03-05-心の在処──しじまには程遠く

 宿の入り口でステータスモノリスに触れる。


──────────

藤間透

LV1/5 ☆転生数0 EXP0/7

HP10/10(+5) SP12/12 MP4/10

▼─────ユニークスキル

オリュンポス LV1

召喚魔法に大きな適性を得る。

▼─────パッシブスキル

──LV3──

採取

──LV2──

器用

──LV1──

SP、技力、召喚、逃走、歩行、

運搬、草原採取、砂浜採取、砂採取

▼─────装備

コモンステッキ ATK1.00

コモンシャツ DEF0.20 HP2

コモンパンツ DEF0.10 HP2

コモンブーツ DEF0.10 HP1

採取用手袋LV1

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足柄山沁子

LV1/5 ☆転生数0 EXP0/7

HP7/7(+5) SP16/16 MP8/8

▼─────ユニークスキル

アトリエ・ド・リュミエール LV1

全ての非戦闘スキルに適性を得る。

アイテムの使用に大きな適性を得る。

モンスターからの報酬が増加する。

▼─────パッシブスキル

──LV3──

調合、錬金、加工

──LV2──

──LV1──

○幸運、SP、器用、逃走、歩行、

採取

▼─────装備

コモンシャツ DEF0.20 HP2

コモンパンツ DEF0.10 HP2

コモンブーツ DEF0.10 HP1

採取用手袋LV1

──────────


──────────

コボたろう(マイナーコボルト)

消費MP9 状態:召喚中

残召喚可能時間:81分

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LV1/5 ☆転生数0 EXP0/3

HP15/15 SP10/10 MP2/2

▼─────特性スキル

マイナーコボルトLV1

 全身に武具を装備することが出来る。

 槍の扱いに適性を得る。

コボルトボックスLV1

 容量5まで収納出来るアイテムボックスを持つ。

▼─────パッシブスキル(スキルスロット1)

──LV1──

器用、槍、防御、【歩行】

▼─────装備

コボルトの槍 ATK1.00

ボロギレ(上)

ボロギレ(下)

▼─────その他補正

★オリュンポスLV1

召喚モンスターのLVに応じたスキルブックがセットできる。

全召喚モンスターの全能力、召喚可能時間→×1.1

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 二十分以上休憩したのに、MPが3しか回復してないのかよ。MP満タンになるのを待ってたら、あと四十分以上宿にいなきゃならない計算になる。


 ……まあ採取ならMPを使わないし大丈夫だろう。そう思いアッシマーから自分のステータスを隠すように閉じて、アルカディアの街へと三人ぶんの影をつくった。



 女将の言うことは本当で、コボたろうが街を歩いていても街の人たちは全然驚いた反応をしない。まるで普通の人を見るような反応だ。


 半信半疑だった俺たちは安心し、東門からオルフェ海岸──砂浜へ向かった。



 砂浜に到着すると、俺は大事なことに気がついてしまった。


「あ……しまった。コボたろうにコモンブーツを買ってやってねえ。……よかったら、俺のを履くか?」


「藤間くんいくらなんでもコボたろうへの愛が深すぎませんか!?」


 以前コモンブーツを履く前に砂浜へ来たとき、足裏の砂が熱くて採取どころじゃなかった。それにガラスとか散らばってていろいろと危ない。コボたろうのコモンブーツを購入するために街へ戻ろうと思ったが、俺たちの全財産は4カッパー。


「がうがうっ!」


 コボたろうは「平気だよ!」とでも言うように素足のまま砂の上で跳んでみせる。やはりコボルトのあしうらは人間よりぶ厚いのだろうか。

 同時に、先日の砂浜での戦闘を思い出す。


「でもなぁ……こないだのコボルト、ガラスが足の裏に刺さって痛そうにしてたしなぁ……。コボたろう、じゅうぶんに気をつけてくれ」

「がうっ!」


 散乱するゴミに注意しながら採取スポットへ向かう。ラッキー、今日は全然人がいない。


「あー、やっぱ【警戒LV1】を買っておけばよかったかな……。コボたろう、悪いけどモンスターが来ないか見ていてくれるか?」

「がうっ!」


 昨日、リディアからアドバイスをもらった通り。


 採取中にモンスターが現れてから召喚したのでは、MPの急速消費により、俺がふらふらになってしまう。

 だから前もって召喚しておいて、コボたろうが居てくれる110分の間に宿へ帰還する。

 そうすることで、俺は採取で金を稼ぎながら召喚に慣れ、【召喚】スキルや【MP】スキルの習得が可能になってゆく。

 リディアはこれを一ヶ月ほど繰り返せば、俺は駆け出しの召喚士になれると言った。


 でも、そんなに待てるわけがないだろ。


 召喚モンスターの華は戦闘にこそある。このままコボたろうを一ヶ月も警戒に専念させるなんて、可哀想だろ。


 だから、三十日を二十九日に。四週間を三週間に。三週間を一週間に。

 一日でも早く、一人前になってやる。


──────

《採取結果》

──────

39回

採取LV3→×1.3

砂浜採取LV1→×1.1

砂採取LV1→×1.1

61ポイント

──────

判定→A

オルフェの砂

オルフェのガラス×2

オルフェの白い砂を獲得

──────


「あれ、おかしいな……」


 べつに手を抜いたつもりはない。

 【器用LV2】と【技力LV1】を習得したにしては、効果が表れていない気がする。


──────

《採取結果》

──────

41回

採取LV3→×1.3

砂浜採取LV1→×1.1

砂採取LV1→×1.1

64ポイント

──────

判定→A

オルフェの砂×2

オルフェのガラス

オルフェの白い砂×2を獲得

──────


「はぁっ、はぁっ……! あれ、くそっ……」


 採取五回目。思うほど振るわない。いや、なんだろう。手は動くんだよ。昨日より。


 でも頭があまり働かなくて、すぐに疲れてしまう。


「藤間くん、しょうがないですよぅ……。昨日、リディアさんが言ってたじゃないですかぁ……」


 同じタイミングで採取を終えたアッシマーがこちらへ心配そうな顔を向けてくる。


「昨日まで藤間くんはMPなんて使っていなかったんですから。身体が召喚で消費したMPを回復するために一生懸命なんですよぅ……だからSPの自然回復が遅くて疲れちゃうって言ってたじゃないですかぁ……」


 あー。たしかに言ってた。

 言ってた、けど……。


 そんなの気にしてたら、いつまで経ってもっ……!


──────

《採取結果》

──────

27回

採取LV3→×1.3

砂浜採取LV1→×1.1

砂採取LV1→×1.1

42ポイント

──────

判定→C

オルフェの砂×3を獲得

──────


 いつまで……経ってもっ……。


 うずくまり、砂を殴る。

 採取九回目。ついにC判定まで落ちた。タッチは二十七回。【器用】や【技力】スキルを持たない高木や灯里より少ない。


「ぐるぅ……」


 コボたろうは本当にえらい。

 俺はモンスターを警戒しろって言っただけなんだ。


 なのに。



 コボたろうは、なにをしていたと思う?



 警戒しながら、砂浜に散乱するゴミを拾い集めていたんだ。


 

 誰だよ、召喚モンスターには自我が無いとか言ったやつ。

 最初は心が無いとか言ったやつ。



 これがコボたろうの心じゃなくてなんなんだよ。



 アッシマーは安定してC判定を獲り続けている。休憩をとっていないぶん、オルフェの砂を集めた数は俺よりも多い。


 負けて……られっかよ……。


──────

《採取結果》

──────

12回

採取LV3→×1.3

砂浜採取LV1→×1.1

砂採取LV1→×1.1

18ポイント

──────

判定→X

獲得無し

──────


「コボたろう、藤間くんをおぶってもらえますか? わたし、革袋を全部持ちますのでっ」

「がうっ!」


「ああっ、その革袋、一番重いやつですよぅ……。わ、藤間くんを担ぎながら革袋まで……コボたろうは力持ちですねぇー」

「がうがうっ!」


「んしょっ……と……。わわ、藤間くん、いつもこんなに重い荷物をひとりで持っていたんですか? 無茶ですよぅ……」

「ぐるぅ……」


 なん……だよ、これ。

 なんだよこれ。


 やめてくれよ。俺、まだできるって。


 恥ずいから。なあ、コボたろう、降ろして、くれよ。

 なあ、アッシマー、そんな重いもん、持ってんじゃ……ねえよ。


「……」

「……」


 俺の言葉は声になっているのかいないのか。ふたりとも応えてはくれなかった。


 なん……で、だよ。


 調合メインなのに、俺よりも砂を集めたアッシマー。

 自我を持たないはずなのに、警戒だけでなく、ゴミ拾いを自主的に行なったコボたろう。



 朝の静かな砂浜。心地よいはずの波音も、しじまには程遠く、いまはただ鬱陶うっとうしい。



 三人いるなかで、どう考えても俺だけがクズだった。

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