03-04-コボたろう可愛すぎじゃね?

 アルカディアの朝。


「ふんふんふーん♪」


「んあー……」


「ふんふんふーん♪ 寝顔はこんなにかわいいのに、起きたらどうしてあんなに小憎こにくらしいんですかねー♪ ふんふんふーん♪」


 ご機嫌な鼻歌が近づいて遠のいてゆく。目を開けたとき、アッシマーはやはりステータスモノリスの前でふんふんやっていた。


「んあー……」


「藤間くん、おはようございますっ」


 寝ぼけまなこで半身を起こすと、アッシマーは俺とは対象的な、大きくくりっとした目をこちらに向けた。


「おはよーさん……」


「相変わらず朝はねぼすけさんですねぇ」


「んあー……しょうが……ねえだろ……」


 あー……寝るまでずっとやってたモンハン(モンスターハンティング)XXX(トリプルクロス)のことしか思い出せない。あー……新しい敵が出るたび、挙動がキツくなってくのなんとかなんねーかな。


「黒パンとお水、もう買ってきましたからねっ」


「んあー……いつも悪いな……」


「いえいえっ。準備が出来たら採取に行きましょう!」


 ……なんかやたらテンション高いな。

 いやいつもアッシマーは高いんだけど、なんつーか。


「いつにも増してやる気満々だな」


「えっ……そ、そうですかぁ? そんなことないですよぅ!」


 いや明らかにおかしいだろ。いつも悪いなって言ったけど、俺が起きる前に食料を買ってきてくれたことなんていままでなかった。まあそれは俺が金を管理していたからだったんだけど。


 そういえば昨日、


『生活費の2シルバーはわたしに管理させてくださいっ。そのほうが藤間くんもスキルブック代とか管理しやすいと思うので!』


 そう言ってきたので、任せたんだった。


「なあ、生活費っつーか、儲けも折半したほうがいいんじゃねえの? そのほうがアッシマーも好きなもの買えるだろ」


「だ、だめですよぅ……わたしは藤間くんに雇われている身ですし、いままで通りでいいですっ。むしろいままでがもらいすぎですので、思い出したころに、気まぐれでほどこしをいただけるくらいでいいのですっ」


 アッシマーはそう言って、ふんすと胸を張る。

 なんというか、こいつ、ほんと奴隷気質というか。


「つっても、お前と共同生活をすんの今日が五日目だろ? 一週間の雇用期間、もうすぐ終わっちまうぞ」


「ゔっ」


「いま女子が出しちゃ駄目な声が聞こえたんだが……まあアッシマーだしいいか……」


「ちょっとそれどういう意味ですか!? わたしなんかでもいちおう生物学上的にはメスですからね!?」


「なんて悲しい自己弁護……。アッシマー、俺が悪かった……」


「藤間くんは落ちこむところにも悪意がありますね!?」


 ぎゃあぎゃあと騒がしく、話が有耶無耶うやむやになってゆく。


 俺は雇用期間が過ぎたとき、どうするつもりなのか。

 アッシマーはどうするつもりなのか。


 わからない。



 でも、うやむやになった話題を蒸し返さない程度には、その答えを聞くのが怖かった。


──


 コボたろうを宿で召喚して休憩後、ココナの店でスキルを購入した。


 俺は【SPLV1】【器用LV2】【技力LV1】【召喚LV1】【歩行LV1】【運搬LV1】の6スキルで2シルバー50カッパー。


 アッシマーは【SPLV1】【器用LV1】【採取LV2】【錬金LV3】【加工LV3】【歩行LV1】【〇幸運LV1】の7スキルで4シルバー30カッパー。


 そしてコボたろうには【器用LV1】【槍LV1】【防御LV1】【歩行LV1】の4スキルで1シルバー20カッパー。



 ココナから聞いた新規スキルの説明をしておくと、


 【SP】はその名の通りSPを上昇させる。

 【技力】は【SP】と【器用】の複合スキルで、そのどちらの能力も補正する。

 【召喚】はあらゆる召喚魔法を有利にする。

 【歩行】は歩行速度を上昇させ、歩行中に減少するSPを緩和させる。有り体にいえば歩くのが速くなって疲れにくくなる。

 【運搬】は荷物を持ちながらの移動が楽になる。

 【槍】は槍の扱いが上手になり、

 【防御】はそのまんま防御力が上昇する。


 【〇幸運】だが、この『〇』っていうのは、アンコモンスキルのことらしい。

 ならアンコモンスキルってなんだよ、って話になるんだが、この世界のスキルはどうやら、


 コモン→〇アンコモン→☆レア→★エピック


 ──の順で強くなってゆくらしい。だから【〇幸運】ってのは、レアまではいかないまでも、無印のコモンスキルよりも貴重か強力なスキルってことだ。


 【〇幸運】の効果は、確率が絡んだ場合、上方に補正がかかるというものだった。


 アッシマーの場合、めちゃくちゃ有利になる。なぜなら調合、錬金、加工に確率が絡むため、そのすべてが上方修正されるのだ。もっと早く買っときゃよかった。


 それだけでなく、たとえばこの先、モンスターを討伐した際の木箱の開錠率、アイテムドロップ率、レアアイテムドロップ率も上昇するらしい。すげえなアンコモンスキル。


「にゃふふーん。ありがとうだにゃー♪ おにーちゃん太っ腹だにゃ♪」


 合計8シルバーの買い物をした俺たちに、ココナは幸せそうな顔を向ける。


「むしろ、いままで欲しかったもんを我慢してたのが爆発した感じだな。また来るわ」


「オルフェの白い砂もお待ちしてますにゃーん♪」



 店を出ると、アッシマーがはわはわしたまま声をかけてきた。


「は、はわわ……ふ、藤間くん、だめですよぅ……わたしまた、こんなに買ってもらってしまっては……」


「なに言ってんだ。俺は昨日、リディアから5シルバーの買いもんをしてるんだぞ。まだ全然足りないくらいだっつの」


「ふ……ふぇぇ……でもいいんですかぁ? わたしが管理してた生活費まで使ってしまいましたよ? 素材もホモモ草しかないですし、わたしたちの全財産、4カッパーなんですけど……」


 そう。俺たちは共同生活を開始してからはじめて、担保無しの生活費に手をつけた。


「今日の宿代はすでに払ってあるんだろ? なら朝飯も食ったし昼まで金は要らんだろ」


「そうですけど……藤間くんらしくないなって……だって藤間くん、お金に関してはいつも石橋を叩いて渡らないじゃないですかー……」


「おいこらせめて渡れよ。叩いたんだから渡れよ。……効率だ効率」


 たしかに、いつもの俺なら残す。生活費の2シルバーは残す。効率とか言ってもなんだかんだ残す。


 ……でも、しょうがないだろ。


 昨日、5シルバーもの大金を自分に使ってしまったんだから。

 それを取り返すようにアッシマーにも金を使いたかったんだから。


 でも、アッシマーはそういうのを好まない。すぐ恐れ入って、あわあわする。なら、自分のぶんも買わないといけなくなるだろ。


 そう考えているうちにコストオーバーしちゃったんだよ。

 ……絶対に言わんけど。


 まあともかく、俺たちの所有する現金は4カッパーになった。採取をして集めた素材でアッシマーに調合やらをしてもらわないと、昼飯すら食えなくなる。


 ……いや、マジで俺らしくないわ。



「行くか。コボたろう、自分でスキルをセットできるか?」

「がうっ!」


《コボたろうが【槍LV1】をセット》


 視界の端に表示されるメッセージウィンドウ。


「おー本当にできるな。偉いぞコボたろう。……でもな、まだここは街中まちなかだ。【槍】は必要ないぞ」


「が……がう?」


 俺の指摘にコボたろうはすこし焦ったような様子。そうしながら、


《コボたろうが【歩行LV1】をセット》


 「こ、こう……?」と、ちゃんと自分で正解を選んでみせた。


「そうだコボたろう。よくわかったな」


 頭を撫でてやると、コボたろうは安心した顔をして、


「くぅーん……」


 弱々しくそう鳴いた。やばい、コボたろう可愛すぎじゃね?

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