03-11-あそこで祁答院の手を握っていれば

 少し休憩してからシャワーを浴び、ボロギレに着替えて仮眠をとった。

 寝ぼけ眼を擦ったとき、部屋には誰も居なかった。


 ステータスモノリスをタッチし、HP、SP、MPがそれぞれ満タンになっていることを確認すると、


《オリュンポスを起動》


「──来てくれ、コボたろう」


 杖を軽く木の床につけ、コボたろうを呼び出した。


「がうっ」


「よう。せっかく来てもらって悪いが、MPが回復するまで待機だ。また一時間くらいかかると思う」


「がうっ!」


 コボたろうには本当に申し訳ない。

 せっかく召喚されても、100分──【オリュンポス】の効果で110分か──のうち、60分は俺のMP回復待ちのための待機時間なのだ。


「コボたろうは……」


「がう?」


「その、正直に答えてほしいんだが……召喚されるのって、嬉しいもんなのか?」


「がうがうっ!」


 召喚されていないあいだは余程退屈なのか、必死に二度頷いて肯定する。

 そうなのか。いやもしも俺が召喚モンスターだったら、うっわまた呼ばれたよ面倒くせえ……って悪態のひとつでも吐いただろうな、って思ったんだよ。


 だから、コボたろうの返事を聞いて安心した。


 ……さて、休憩といってもどうしたものか。

 適当に横になったりコボたろうを撫でて時間をつぶしていると、やけに聞き慣れた優しいビブラートが聞こえてきた。


「ふんふんふーん♪ ……あ、藤間くんおはようございますっ。コボたろうもおかえりなさい」


「がうっ!」

「おう……悪いな、寝てばっかりで」


 鼻歌を口ずさみながら帰ってきたアッシマーは首を横に振って「むしろ寝ててくれないと困っちゃいますよぅ」と少し困ったような笑顔を向けてくる。


「リディアは帰ったのか?」


「マンドレイクを採りに行くって言ってました。薬湯が二十本完成したのでリディアさんに買ってもらったんですけど構いませんよね?」


「ああ。助かる」


「そのお金で黒パンも買ってきましたよっ。コボたろうのぶんも買ってきたんですが、食べられますかね?」


「ぐるぅ……」


 コボたろうの反応はどっちつかず。「食べられるよ!」でもなく「食べられません!」でもない。


「食えんこともないが、黒パンは好きじゃないってことか?」


 コボたろうは横に首を振る。今度はアッシマーが顔を上げて、


「もしかして食べられるけど、召喚モンスターは食べる必要がないとか……?」


「がうっ!」


 どうやらアッシマーが正解らしい。なんだか悔しい。


「無理にとは言わねえが、せっかくアッシマーが買ってきてくれたんだし、一緒に食おうぜ」


「がうっ!」


 召喚モンスターであるコボたろうの分まで買ってきてくれたアッシマーに心のうちで礼を言い、三人でボリボリと黒パンをむさぼった。


 行儀よく正座して黒パンを噛み砕くコボたろう。うん、偉い。


 それにしても、犬は咀嚼そしゃくが苦手だってどこかで見たか聞いたことがある気がするが、コボたろうにはなんの問題もないようで安心した。


──


 カランカラン。


「うっす」


 宿の斜め向かいにあるココナのスキルブックショップを訪れると、店主が猫耳を揺らしながら笑顔で駆け寄ってきた。


「おにーちゃんとコボたろう! いらっしゃいだにゃー♪ 今日はどっちにゃ? おにーちゃん? コボたろう? それとも白い砂かにゃ?」


「砂はまだ貯まってねえ。俺の習得できるスキルが増えてないか確認しにきた」


 ココナは「はいはいにゃー♪」と机上のスキルモノリスを差し出してくる。それを受け取りながら、


「今日はこの石板、奥から取ってこないんだな」


「にゃふふ……おにーちゃんのお友達のユーマとかレニャレナとかアサミたちがたくさん買っていってくれたにゃー♪」  


 祁答院たちが来てたのか。……って。


「べつに友達とかじゃねえよ」


「そうなのかにゃ?」


「そうなんだよ」


 無愛想にそう返し、視線をスキルモノリスに落とす。罪悪感からか、最後に小さな声で呟いた「たぶん」という言葉はココナに届かなかったようで安心した。


 つーか友達ってなんだよ。体育の授業──あそこで祁答院の手を握っていれば、友達だったのかよ。


 友達ってなんだよ。ゲームとか漫画のなかでしか知らねえよ。どうしたら友達なの? 友達ってなにすんの? カラオケ行ったり、昨日みたいにスタバ行くの?


 わからねえ、と首を横に振り、思考をアルカディアに戻した。


 たしか俺のスキルはいま──


──────────

──LV3──

採取 (+1)

──LV2──

器用

──LV1──

SP、技力、召喚、逃走、歩行、

運搬、草原採取、砂浜採取、砂採取

──────────


 こんなんだったな。さて、特にMP関連スキルが新しく習得可能になってりゃいいんだけど……。


──────────

藤間透

2シルバー80カッパー

──────────

▼─────ステータス

SPLV2(UP) 60カッパー

MPLV1(New) 30カッパー

体力LV1 50カッパー


▼─────自動回復

☆SP自動回復LV1(New) 4シルバー


▼─────戦闘

戦闘LV1 30カッパー


▼─────魔法

▼─────生産

○採取SP節約LV1(New) 1シルバー

調合LV1 30カッパー


▼─────行動

歩行LV2(UP) 60カッパー

走行LV1 30カッパー

疾駆LV1 30カッパー


▼─────その他

冷静LV1 30カッパー

我慢LV1 30カッパー

覚悟LV1 50カッパー


──────────


 【MPLV1】が生えた。これは嬉しい。マストバイだな。


「たしかこの『〇』がアンコモンスキルで『☆』がレアスキルだったよな。強そうだけど高いな……」


「ちょっと失礼するにゃ。……ほんとにゃ。もうレアが習得可能になってるにゃ」


 ココナはあどけない表情に露骨な驚きを乗せたまま俺の顔を見る。


「……もう?」


「もう、にゃ。レアスキルは効果が強力なぶん習得可能になるまで相当の鍛錬か酷使が必要にゃ。おにーちゃんはこっちに来てまだ日が浅いにゃ。それなのに習得可能になってるってことは相当無理してるにゃ」


 ココナに言わせれば【☆SP自動回復】が早くも習得可能ってことは、SPを酷使して休憩で回復し、またすぐに酷使して──というサイクルを普通より短時間で勢いよく行なっているということらしい。


 ──ぶっちゃけ心当たりがないわけではない。昨日は過労死して、今日だって死にかけた。リディアやアッシマーにもつっこまれた。たしかにSPの上下は激しいかもしれない。


「まあどっちにしろ金が無くて手が出ない。今のところは【MPLV1】と【〇採取SP節約】をくれ」


 銀貨一枚と大銅貨三枚を渡す。これで残りは1シルバー50カッパー。


「毎度ありにゃん♪ ふにゃ?【SPLV2】はいいのかにゃ? コボたろうはどうするにゃ?」


「今回は見送る。装備とか買ってやりたいしな。……さんきゅ、また来るわ」


「ありがとにゃー♪」


 カランカランとスキルブックショップを後にしてコボたろうを振り返る。


「次は防具屋に行くぞ」

「がうっ!」


 今から砂浜でオルフェの砂の採取だ。コボたろうに靴を買ってやんないとな。

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