03-02-何体同時に召喚するつもりなんだよ

 パリピというのは、ものすごい回復力を持っている。

 何回殴られてもすぐ回復するクラゲ型スラ〇ムのようなもので、祁答院はすでにイケメンB、Cとの仲を修復していた。


「悠真テストどうだったー? 俺ボロボロ」


「わりと良かったよ。すこし課題が残る結果だったけどね」


「わりと良かったってどうなんだよー。……うっおクラス二位。悠真って頭もいいのかよ」


 つーかクラス二位ってマジかよ。あいつ俺より顔も性格も運動神経もいいのに、頭まで俺よりいいのかよ。

 俺が高飛車なお嬢様ならばハンカチを噛んで「いーっ!」としていたかもしれない。

 しかし俺はただの陰キャ。

 そんな真似をするはずもなく、休み時間をいつものように机に伏して過ごす。俺超クール。


「藤間藤間」


「……んあ?」


 弾んだような声に顔を上げると、声の主は校則息してる? と疑われるような長い金髪を持つ高木亜沙美だった。


「んだよ今日は名前間違えないのかよ」


「まーあたし天才だしね。んで藤間、テストどーだったん?」


 自慢じゃないが、俺は結構頭がいいほうだ (自慢)。中学だってクラスのトップだったし、進学校であるここのテストも無難に解けた。


 ──高木の目が言っている。

 「あんた昨日、あたしより頭いいって言ったよね」と。



「勝負」



 言いながら自分の成績表をぴらぴらとアピールしてくる。



「望むところだ」



 俺は高木と成績表を交換した。

 どちらが早いか、むさぼるようにクラス順位を確認する俺たち。


「ん?」

「あれ?」


─────

高木亜沙美

771/900点 5/32位

─────


「あれ?」

「なんだこれ」


─────

藤間透

771/900点 5/32位

─────


 ふたりとも5位……?


「はぁぁぁぁぁぁ!? あんたこんなに頭良かったわけ!? 藤木のくせに! ざけんな!」

「お前その見た目で頭良いとかどうかんがえてもおかしいだろ。つーか声でけえよみんなこっち向くだろあとついでにもう名前間違えてるんだけど」


 マジかよ……。友達いなくてやることないから勉強だけは得意だったのに……。どうみても外見ビッチと同じ点数……。

 

「藤木と同じ点数……」

「高木と同じ点数……」


 なんだよこれヘコむわ。そうとう失礼な落ち込みかたをしているが、どうやら高木も同じヘコみかたをしているようだった。


「あははー。二人とも仲いいねぇー」


「よくねーわ」

「よくねーし」


「あはは、ホント仲良し」


 やってきたのは鈴原香菜すずはらかな。高木や祁答院と同じトップカーストだ。


「香菜はどーだったん?」


「十六位。平均点はあったから良かったよー」


「なんつーか、あんたらしいね……」


 俺には鈴原らしいという意味がさっぱりだが、俺が言いたいことはひとつ。


「お前ら、他所よそでやれよ」


 ねえお前ら知ってる? この席、いま超注目浴びてんの。

 「なんで高木と鈴原が藤間と喋ってんの?」みたいな声まで聞こえるんだけど。


「まーまー。伶奈ー、アッシマー、あんたらもおいでー!」


「おい、ちょ」


 灯里が嬉しそうに立ち上がり、自分に声をかけられたことが信じられない様子でぴくりと肩を震わせるアッシマーの手を取ってこちらへやってきた。


「どうしたの?」

「はわわ……な、なんでしょうかっ……」


 灯里の登場で、より一層クラスの耳目が集まる。高木なにやってんのマジで。俺なんかよりよっぽど召喚士やってんじゃねえかこいつ。ちなみにアッシマーは灯里に繋がれた手に目をやって、はわはわ言っている。


「テストどーだった? あたしと藤間五位」

「あははー、あたし十六位ー」

「おうコラ待てやなんで人の順位勝手に公表してんだよ」


 とんでもない女だなおい。自分のならともかく俺の順位まで公表する必要ある? しかもこんなときに限って名前は合ってるのかよ。


「亜沙美ちゃん、そ、そういうのあんまりよくないと思うな……」


 灯里にはさすがに常識があるようだ。この調子で高木に常識を教えてほしいものだが、パッと見パワーバランスは高木のほうが遥か上。灯里が染められる側で、一年後にはギャル化しているかもしれん。


「え、なに? 伶奈あんた結果悪かったん? 見せてみー?」


「あっ……」


 机に置いておくのも危ないと思ったのか、成績表を持っていた灯里の手から高木はひょいとテスト結果を摘むと、


「は、はぁぁぁぁぁ!? 伶奈あんた一位ってマジ!?」


「こ、声っ……! 声大きいから……!」

 

 教室がざわめく。


「うお、一位灯里さんか……」

「頭良さそうだもんねー」


 そんな声が聞こえてくる。すげぇ、ひそひそ話のトーンが俺の悪口とは全然違う。悪意も妬みもなく、単純に羨望の声だ。


「アッシマーはどーだったん?」


「わたしは十九位ですぅ……」


 十九位。

 アッシマーは三十二人中、十九位。


「あの藤間くん……その、お前らしいなぁ……っていう目、やめてもらえると……」


「そんなん思ってねえし。中の下ってアッシマーらしいなぁとかべつに思ってねえし」


「まさかの追い討ち!」


 いやいや本当に思ってないから。ただまあ、俺よりアッシマーのほうが成績良かったら立ち直れなかったかもしれんとは思ったけど。……じゅうぶん失礼だな俺。


「ねー、悠真はどうだったん?」


 ざけんなマジでこいつ、何体同時に召喚するつもりなんだよ。祁答院はさっき二位って言ってただろ? 聞いてなかったの?


 祁答院が嬉しそうにこちらへ向かってくる。


 自分たちのもとから祁答院が離れると、イケメンBとCはつまらなそうにギアをいじりはじめた。

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