03-12-誰かに否定されないぶん

 防具屋でコボたろうの装備を購入した。コモンシャツ30カッパー、コモンパンツ30カッパー、コモンブーツ40カッパー。


「俺とおそろいだな、コボたろう」

「がうっ♪」


──────────

コボたろう (マイナーコボルト)

消費MP9 状態:召喚中

残召喚可能時間:37分

──────────

LV1/5 ☆転生数0 EXP0/3

HP15/15 (+5) SP10/10 MP2/2

▼─────装備

コボルトの槍 ATK1.00

コモンシャツ DEF0.20 HP2

コモンパンツ DEF0.10 HP2

コモンブーツ DEF0.10 HP1

──────────


 茶色の服に茶色のズボン、そして茶色の靴。上下俺と一緒だ。


 そしてもうひとつ、防具屋でコボたろうが俺にねだったものは──


《コボたろうが【器用LV1】をセット》

《コボたろうが『採取用手袋LV1』を装備》


 いつもの砂浜。

 コボたろうと一緒にオルフェの砂採取だ。


「コボたろう、無理すんなよ。お前のペースでいいからな」


「が、がうっ」


 どことなく緊張した様子のコボたろう。失敗すると素材をロストするアッシマーの調合や錬金と違い、採取に失敗しても、失うものなんて体力くらいだ。


 そう伝えるが、コボたろうは緊張の面持ちのまま砂に膝をつけ、採取を開始してしまった。


「がうっ! ……がうっ!?」


 一生懸命白い光に手を伸ばすコボたろう。勢い余って砂に掌底をかましてしまい、砂塵さじんが舞う。


「が……がうっ!? ……はうっ!」


 動きは遅くない。むしろ俺より速いかもしれない。

 しかし、白い光が現れるたびに驚いて、一箇所にだけ意識を取られているような感じがする。


 ……まあ、一生懸命しっぽを振りながら採取をする後ろ姿が可愛いから、俺は満足である。


──────

《採取結果》

──────

 9回

 ↓

 9ポイント

──────

 判定→X

 獲得無し

──────


「くぅーん……」


「まあ最初はそんなもんだ。慣れるまでは成功とか素材とか気にしなくていいから、白い光の動きを覚えることを優先したほうがいいぞ」


「がうっ」


 最初だし、なによりもコボたろうは周囲を警戒しながらの採取だ。

 そもそも得られる素材なんかよりもコボたろうと一緒に作業ができることがうれしい。


 ──さて、見てるだけじゃなくて俺も頑張らねえとな。


──────

《採取結果》

──────

 37回

 採取LV3(+1)→×1.4

 砂浜採取LV1→×1.1

 砂採取LV1→×1.1

 ↓

 61ポイント

──────

 判定→A

 オルフェの砂×2

 オルフェの白い砂×2

 オルフェのガラスを獲得

──────


 ダンベンジリのオッサンから貰った『☆ワンポイント』がマジでありがたい。

 満足できるような採取内容じゃなかったが、結果には満足だ。


 しかしよく考えたら、☆ワンポイントの力で【採取LV3】のLVを1上げるより、SPと器用の両方が上昇する【技力LV1】を上昇させたほうがよかったのではなかろうか。高いレベルのスキルを上げたほうがお得だろうと思ったが、採取補正の倍率を上げるより、そもそも白い光をタッチするを増やした方がいい気もしてきた。


 【〇採取SP節約LV1】というアンコモンスキルも習得したし、上昇させるスキルを変更できる12時間後……明日はもう少し考えてスキルを設定しよう。


──────

《採取結果》

──────

 15回

 ↓

 15ポイント

──────

 判定→X

 獲得無し

──────


「がう……」


「落ち込まなくていいって。むしろ良くなってきてる。左上の端が光ったら高確率で右にスライドしながら五連続で光るから、そこがチャンスだぞ」


「がうっ!」


 自分の採取を行ない、休憩がてらコボたろうを見てアドバイスをする。さすがにいつものようにハイペースで素材は集まらないが、いつもより疲れない。


──────

《採取結果》

──────

 19回

 ↓

 19ポイント

──────

 判定→X

 獲得無し

──────

 

「うぉお惜しい!」

 

「くぅーん……」


 コボたろうは素直に俺のアドバイスを聞き、じわじわと良くなってきていた。


「さっき教えた左上から右上の五連打あるだろ? ちょっと難しいかもしれんけど、そのときだけでも両手で交互に叩けるといいな……ほら、こうやって」


 左手、右手、左手、右手──最後の右上だけは左手を伸ばせばロスになるから右手。


「ぐるぅ……」


 コボたろうは俺と同じようにひざまずき、何もないところで両手を使う練習をはじめた。


「そうそうそんな感じだ。コボたろうは左端に白い光が現れたとき以外、基本的に右腕しか使ってないだろ? それじゃあもったいないんだ」


「がうっ!」


 「よしっ」と気合を入れ、コボたろうは採取ポイントに跪いた。


──────

《採取結果》

──────

 21回

 ↓

 21ポイント

──────

 判定→E

 オルフェの砂を獲得

──────


「おーすげえ……! やったなコボたろう」


「がうっ!」


 マジックバッグにコボたろうの採取したオルフェの砂が入る。



 不思議だな。



 そのことが……こんなにもうれしい。


 人はそれを成長と呼ぶのだろうか。

 自分以外の誰かを遠ざけ続けた俺がこんなふうに思うことを、心の成長だと。


 でもそれは、孤独を強さだと思いながら生きてきた、これまでの俺を否定することになるのではないか。


 成長だけではなく、これまでの俺と一部を捨てて、捨てたぶんだけ新しい俺を迎え入れる行為なんじゃないのか。



 俺は、俺だけは、俺を否定しない。



 そうやって生きてきた俺は──



『友達になろう!』

『歩道側、譲ってもらうの初めて……。嬉しい、な』

『でも、透だけは違ったな』

『ぐすっ、なんですぐ死んじゃうんですかぁ…………』

『がうがう!』



 誰かに否定されないぶん、ついに自分を否定しはじめていた。

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