおかしい。近づいてゆくと──


「げ……帰ろうぜ……」


 なんか滅茶苦茶混んでる。

 いつもは人が多くても十人程度なのに、今日は百人以上いる。しかも俺たちのようなコモンシャツやボロギレ連中ではなく、銅や銀の装備に身を包み、大剣や斧を背負った強そうな冒険者風の人間ばかりだ。


「やあ」


 そのなかに知った顔があって、それが祁答院悠真けどういんゆうまだと気づいたときにはもう声をかけられていた。


 祁答院がいやなやつじゃないってことはもうわかってる。そう思うことすら失礼なくらい、いいやつだってこともわかってる。

 だから、ずっと酷いことを言ってきたという引け目があるし、それを呑み込んだとしても、祁答院の後ろにはイケメンBとイケメンCが控えてるんじゃねえかと探ってしまう。


「お、おう。……なんだこの人混み」


 祁答院の後ろに灯里、高木、鈴原しかいないことに胸を撫で下ろしてそう問えば、祁答院は嬉しそうに答える。


「今朝ギルドで新しいダンジョンが三つも出現したと聞いてね。俺たちにも手伝えることがないかとここに来てみたんだけど……どうやら"コラプス"じゃないみたいだから、俺たちの出る幕じゃないみたいだね」


「コラ……? つーかもしかして、この砂浜にダンジョンができちまったのか?」


「そうみたいだよ」


「マジかよ……」


 なんでもモンスターの"瘴気"が集まるとダンジョンが生み出されるらしい。おっかしいなぁ。草原なんかよりまだ砂浜のほうがモンスターが少なくて安全だったのに。


 つーかこいつすげえよな。

 『ダンジョンができたから手伝えることがないか?』……マジですげえわ。俺なんて誰かさっさと攻略してくんないかなー、なんて思ってるからね。


 ちなみにダンジョンはボスを倒すか一番奥にある『ダンジョンオーブ』を破壊すれば消滅するらしいんだが、消滅時には大量のアイテムをドロップするらしく、それを狙った冒険者たちがこうして集まっているそうだ。


「じゃあ俺たちもいくぞっ!」

「準備はいいかっ! 俺たちも突入する!」


 十五~二十人くらいのパーティが『砂浜の中央にできた下り階段』へ消えてゆく。二パーティ、三パーティと突入していくと、みるみるうちに砂浜がいてゆく。


 ラッキー。採取ができそうだな、とアッシマーとコボたろうを振り返ると、


「……なにしてんだお前ら」


 コボたろうが灯里と高木と鈴原にでられていた。

 コボたろうは顔をあかくして俺に救いを求める目を向けていて、その隣にいるアッシマーもなぜか囲まれるだけで朱くなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る