03-10-己をすてる恐怖よりも
我ながらなにやってんだって思う。
戻るだけじゃねえか。
たった五日前の、藤間透に。
誰かが俺を
強いってなんだよ。
強さってなんだよ。
決まってる。
誰にも依存することなく、ひとりで生きていける力のことだろ。
──だから。
だからアッシマーは、俺を弱くする。
祁答院も灯里も、高木も鈴原も。
リディアもココナも女将も、さっき別れたダンベンジリのオッサンも。
一週間だけのつもりだった。
調合ができるのならと、ひとりで生きるのがつらい序盤、アッシマーを利用するつもりだった。
……それだけ、だったのに。
アッシマーが調合した薬草や薬湯、錬金や加工を経て手に入れたオルフェのビンよりも、そんな云々を経過して得た金よりも、いまはアッシマーのほうが煌めいて見える。
言っておく。
もう一度言っておく。
これは、ときめきなんかじゃない。
これがときめきならば、恋ということになる。
恋ってあれだろ? したことないけど、頭を撫でたいとか、手を繋ぎたいとか、唇を
逢いたいとか逢いたくないとか、やっぱり逢いたいとか、
逢えない夜には貴女を想うほど~とか。
はっきり言っておくが、そんなんじゃない。
あいつのことを思っても、べつに頬は
でも、あいつと離れたくない──俺がそう思ってることは認める。
あいつじゃないと駄目なのか。それとも、人との関わりが無くなること自体が寂しくて、俺の胸を痛めているのか。
わからねぇ。
十五年も藤間透をやってきた俺に、答えなど見つかるはずもなかった。
──
「あっ、おかえりなさいです! よかったぁ、無事で」
「透おかえり」
「おう」
また過労死すればなにを言われるか分かったもんじゃない。ぶっ倒れる前に宿に帰還した。
「いま、砂浜へ透の様子を見にいくところだった」
「大丈夫だっつの……」
どんだけ俺死にやすいと思われてんの? なに俺ス〇゚ランカーなの?
「余裕ができたらでいい。これまたガラスにしておいてくれ」
「はいですっ。……うわぁ、こんな短時間でこんなに……」
アッシマーの「うわぁ」は素材がたくさん増えた喜びよりも、俺の無茶に対する抗議の色が多分に含まれているように見えた。
「砂の採取もだいぶ慣れてきた。【器用LV2】と【技力LV1】のスキルを習得したのがでかいな。明日にはAより上の判定が獲れるかもしれねえぞ」
むしろ今日だって獲ろうと思えば獲れただろう。しかしまあ、全力でやるとしんどいし、数をこなすほうが重要だって分かったからな。手加減。そう手加減だ。
「あ、あの……藤間くん、……あのですね……」
休憩する前に一度シャワーを浴びようとタオルを手にした俺に、アッシマーがおずおずと声を掛けてくる。
「ぁぅ……」
その声に振り返る。……しかしその後が続かない。アッシマーはもじもじとしたまま、その後を
「アッシマーがいえないならわたしからいう。透、採取から帰ってきたら、さいしょにステータスモノリスを確認するくせをつけて」
「癖?」
「そう。とくにSPもMPもすくないうちは危険。どこまでならがんばれるか。どこからが危険か。まいかい確認して、じこかんりして」
自己管理して。まるで休みがちなヘボ社員を叱る課長だ。事実として俺は何度も死んでるわけだから返す言葉もないが。
過保護にされている気がして少しつまらない気分になったが、リディアの言うことはもっともだ。俺だって死にたいわけじゃない。あっさり過労死するアルカディアでは、たしかに自己管理は大事だ。
「透。ふれる前に。いま自分のSPとMPはどれくらいだとおもう」
部屋に設置されたステータスモノリスに触れる直前、リディアに声をかけられた。
どれくらい。
まあ相当疲れてるけど、死にそうな感じはしない。
MPはさっきコボたろうを召喚した後、満タンになるまで休憩してから採取に出た。それからあの戦闘があって、その後コボたろうは召喚可能時間を迎えて召喚が解除された。
ってことは。
「SPが5/12、MPが10/10ってとこか。SPはイマイチよくわかんねえけど、MPは自信ある」
「そう。じゃあ確認して」
ようやくリディア大先生の許可がおりた。俺はステータスモノリスに手を触れる。
──────────
藤間透(ふじまとおる)
LV1/5 ☆転生数0 EXP1/7
HP7/10(+5) SP1/12 MP5/10
▼─────ユニークスキル
オリュンポス LV1
召喚魔法に大きな適性を得る。
▼─────パッシブスキル
──LV3──
採取(+1)
──LV2──
器用
──LV1──
SP、技力、召喚、逃走、歩行、運搬、
草原採取、砂浜採取、砂採取
▼─────装備
コモンステッキ ATK1.00
コモンシャツ DEF0.20 HP2
コモンパンツ DEF0.10 HP2
コモンブーツ DEF0.10 HP1
☆ワンポイント
採取用手袋LV1
──────────
「ぜんっぜん違うじゃないですかぁ……」
「あ、あれ? 嘘だろ?」
アッシマーにため息をつかれるが、この数値の理由に納得がいかない。
SPが1? 俺、ヘロヘロってこと?
MPが5って……なんで?
「透がここに帰ってきて5分くらいたつ。すくなくとも採取からこの部屋までもどるとちゅう、SPが0だったことはまちがいない。HPまでむしばむほど無理してる」
「なんでだよ……ぶっちゃけ力は抑えて採取したぞ。全力でやったら身体がもたねえと思ったから」
「さっき透は休憩もせずにでていった。いちどやすめばいいのに、わたしたちをふりきって」
「それは……そうだけど」
怒っているような顔をするリディアを横目にふらふらとベッドに腰かける。
SPが1? いやいや俺まだ動けるって。
ちょっと足がガクガクで腰が痛くて、頭はフラフラするし汗もダラダラで、いま座っちまったからしばらく立ち上がれそうにないけど、まだまだやれるって。シャワーで身体を綺麗にして少し休憩すれば──
「……藤間くんは」
「……あ?」
いまだに俯いていたアッシマーがようやく顔を上げた。なにかを
「藤間くんは、どうして自分を
……。
…………。
………………。
誰かが俺を
それで、わかった。
俺はもう、弱くなっていたのだと。
アッシマーに捨てられたくなくて。
きっとそれは。
俺が己を棄てる恐怖よりも。
アッシマーが、
どんな
どんな
どんな
どんな
それをほんのわずかに想像することすら、怖かったからなのだと。
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